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量子スタートアップ ハードウェアの箙[*0]

 以下、各国・地域において量子コンピューター(あるいはプロセッサ等)を開発しているスタートアップについて整理した(従って、IBMやGoogle、マイクロソフト等の大企業は含んでいない)。基本的な情報ソースは、各社のWebサイトである。なお、イジングマシン・量子アニーラ・量子インスパイアード古典マシンは、対象としていない。
【1】どのモダリティに投資するか?
 各方式において、スケールアップに向けた歩みが、確実に進んでいるように感じる。米国のスタートアップは、(ほぼ)全ての方式を採用しているが、冷却原子(中性原子)方式が比較的多い。なお、例えば超伝導方式でも、各社(Google、IBM、Rigetti)が異なるサブタイプを採用しており、多様性に富んでいる。とはいえ、筆者がVClistなら、中性原子6割、量子光3割、シリコンスピン1割で、投資を割り振るだろう。
【2】ビジネスモデルとアプリケーション
 ビジネスモデルとしては、クラウド経由でリソースをオンデマンド提供して、対価を得るというモデルが主流である。クラウド業界1位のアマゾンAWS(量子コンピューターは、アマゾン・ブラケット)、2位のマイクロソフト・アジュール(量子コンピューターは、アジュール・クォンタム)での提供が、ほとんどである。逆張りのオンプレミス型を採用しているスタートアップ(IQM)もある。
 アプリケーションは、量子機械学習と物理系のシミュレーション(量子化学含む)に、集約されつつあるという印象を受ける。
【3】マネタイズ
 アーロンソン・アンバイニス予想を含めて、BQP問題の中で、如何にマネタイズするかが不明な状態は、ビジネス・デベロップメント的には、事業リスクが大きい状態である。事業開発のセオリーとして、事業リスクは最小化すべきである(加えて言えば、FTQCは技術リスクが極めて高い)。ということは、現状見えている範囲で、マネタイズを考えるべきということになる。具体的には、良く知られた素因数分解(→量子暗号分野でマネタイズ)などを除けば、物理系のシミュレーション分野ということになる。もちろん、ジョーンズ多項式(~各種の物理不変量)の計算で、マネタイズが見えていれば、話しは別である。
 アーロンソン・アンバイニス予想に関連する話題として、22年10月31日、IEEEの国際会議(Symposium on Foundations of Computer Science 2022)において、NTTが新しい量子アルゴリズムについて発表した(論文自体は、arXivにて、22年4月公開・6月更改)。周期構造を持たない出力関数を用いた問題に対し、量子優位性を示す量子アルゴリズムを考案したという内容である。量子優位性を示すアルゴリズムは、構造を持った関数を用いた問題に対してのみ存在するであろうというアーロンソン・アンバイニス予想の反例を示すように思えるが、arXivに投稿された論文(山川--Zandry論文)[*19]によると、そうではないようである。いずれにしても、マネタイズ範囲は広がったと考えられる。
【4】頭出し
 技術トピックスの頭出しとしては、少なくとも、測定型量子計算(一方向量子計算とも言う)、Hardware-efficientな誤り耐性量子計算(ボソニック符号)、があげられるだろう。文言であれば、transversal(ゲート)、魔法状態及び蒸留、SPAM(State Preparation And Measurement)、があげられるだろう。→文言に、損益分岐点(break-even point)を追加。損益分岐点を越えた!という論文他のレビューは、こちら
【5】量子シミュレータ
 万能計算が可能な、誤り耐性量子コンピューターの早期実現は難しいため、特定の課題に対処する量子シミュレータから実現させようという動きが活発になっている。それはモダリティ非依存で、(最適化問題を対象として)中性原子方式が先陣を切っていると思われる。量子光方式も例外ではない。
 ニールス・ボーア研究所(デンマーク)の研究者他は、㊀決定論的な単一量子光源と、㊁単一量子光領域でプログラム可能な量子フォトニックプロセッサ、を統合したデバイスを作成した、と発表した(23年5月12日)[*81]。㊀は、インジウムガリウムヒ素(InGaAs)量子ドットで作製。㊁は、シリカ絶縁基板上に(on Insulator)、単結晶ニオブ酸リチウム(LN)薄膜を接合して作製。このデバイスはギガ・へルツで動作し、900~950nmの波長範囲において伝播損失が低くなるように設計されている(900~950nmは、InGaAs量子ドットの典型的な発光波長)。加えて、高品質超電導ナノワイヤ単一光子検出器(SNSPD)との相性も良い。
【6】超高Q光共振器
 アールト大学(フィンランド)の研究者は、光共振器内で生じる、主要な損失(放射損失と吸収損失)が除去される、単純かつ一般的なメカニズムを発見した、と論文[*96]で発表した(23年8月)。損失の多い発振器を、最初は損失のない2つの光モードに結合することによって実現できる、という。2つの無損失モードの共振周波数が等しい場合、放射損失と吸収損失の両方が同時に抑制される。また、結合モードに対する明示的な対称性の要件はない。

【7】付記
(1)フラクソニウム fluxonium
 ❶ 米H/WスタートアップのAtlantic Quantumは、超伝導方式量子ビットにおいて最もポピュラーなトランズモンの代わりにフラクソニウムを使用している。これは、回路構成を工夫して、デコヒーレンスに対処するアプローチである。フラクソニウムは、トランズモンのジョセフソン接合に流れる電流を、ジョセフソン接合列からなる大きなインダクタンスでシャントした回路構造を持つ。その結果、エネルギー準位配置は、第一励起エネルギーと第二励起エネルギーが大きく異なる非調和性の強いものになる。また、この構造では量子ビットの励起周波数を低くすることができ、コヒーレンス時間延長や量子ビット(フラクソニウム)の制御統合の簡素化などにつながる(と該社は主張している)。
 ❷ スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ),ロシア国立科学技術大学,ロシア量子センター,モスクワ物理技術研究所,連邦国家単一企業ドゥホフ名称オートメーション研究所[*25],バウマン記念モスクワ国立工科大学の研究者は、「"調整可能なカプラ+フラクソニウム量子ビット"というアーキテクチャで、高忠実度の2量子ビット・ゲートを実現した」と発表した(npj Quantum Information、22年11月8日)[*26]。2量子ビット・ゲートはfSimゲートとCZゲートであり、忠実度は、99.55%及び99.23%であった。まだまだ低い。東芝は22年9月に、ダブル・トランズモン・カプラで、2量子ゲートに対して忠実度99.99%を達成できると発表している。ただ、いずれにしてもカプラは、超伝導方式で誤り耐性量子計算を実現させる、クラウンジュエルかもしれない。
 ❸ 独カールスルーエ工科大学の研究者は、フラクソニウム量子ビットにおけるジョセフソン接合の役割を「粒状アルミニウムの単一層」で実現した[*41]。この自己構造化粒状アルミニウム・ナノ接合は、超伝導材料中の微視的欠陥の強力な診断ツールとなるという。
 ❹ イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(及び、ラトガース大学、テキサス大学オースティン校)の研究者たちは、米陸軍研究局からUS$5.8milの資金提供を受けた(23年2月)[*51]。フラクソニウム量子ビット用モジュラーアプローチの研究開発を行う。期間は4年。「コヒーレンス時間とパフォーマンスを少なくとも10倍向上させることができる」と主張している。
 ❺ 加D-Waveシステムズは、フラクソニウムが(該社の)量子アニーラ用量子ビットとしても、(新たに開発すると噂されている)ゲート方式量子コンピュータ用量子ビットとしても、適するというプレスリリース[*94]を出した(23年9月13日)。
 ❻ スタートアップではないが、中国アリババが、フラクソニウム量子ビットを採用した量子コンピューターを作動させたとフィジカル・レビュー・レターに発表した(22年6月)[*24]。回路の工夫により、デコヒーレンス及びスケールアップに対処するというアプローチなので、エンジニアリング力が要求される。少なくとも、日本は遥かに凌駕されたことに間違いはないだろう。

(2)ユニモン unimon
 フィンランドのH/WスタートアップであるIQM Quantum Computers・(フィンランドの)アールト大学・フィンランド技術研究所(VTT)の研究者は、ユニモンという新しい超伝導方式量子ビットを提案した(Nature Communications、公開日22年11月12日)[*27]。なお、IQMはアールト大とVTTからのスピンアウト企業。フラクソニウムと同様に、回路構造の工夫でデコヒーレンスを防ぐというアプローチを採用する。
 フラクソニウムの回路構造がインダクタンスとジョセフソン接合の並列回路となっているのに対し、ユニモンの回路構造は、コプレーナ型導波路のコンダクタンス部分を「コンダクタンスとジョセフソン接合の並列回路」で置き換えた構造になっている。フラクソニウムとは異なり、磁束ノイズから保護されており、単一量子ビットのゲート忠実度を99.99%以上にするための有望な候補と主張している[*28]。2量子ビットゲートの忠実度が出ないことには、何とも言えない。

(6)フラワーモン
 ローマ大学他[*128]及びテラ・クォンタム(スイスの量子スタートアップ)は、flowermonフラワーモンと名付けた、新しい超伝導方式量子ビットを提案した(2023年8月10日@arXiv[*129]、24年1月5日@Physical Review Letters[*130])。フラワーモンも基本設計は、トランズモンと同じである。つまり、大きな静電容量によってシャント(分路、分岐)された回路を使用する。本質的な違いは、銅酸化物高温超伝導体をジョセフソン接合した量子ビットを用いることである。そして、高温超電導体(シート)同士を、角度を付けて重ね合わせるところに特徴がある。角度を付けることをtwistedと表現している。
 高温超伝導体の秩序パラメータはd波対称性を持つと考えられている。等方的なs波対称性と異なり、d波対称性は4つ葉のクローバーのような形をしている。4つ葉のクローバー状のd波対称性を持つ高温超伝導体シートをtwistして重ねることで、フラワーモンのジョセフソン・ポテンシャルは、2重井戸構造をとる。twistする角度が43°になると2重井戸が完全に発達する。この場合、最低エネルギーレベルは二重に縮退し、位相は2つの隣接する極小値の間をトンネルすることができず、対応する波動関数は2つのエネルギー井戸に局在する。つまり、エネルギー緩和(縦緩和、T1)及び位相緩和(横緩和、T2)が抑制されるという結果になる。言葉を変えると、コヒーレンス時間が改善されるという結果がもたらされる。
 高温超伝導体(d波対称性)を使って、コヒーレンス時間を改善するというアイデは昔からあったが、製造の複雑さと、その結果として生じる接合品質の低さが実用化を妨げていたらしい。技術の進歩により、Bi2Sr2CaCu2O8+x(Bi2212)結晶において、ほぼ完全な超伝導と格子構造を保存することが可能になったらしい。さらに、Bi2212の障害の主因である格子間酸素の拡散を制御できる新しい技術を使用することで、フラワーモンが実現した。ちなみに、twistした高温超電導体シートが花びらのように見えることから、フラワーモンと名付けた(と思われる)。
👉 例えばフラクソニウムは華々しく登場したが、大きな革新を起こすまでには至っていない。スターモン、コアックスモンあるいはユニモンも同様であるが、回路構造の工夫でコヒーレンスを長く維持するというアプローチには、限界がある(のだろう)。フラワーモンは、それらのアプローチとは一線を画す。素材(高温超伝導体)の特性(d波対称性)で勝負しているため、違いを出せるかもしれない。

(3)SPAM(State Preparation And Measurement:量子状態準備及び測定)
1⃣ 豪ニューサウスウェールズ大学の研究者は、量子ビットの初期状態準備及びリセットにおいて、エラーが存在する確率を1/20の1%にまで減らすことに成功した、と発表した(22年10月25日)[*40]。高速のデジタル電圧計を使用するが、やっていることは「マックスウェルの悪魔」と同じ、という。従来は、最も強力な冷凍機を使用しても、状態0の中に状態1が、20%混在した。
2⃣ Quantinuum及び理化学研究所・数理創造プログラムの研究者は、「振幅符号化によって、多変量関数の量子状態準備を効率的に行う、プロトコルを開発した」と発表した(npj[*163]@24年1月25日、ブログ[*164]@24年6月12日)。"多変量"が、訴求点の一つ。新しく開発したプロトコルでは、多変量関数を❶フーリエ級数あるいは❷チェビシェフ級数で近似する。ゲート複雑性(量子回路複雑性)において、❶→O(dD + Dn log d);❷→O(dD + Ddn log d)を実現した、と主張。ここでd=級数の次数、n=(物理)量子ビット数、D=データの個数。dが小さくて済めば(級数項が少なくても近似能が高ければ)、"効率的"と言える。

(4)qudit
 qubit(量子ビット)は2準位系で量子情報を扱うのに対し、qudit(量子ディット)は多準位系(高次元量子系)で扱う。量子計算のヒルベルト空間のサイズを大きくする、あるいは計算回路の深さを大きくするという「スケーリング問題」は、量子ビットの代わりに量子ディット、を用いることで緩和可能である。ただし、量子ディットの量子もつれ(エンタングルメント)は、高次元量子もつれであり、効率的な生成が難しくなる。
 墺インスブルック大学は、高次元量子もつれを効率的に生成することに成功した、と発表した(論文[*54]発表が23年4月19日)。具体的には、カルシウムイオン(40Ca+)が持つ最大5つの状態に、それぞれ符号化された2つの量子ビットをエンタングルさせることに成功した。代表的な幾何学的位相ゲートである「光シフトゲート」を使用する(幾何学的位相ゲートは特定のエラーに対して安定であり、ゲート忠実度が高いことが知られている)。特徴的なことは、1回のゲート適用で複数の量子レベル間のエンタングルメントを生成できた、ことである。

(5)"遠く"離れた超伝導回路間で量子もつれを確認
 スイス連邦工科大学チューリッヒ校の研究者は、30m離れた超伝導回路間で、「抜け道(loop-hole)を完全に塞いだ上で」ベル不等式が破れていることを確認したと発表した(23年5月10日、natureに論文[*58]公開)。つまり、量子もつれが維持されていることを確認した。モジュラーアプローチで超伝導方式量子コンピュータを実現するための、大きな一歩と捉えられている。

Ⅱ 個別整理

【0】日本 Go 2 米国 EU 英国 カナダ 豪州 その他地域 中国
(0) 概説
 HWを開発しているスタートアップはない→Nanofiber Quantum Technologiesが2022年に設立。いわゆる疑似量子コンピューターは、こちらを参照。
 大企業等の動向は、下記に整理した。
㊀ 日立製作所は、シリコンスピン方式の量子コンピューター(FTQC)を開発している。→23年6月の発表は、(1)3⃣を参照。
㊁ 富士通は、理化学研究所(理研)と共同で超伝導方式の開発を行っている(↓④)。加えて、オランダのQuTechと共同で、ダイヤモンドNV方式を開発している。
☛ 富士通と蘭デルフト工科大学(DUT)は、ダイヤモンド・スピン量子コンピューティングの研究開発を加速することを目的として、産学連携拠点「Fujitsu Advanced Computing Lab Delft」を設立したと発表した(24年1月25日)[*117]。DUT、QuTechと共同でダイヤモンド・スピン量子ビットを制御する電子回路を、極低温で動作させる技術を開発したらしい[*125]。
㊂ 理研・東大とNTTは、連続量(スクイーズド光)を使った、測定型量子計算方式の量子光コンピューターを開発しようとしている、と思われる。NTTは、(周期分極反転)ニオブ酸リチウム導波路をスクイーズド光源として用いる。ちなみに、測定型量子計算は、連続量でも離散量でも可能である。
☛ 東大・古澤研は、24年9月にもスタートアップを設立するという[*119]。
㊃ 研究機関としては、理研の量子コンピューター研究センターが中心的存在で、主に超伝導方式で開発を行っている。☛ 23年3月27日から国産超伝導量子コンピュータ初号機(富士通製)のクラウド利用開始。初号機の名称を「叡」と決定(10月5日)。2号機を公開(10月5日)。
㊄ 産業技術総合研究所は、固体素子(超伝導方式+シリコンスピン方式)での開発を行っている。
👉 産総研は、「量子技術の産業化に向けた連携の強化に向けた研究協力覚書」をIBMと24年5月10日に締結したことを6月17日に発表した[*165]。次世代量子コンピュータとそのサプライチェーンの開発を推進する、らしい。
㊅ NECは産総研と共同で、量子アニーリング・マシンの開発を行っている。正確には、全結合型・超伝導量子アニーリングマシンを産総研主導で、全結合型・超伝導パラメトロン量子アニーリングマシンをNEC主導で開発(、オーストリアのParityQCと協業)している。全結合型にすることで、実装面積を小さくすることができて、汎用性が高くなる(つまり、より広範囲の問題を解くことができる)。→超伝導パラメトロンを用いた8量子ビット量子アニーリングマシンを、インターネット経由で東北大学に提供することを発表(23年6月28日)。

(1) シリコンスピン方式
1⃣ 国立研究開発法人理化学研究所ー文部科学省
❶ 量子誤り訂正
① シリコンスピン方式の量子コンピュータでは、三つ以上の量子ビットの同時制御、測定などに技術的課題があり、量子誤り訂正符号の実装は困難だった。創発物性科学研究センター(CEMS)は、シリコン量子ドット中の電子スピンを対象にToffoli ゲートを実現し、3量子ビットの位相誤り訂正回路を実装した(22年8月25日)[*3]。
② CEMSは、(シリコン量子ドットに閉じ込められた)正孔スピンが量子状態を維持する時間の長さは、「量子ドットのサイズや形状、磁場や電場のかけ方に依存する」ことを明らかにした、と発表した(23年4月10日)[*54]。これは、シリコンの正孔スピン量子ビットが"電気ノイズ"に対して、堅牢になるスイートスポットを見つけることができることを示している。シリコンスピン方式に限らないが、FTQC実現は、小さな改善の積み重ねの果てにしかない。
③ 量子コンピュータ研究センターは、「シリコン量子ビットのフィードバック型初期化技術を開発した」[*73]と発表した(23年6月1日)。㊀量子非破壊測定を複数回(11回)行うことで測定精度を高め、㊁FPGAの高速データ処理等で、測定から初期化までに要する時間をスピン緩和時間以内に収めた、ことで実現に成功した。リアルタイム量子誤り訂正に必要な技術要素は、揃ったように思われる。
④ 東工大及びCEMSは、シリコン量子ビットの量子誤りについて、新たな知見を得たと発表した(23年10月11日)[*99]。具体的には、隣接する(100nm 程度離れた)シリコン量子ビット間では、誤り相関が強くなり得ることが、確認された。
❷ スケールアップ(モジュラーアプローチ)
 (超伝導方式は、特に顕著であるが)FTQC実現に不可欠な量子ビットのスケールアップにモジュラーアプローチの採用がコンセンサスを得ている。量子ビット・チップあるいは小規模なQPUを繋いで、大規模化するというアプローチである。モジュラーアプローチには、いくつかの種類が存在する(cf.【Appendix 4】IBMが語る超伝導型量子コンピュータの未来 (3)モジュラーアプローチ)。離れた量子ビット・チップ間を2量子ゲートを通じて量子通信を実施するというアプローチは、その一つである。  理化学研究所は、「シリコン3重量子ドット中の離れた2量子ビットにおいて、2量子ビット操作(CZ操作)を実現した」と発表した(22年10月12日)[*14]。残念ながら、2量子ビット操作のフィデリティは93%と、かなり低い。理研は、99%以上まで向上できると考えていると主張している。
❸ その他
① 「シリコンをベースとした量子コンピュータ技術、および量子シミュレーション技術」等に関して、米インテルと協業することを発表[*62](23年5月19日)。
② (CEMS及び量子コンピュータ研究センターが中心となって作成した)拡張性のあるシリコン量子コンピュータ技術の開発、という資料(23年3月28日)[*60]には、技術課題として、以下の4つがあげられている:㊀量子ビットに適した集積化が必要、㊁集積構造における電気配線の密集、㊂多ビット化による操作忠実度の低下、㊃量子誤り訂正方式が未開発。併せて、解決策(方針)も示されている。
③ 量子ビット読み出しの速度と精度を大きく改善した、と発表した(24年2月13日)[*124]。シリコン量子ドット中の2つの電子スピンに起こる「スピンブロッケード現象」を用いてスピン読み出しを行う。

2⃣ 国立研究開発法人産業技術総合研究所ー経済産業省
❶スケールアップ(モジュラーアプローチ)
 シリコンスピン方式で、モジュラーアプローチを実現する方法の一つに、単一電子の輸送がある。表面弾性波は輸送手段として有力とされながらも、従前の発生装置では、波の重ね合わせが発生するためノイズが発生していた。産総研は、表面弾性波の孤立パルスを発生させるデバイスを開発し、ノイズを抑制することに成功した(22年9月7日)[*4]。

3⃣ 日立製作所
❶ シリコン量子ドット内の電子を伝搬させる(輸送する)「飛行量子ビット」方式で開発を進めていることを発表(23年6月[*76]、論文[*77]発表は23年1月)。日立は、シャトリング量子ビット方式、と呼んでいる。単電子ポンプ[*78]で単一電子を抽出し、ポテンシャル障壁ゲートを電子シャッターとして機能させることで、電子輸送を実行する。電子輸送のジッターは、シリコン量子ビットの通常のスピン動作速度よりも小さいことを示した。また、単電子ポンプ動作(4ケルビン、100MHz)の忠実度は、99%を確認した、とする。飛行量子ビットは、 他稿【7】にもある通り、ハードウェア効率的(スケールアップに有利)で、(全結合の必要がないから)量子誤り訂正も容易になる。
❷ シリコンスピン量子ビットの寿命を100倍以上長く安定化させる操作技術を開発した、と発表した(24年6月17日)[*166]。東工大、理研との共同研究の成果。マイクロ波の位相変調によって、複数の回転軸(直交する2方向の回転軸)を制御することで、外部ノイズを低減し、量子ビットの寿命を伸ばした。

【参考1】
 独ユーリッヒ研究所(もとは原子力の研究機関。ユーリッヒ総合研究機構とも表記される)、アーヘン工科大学、及び両者の共同研究機関JARAは、QuBusと呼ばれるデバイスによって、560ナノメートルの距離にわたって5000回電子を量子ビット間で輸送することに成功したと発表した(22年8月30日)[*11]。シリコン/シリコン・ゲルマニウム(Si/SiGe)量子ドットに閉じ込められた単一電子により量子ビットを構成する。QuBusは、電子的なマイクロデバイスとして、Si/SiGe量子ビット・チップ上に埋め込まれる。企業としては、インフィニオンが関わっている。QuBusという単語は量子バス(Quantum Bus)に由来している。量子バス自体は、マイクロ波共振器を使って超伝導量子ビットを連携させる、というアイデアとして生まれている(Quantum Circuitsの創業者でもあるイェール大学のロバート・シェールコプ教授が最初に実証した)。華々しくデビューしたが、「これまでのところ、主にアナログ量子シミュレータとしての応用がなされている」[中村(2021)]。

(2) 中性原子(冷却原子)方式
1⃣ 日本では、中性原子方式は、ほぼ無視されている(ように感じる)。⇒24年になって変化あり。
❶ 自然科学研究機構・分子科学研究所(愛知県岡崎市)[*98]は、ルビジウム原子の基底状態(5P電子)とリュードベリ状態("43D"電子)を使って、CZゲートを6.5ナノ秒で動作させた(22年8月9日発表)[*5]。すでに400量子ビットまで、スケールアップしているらしい。分子研は、米ColdQuanta(現Infleqtion)と協力関係にあるらしいので、ColdQuantaが利用するのだろうか?
☛ 科学技術振興機構が担当する「ムーンショットプログラム(大規模・高コヒーレンスな動的原子アレー型・誤り耐性量子コンピュータ)」にInfleqtionが参加することを発表(23年12月12日)[*111]。
👉 中性原子方式量子コンピューターを開発する企業を24年度に設立すると新聞発表(24年2月27日@日経)。26年度に試作機、30年度に商用機というスケジュールらしい。富士通、日立製作所、NEC等約10社が参加するらしいが、大丈夫か?日立は従前から分子研と協業していたのだから、日立がリードするのだろうが・・・。いずれにしてもソフトウェアが足りない。
❷ 分子研は、量子もつれが形成される過程を、600ピコ秒でシミュレートした、と発表した(23年9月28日。Physical Review Letters(オンライン版)に論文[*100]が掲載されたのは、23年9月22日)。
❸ 官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)「量子技術領域」に、超高速・高機能な冷却原子型量子シミュレータ・コンピュータの高度化というsubjectが設定されている[*15]。これまではシミュレータ(ハバードモデル・シミュレータ)開発が主で、これから量子コンピュータに用途拡大するらしい。原子種として、ルビジウムとイッテルビウムを使用。
2⃣ プリンストン大・イェール大他の研究者は、イッテルビウムを使って構成した(中性原子方式の)消失量子ビットによる"消失量子誤り訂正"によって、論理誤りしきい値を、大幅に増加させたと発表している→詳しくは、こちらを参照。
[参考] 京大と広島大は、イッテルビウム化合物「YbCuS2」の非整合反強磁性相に、電気的中性な準粒子が存在していることを発見したと発表した(論文[*86]公開は、23年7月21日)。
3⃣ 産総研は、量子・AI融合処理向け大規模クラウド基盤(ABCI-Q)に、QuEraの量子H/Wを導入することを発表した(24年4月30日)[*142]。稼働は2025年予定で、導入費用は約65億円。ABCI(AI Bridging Cloud Infrastructure:AI橋渡しクラウド)は、「膨大な計算とデータを要するAIをすみやかに試す"場"を提供し、我が国における産学官によるAI研究開発と社会実装を加速するオープンイノベーションプラットフォーム」[*143]で、AIアクセラレータ付きスパコン。NVIDIA Quantum-2 InfiniBandで相互接続された500以上のノードに2,000以上のNVIDIA H100 Tensor Core GPUが搭載されている。ABCI-Qは、ABCIの進化発展版の一つという位置付けで、オープンソースのハイブリッド量子コンピューティング・プラットフォームNVIDIA CUDA-Qと統合されている。
👉 1物理量子ビット=650万円とすると、65億円=1,000物理量子ビットという計算になる。諸々考えると、現状、超伝導方式よりも、やや高めなのか? →24年6月18日に発表された超伝導方式H/Wの導入価格で考えると、答えはNo。

(3) 超伝導方式
0⃣ エコノミクス
 現在の超伝導型量子コンヒユータでは、1物理量子ビットを制御するシステムの価格は数百万円という[*6]([*61]の試算では若干高くなる。[*140](@24年2月)では、1,000物理量子ビット→US$10mil。つまり1物理量子ビット→150万円程度)。FTQCの実現に100万物理量子ビット必要だとし、単純にスケールさせるとFTQCの価格は、数兆円になる。(FTQCに必要最低限な物理量子ビット数は、表面符号を前提とすると、100万程度と言われているが)もし1億物理量子ビット必要だとすると、数百兆円となる。これは、さすがにエコノミクスが成立しないだろう(スパコンは、1,000億円程度)。
1⃣ 理化学研究所
 離れたジョセフソン接合間にコヒーレント結合を形成させることに成功、と発表(22年9月13日)[*7]。超伝導量子ビットのスケールアップに(も)つながる成果。理研は、23年3月末に、クラウド経由で(独自の超伝導式)量子コンピュータを使えるようにすると発表した(23年3月10日付け、日経朝刊1面)。
2⃣ 東芝
 (トランズモン型)超伝導量子ビットのクロストーク・エラーを大幅に抑制できるデバイスを開発したことを発表した(22年9月16日)[*8]。このデバイスは、従来型(シングル・トランズモン・カプラ)の改良型(ダブル・トランズモン・カプラ)で、2量子ゲートに対して忠実度99.99%を達成できるというシミュレーション結果が示された(ゲート操作時間は24ナノ秒)。2量子ゲートの忠実度が99.99%のQPUは、量子誤り訂正に頼ることなく、かなりの信頼度で数千ゲートの回路を実装できる、と考えられている(つまり実用性が近づく)。超伝導量子ビットのスケールアップにつながる成果。ちなみに、周波数固定型。一般に固定型は、コヒーレンス時間が長い半面、ゲート操作の自由度が低い、と言われている。
👉 米リゲッティ・コンピューティングは、量子ビットと同レベルの忠実度で、2量子ビットのゲート動作を可能とする可変結合器(チューナブル・カプラ)を実証した(論文[*87]がarXivで公開されたのは23年8月18日)。モジュラーアプローチのキーコンポーネントと位置付けているため、マルチ・チップ可変結合器という形態を採る。別々のチップ上で、2量子ビット・インターリーブ・ランダム化ベンチマーク(iRB)[*88]を使用して、CZゲートのベンチマークを行った。その結果、忠実度は99.13±0.15%だった。また、2量子ビットゲートと量子ビット読み出しを再校正することなく、7時間にわたってiRB忠実度を測定した結果、平均忠実度および標準偏差は、98.61±0.18%であった😓 
3⃣ 東京医科歯科大学(!)と産業技術総合研究所 
 「マイクロ波光子を超伝導人工原子に1回だけ反射させることで、両者のもつ量子ビットの情報を交換できることを実証した」という内容の論文を発表した(24年5月23日)👉 詳細は、こちら
4⃣ 産総研
 2024年6月18日、富士通製の超伝導方式量子コンピューターをABCI-Qに導入することを発表した[*168]。導入価格は59億9,500万円。中性原子方式は約65億円であった。少しでも廉価に見せたいのか? 100物理量子ビットとすると、1物理量子ビット=約6,000万円となる(!)。これは、どういうことなのだろうか?
❚参考・・・IBM❚ 
 2033年までに10万量子ビットの(誤り耐性型)量子コンピュータを実現するために対処すべき4つの領域を特定し、実現に向けた取り組みを進めるため、東京大学とシカゴ大学の研究を支援することを、公式ブログ[*63]で発表した(23年5月21日)。4つの領域とは、㊀量子通信、㊁量子用ミドルウェア、㊂量子アルゴリズムと誤り訂正、㊃コンポーネント(極低温に関わる諸々、及び制御電子機器等)のサプライチェーン、である。東大は、㊂と㊃を主導する。シカゴ大は、㊀と㊁を主導する。量子用ミドルウェアとは、具体的には、回路編み(Circuit Knitting)である。回路編みについては、こちらの(4)を参照。

(4) 量子光方式
❶ 2021年12月22日、NTT・東京大学・理化学研究所は、低損失光ファイバー結合型スクイーズド光発生装置を開発したことを発表した[*20]。この装置は、測定型量子計算機で必要なリソース状態(本件では、時間領域多重化された2次元クラスター状態)を生成するために必要な、量子ノイズが65%以上圧搾されたスクイーズド光を生成できる(75%以上の圧搾に成功)。
 23年3月には、市販の高速通信用検出器を用いて、43GHzリアルタイム量子信号測定に成功したと発表した[*46]。この高速検出(測定)と波長分割多重化技術とを組み合わせる(モジュラーアプローチ)ことで、マルチコア光量子コンピュータを構成することができる(スケールアップ問題を解消できる)、と主張している。彼ら(NTT・東大・理研)のアプローチは、スクイーズド光を用いた連続量測定型量子計算で、カナダのXanaduと"まる被り"(導波路の素材は異なる)。量子誤り訂正符号も、ともにGKP符号を用いる。同じ測定型でも、米PsiQuantumや英Orcaは、離散量(単一光。東大・古澤研究室が、単一光を研究していないわけではない)。なお、仏Quandela(離散量)や蘭Quix(連続量)は、計算型。

❷ 2022年10月29日、東京大学・NTT・情報通信研究機構・理化学研究所は、量子光のパルス波形を自在に制御する手法を実現した、と発表した[*22]。具体的には、猫状態(量子誤り訂正の文脈では、位相が180°異なるコヒーレント光の重ね合わせ)をバランス型タイムビン波形のパルスとして生成することに成功した。量子もつれ光の片方(一つのモード)を、非ガウス型測定(ここでは、光子検出器による測定)することで非ガウス状態(ここでは、猫状態)を作り出す、測定誘起非線形過程を用いている。ただし、これは決定論的(確率1)ではないため、量子計算に直接用いることはできない。決定論的に非ガウス状態を生成する手段として、3次位相ゲートを構成する方法が存在する[*55]。
 連続量の量子光を使た万能量子演算を実現するには、ガウシアン・ゲートと非ガウシアン・ゲートが必要である(非ガウシアン・ゲートは1つで良い)。ガウシアン・ゲートは実現が容易で、非ガウシアン・ゲートは実現が難しい。3次位相(cubic phase)ゲートは、非ガウシアン・ゲートの1つである→[*107]。非ガウシアン・ゲートは、直交位相振幅について3次以上のハミルトニアンで表される。3次位相ゲートの3次は、そこから来ている。
 なお、チャルマース工科大学(スウェーデン、米Atlantic Quantumのパートナー)の研究者は、ボソニック符号化に必要な共振器を制御する新しい方法を開発した(22年7月)。その成果として、猫状態・GKP状態・二項状態に加えて、3次位相状態まで作成できた、という[*23]。
❸ 東大が開発している、連続量と時間多重化を活用するループ型光量子コンピュータ実現に向けた(主要な?)課題として、以下3点があげられている[*64]:㊀光回路中における光の減衰に起因する誤りによる、スケールアップへの制限、㊁演算や誤り訂正に必要となる、特殊な光パルスを効率よく生成する技術が未確立、㊂量子誤り訂正符号(GKP符号を想定)の生成方法が未確立。
 23年7月26日、複数個の光パルスに対する線形光学変換を実証した、と発表した[*82]。検証すべき操作として残っているものは、もっとも重要な非線形変換(非クリフォード・ゲートに相当)である。
❹ 理研と東大は、以下の発表を23年7月12日に行った[*79]:プログラマブルなデジタル回路(FPGA)を活用することで、フィードフォワード中の測定結果に対する非線形計算を、(ルックアップテーブルと呼ばれる計算表を用いて)高速に行うことができた。つまり、測定型光量子コンピュータで万能量子計算を実行するために必要な、非線形測定を実現する目途がたった、と発表した。
 被測定光と干渉させてホモダイン測定する際に用いる、補助量子光として必要な非線形スクイーズド光の生成は、2021年に目途が立っている(上記❶)。
❺ 東大・古澤研は、光ファイバー内を伝搬する通信波長の伝搬光でGKP量子ビットを生成することに成功した、と発表した(24年1月19日@Science[*118])。誤り耐性量子コンピュータ実現の目途がたったとして、24年9月にもスタートアップを設立するという[*119]。

(5) その他
❶ 東京大学は、量子トンネル効果を100%に近い確率で(つまり、ほぼ決定論的に)誘起する幾何学的効果の実証に成功した、と発表した(23年5月)[*75]。具体的には、マイクロ波パルスによってダイヤモンドNVの電子スピンを制御することで、ねじれランダウ・ツェナーモデルを実現し、平均95.5%という高確率で量子トンネル効果を実現できることを証明した。
❷ 産総研と東京理科大学は、「超伝導・常伝導接合」と超伝導量子ビットとを、「超伝導共振器」を介して接続することで、初期化時間約180ナノ秒(従来手法比約65%短縮)、99%以上の忠実度、で量子ビットを初期化した、と発表(23年10月)[*104]。
❸ 慶應大学・筑波大学は、43量子ビットの状態ベクトル型量子コンピュータシミュレーションを実行できるボードを開発した、と発表(23年12月11日)[*108]。FPGAと安価なSATAディスクを利用して実現した。なお、仏Qubit Pharmaceuticals(量子技術で創薬期間の短縮を目指すスタートアップ)と仏ソルボンヌ大学は、「40個の論理量子ビットに対する、正確な古典シミュレーションを成功させた」と発表(23年12月6日)[*109]したが、GPU128基を装備したスパコンを使用した。
❹ 東京理科大学は、FPGAを用いた(量子ゆらぎを利用しない)アニーリング方式の全結合型イジングマシンを開発したと発表した[*18]。24年3月には、「組み合わせ最適化問題の求解性能に対して、誤り耐性量子コンピュータ@2050年と、コンパラになるのは2030年」と発表した[*135]。
❺ 大阪大学は、あらゆるイジング問題に対応できる、空間光イジングマシン(SPIM)の新しい計算モデルを提案した[*85]。(代表的な組み合わせ最適化問題の一つである)ナップザック問題のような低ランクの相互作用を持つイジング問題に対して高効率、としている。
 

【1】米国 Go 2 日本 EU 英国 カナダ 豪州 その他地域 中国
 冷却原子(中性原子)方式のスタートアップが3社ある。それに対してイオントラップ方式は、1社である(大企業Quantinuum(※1)を含めれば2社)。この構成は、EU及び英国とは対照的である(EUは、その後、中性原子方式が増えた)。
 測定型量子計算は、Psi Quantumが採用。Hardware-efficientな量子計算は、少なくとも表面化していない(アマゾンが開発しているという噂がある。なお、トフォリ・ゲート用の魔法状態蒸留プロトコルを考案したようである[*9]。また、量子誤り訂正符号として、猫符号の研究も行っているようである→下記※2)。ダイヤモンドNV方式は、確認できていない。
※1 プレマネーUS$5bilで、US$300milの資金調達を行ったと発表(24年1月16日)[*113]。三井物産も(引き続き)ラウンドに参加している(当該ラウンドの出資額は、US$50milと言われている)。24年3月、「トラップイオン方式量子ハードウェアのスケーラビリティにおける障害を軽減した」という論文を発表した(@arXiv[*134])。これは、「グリッド・サイトごとの操作が、固定数のアナログ電圧信号と、サイト毎に1つのデジタル入力だけで達成される」ため。㊀各グリッド・サイトの並進対称位置に制御電極を共同配線する、㊁(パウルトラップ用)表面電極への印加電圧をサイトごとに交換する、を組み合わせて達成した、とする。
※2 「猫符号を実装した、プロトタイプ量子チップを製造した」と発表した(23年11月28日)。ラスベガスで行われた、AWSのre:Inventカンファレンスでの基調講演中に発表された。量子誤り訂正が、6倍効率化されたと主張。これは、論理ビットを構成する物理ビットの数が、1/6になったと解することが可能。

(0) 米政府機関
0⃣ さすがに、米国は厚みがある。
1⃣ DARPAは23年1月31日、実用規模の量子コンピューティング(US2QC)プログラムの「未開拓のシステム」に3つの企業を選択した:中性原子方式のAtom Computing、量子光方式のPsi Quantum、トポロジカル量子計算方式のマイクロソフト、である。US2QCプログラムの発想は『想定外のモダリティ・アーキテクチャが量子超越性・優位性を達成することで、米国が量子計算技術分野において被る危険を減らすこと』である。
2⃣ エネルギー省の高度科学計算研究局(ASCR)は、US$12milの量子テストベッドを発表した[*49]。このプログラムの目的は、量子コンピューティングが計算科学の最前線を前進させるかどうか、いつ、どのように前進するかについての理解を深めることである。より具体的には、❶量子プロセッサの基本的な物理的限界は、量子コンピュータができることとできないことを教えてくれるか?、❷NISQ デバイスを使用して、量子コンピューターがいつ、どのように役立つかについての理解を可能な限り前進させるにはどうすればよいか?、❸計算科学の最前線を前進させるために、特定の(既存または仮想の)量子プロセッサの有用性をどのように評価できるか?、という質問に対処することである。
3⃣ DARPAによるImagining Practical Applications for a Quantum Tomorrow(IMPAQT)programから助成金を受けたと、いくつかの企業が発表した(23年10月23日)。その一つは、QuEra(中性原子方式)であり、対象は①「中性原子を使用した量子リザバー学習とその応用」及び、②「トランスバーサルな論理ゲートに基づく誤り訂正量子アーキテクチャ」。(為参考:POLARIS qbが助成金を得たプロジェクトは、タンパク質間相互作用を阻害する小分子を特定する、新しい変分量子アルゴリズムを作成することが、ミッション。)
① ザックリ言えば、新しい量子機械学習の研究。「リザバー学習~非ノイマン型アーキテクチャによる機械学習」&「リザバー学習=時系列予測に適する」であり、その量子化を目指す。具体的な適用例の一つは、熱帯低気圧†3の強度予報†4である。Moody'sと協業している[*167]。
② ザックリ言うと、ハードウェア効率的な量子誤り訂正方式の研究。トランスバーサルなゲート†1を使うことで、論理回路を実装するために必要な物理的なq*Nリソース†2を1 桁削減できる可能性がある。
†1 ゲート操作により発生する量子誤りの影響が、他の量子ビットに及ばないような量子ゲートのこと。
†2 qは量子回路の深さ、Nは量子ビットの数。
†3 熱帯低気圧=トロピカル・サイクロン。台風やハリケーンなどは、すべて「強い」トロピカル・サイクロンである。従って、正確には、「強い」熱帯低気圧と書くべきである。
†4 台風がもたらす災害を予測するには、台風に関して2つの予報を実施する必要がある。進路予報と強度予報である。進路予報は、年々精度が向上しているし、予想がズレた理由の解明も進んでいる。一方で強度予報(≒中心気圧と最大風速の予報)は、精度が若干悪化してる。詳しくは、こちらを参照。
4⃣ 米国の研究助成機関IARPA[インテリジェンス高等研究計画活動:国家情報長官室ODNIの研究開発部門]は、もつれ論理量子ビット(ELQ)プロジェクトを立ち上げた(23年春にスタート)[*105]。4年にわたる、2つのプロジェクトに対して最大US$40milを投資する。プロジェクトを主導する機関が、23年11月に発表された。1つは、スイス連邦工科大学チューリッヒ校が主導するSuperMOOSE(モダリティが、超伝導)。もう一つは、墺インスブルック大学が主導するMODULARIS(モダリティが、イオン)。
 ELQプロジェクトは、量子誤り訂正符号で保護された論理量子ビットを用いた量子計算(以下、「符号化量子演算」とする)の実装におけるリソース効率を高めることが、ゴールである。一般的な認識としては、符号化量子演算を実装する最もリソース効率の高い方法の1つは、格子手術である。格子手術を改良するのか、あるいは、さらに新しい手法を考案するのか。格子手術に関しては、日本も大きな貢献をしている(と思われる。例えば[*106])。
 SuperMOOSEには、米MIT、独ユーリッヒ研究センター、加シャーブルック大学、瑞チューリッヒ・インスツルメンツ、米(及び典)アトランティック・クォンタムが参加する。日本勢の名前はない。
5⃣ 米空軍研究科学局(AFOSR)は、シリコンスピン量子ビットに関する課題の根本的な原因を探り、課題を克服するプロジェクトにUS$6.7milを助成したと発表した(23年11月)。メンバーは、ロチェスター大学(主導役)、バッファロー大学、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校†1、NYクリエイツ†2、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、ローレンス・リバモア国立研究所。
†1 米エネルギー省傘下、ブルック・ヘブン国立研究所の運営者でもある。
†2 ニューヨーク州経済開発局(Empire State Development)とニューヨーク州立大学の間で結ばれたパートナーシップ。ニューヨーク州のハイテク経済を成長させるためのプロジェクトを率いることを目的とする。

(1) 冷却原子(中性原子)方式
1⃣ Infleqtion(←ColdQuanta)
❶ ColdQuantaは、3つのアルゴリズム実装に成功したと発表した(22年4月);GHZ(Greenberger・Horne・Zeilinger)状態(代表的な、エンタングルした三体系。一般化猫状態の一つ)の準備、QAOA(Quantum Approximate Optimization Algorithm:近似的量子最適化アルゴリズム)、量子位相推定の3つである。冷却原子(中性原子)方式は、出自が量子シミュレータであるから、用途が限定されるのでは?という疑念があったと思われる。その払拭が狙いであろう。QAOAは、組み合わせ最適化問題に対応できます(変分量子アルゴリズムを実装できます)よ、というアピール[*2]。 量子位相推定は、量子機械学習に対応できますよ、というアピール(←HHLアルゴリズム←逆行列計算。もちろんNISQではHHLアルゴリズムは実行不可(とされているが、NISQで実装する研究も進められているようである[*90]))。 GHZ状態は、測定型量子計算、ボソニックコードのアピールであろうか?
❷ Infleqtionは英防衛企業QinetiQと、「量子アルゴリズムを使用して、物流における複雑な組み合わせ最適化問題を解決することに焦点を当てた」英国の国家プロジェクトを落札したと発表した(23年7月18日)。プロジェクト期間は3年で、成果は、英国国立量子コンピューティング センターに提供される。
❸ SiNoptiqとMorton Photonicsを買収したことを発表した(24年1月29日)[*114]。SiNoptiqは、超低損失の窒化シリコン・プラットフォームを使用して、フォトニクス・パフォーマンスを提供することに特化している。Morton Photonicsは、高度なシリコン・フォトニクス・ベースのコンポーネントおよびサブシステム技術を開発している。また、超低ノイズ半導体レーザーも開発している。
2⃣ QuEra
❶ QAOA及びQML(量子機械学習)を実行可能であると発表した(22年5月)。リュードベリ原子配列は、幅広い組み合わせ最適化問題を、ハードウェア効率的に符号化できるという成果(23年2月)については、Appendix Dを参照。
❷ ハーバード大の研究者他と発表した論文[*59]で、エンタングルした原子配列のコヒーレント輸送(量子ビット・シャトリング)について考察している。量子ビット・シャトリングは、㊀誤り訂正、㊁マルチゾーン・アーキテクチャ、㊂スケールアップ、に貢献するという。㊀量子ビット・シャトリングは、エンタングルした量子ビットを広い範囲に拡散させることができる(→トーリック符号)。論理量子ビットを広い面積に"拡散"させることができるので、局所的なエラーは論理量子ビットのごく一部にしか影響せず、全体の量子情報にダメージを与えることなく誤り訂正が可能になる、という。㊁量子ビット・シャトリングによって、量子ビットの状態を保ったまま移動できるようになる。このため、複数ゾーンを持つ量子コンピュータの開発が可能になる、という。㊂量子ビットシャトリングでは、制御信号を増やさずに、量子ビットの数を増やすことができる、という。
❸ 豪州Pawseyスーパーコンピューティングリサーチセンターとのパートナーシップ締結を発表(24年1月16日)[*120]。高性能量子エミュレーション・ソフトウェアの共同開発を行っている。
❹ 英国国立量子コンピューティングセンター(NQCC)に、世界最先端の量子コンピューター・テストベッドを設置すると発表した(24年2月5日)[*121]。24年5月稼働予定。23年12月6日natureにて公開された「損益分岐点を越えて、48個の論理量子ビットと数百のもつれ演算による量子計算を実行した」という成果(こちらを参照)を展開する。
❺ 産総研のAIBC-Qに、量子H/Wを導入する(オンプレミス)ことを発表(24年4月30日)[*142(再)]。25年稼働予定。導入費用65億円。
❻ 仏QPerfect🛡との提携を発表(24年6月5日)[*156]。量子誤り訂正の正確なモデル化のための、テンソルネットワーク法の開発と評価を目的とする。この提携によりQuEraは、中性原子方式量子コンピューターの現実的なエラーチャネル及び、非クリフォード操作が存在する場合の量子誤り訂正アルゴリズムを評価することができる、と期待している。
🛡 2023年設立。仏ストラスブール大とCNRS(仏国立科学 研究センター)のスピンオフ・スタートアップ。テンソルネットワークを含む量子多体系シミュレーション並びに、量子誤り訂正のシミュレーションに関する専門知識を有するとされている。量子アルゴリズムを開発および実行できる大規模量子回路シミュレーター(仮想量子コンピュータ)MIMIQを開発・提供している。MIMIQは、高効率の圧縮スキームを使用して、多くの量子ビットの量子状態を正確に表現できる。これにより、NISQ ベース量子ハードウェアの限界を超えて、汎用ハードウェアで量子アルゴリズムをテストできる(らしい)。
3⃣ Atom Computing
 米エネルギー省傘下の国立再生可能エネルギー研究所(NREL)はAtom Computingと協力して、量子コンピューターと電力網機器の間のインターフェースとして機能するオープンソース・アプリケーションを開発した、と発表(23年7月17日)[*80]。RTDSテクノロジーズのリアルタイム・グリッド・シミュレーターを使用して実証した。RTDS(カナダ)は、電力系統リアルタイム・フルデジタル・シミュレータの世界トップメーカー。電気自動車を含む"再生可能エネルギー源"が系統接続された、電力網の動作を最適化することを目指している。アルゴリズムとして、QAOAあるいはVQEを使用する。
4⃣プリンストン大 
 米プリンストン大及びJILA(米コロラド大ボルダー校と米国立標準技術研究所NISTの共同研究機関)は、イッテルビウム(Yb)原子のリュードベリ状態を用いて量子ビットを生成した(22年5月)[*12]、[*13]。これまでは、アルカリ金属(セシウム、ルビジウム)やアルカリ土類金属(ストロンチウム)を用いていた。ちなみに、セシウム=米Cold Quanta、ルビジウム=米QuEra、仏Pasqal、ストロンチウム=米Cold Atom、独Planqcである。なお、イオントラップ式量子コンピュータ・ベンダーの米IonQは、イッテルビウムを量子ビットに使っている。
 アルカリ土類様原子に属し、価電子を2つ持つイッテルビウム(ストロンチウムの価電子も2)は、基底状態に加えて、長寿命な準安定励起状態を持つ。アルカリ金属の場合、リュードベリ状態への励起は、短寿命な中間状態を用いた2光子励起によって行っていた。このため、(中間状態に由来する)デコヒーレンスや位相シフトが生じてしまった。イッテルビウムの場合、リュードベリ状態=準安定励起状態とすることで、1光子励起が可能となり、デコヒーレンスや位相シフトを防ぐことができる。つまり、コヒーレンス時間(T1、T2)が長くなる。加えて、リュードベリ状態の動的分極率が負とならないため、光ピンセットの操作性が増す。米研究グループは、初期化忠実度99.95%、エンタングルメント忠実度85%を達成している。しかし2量子ゲートの忠実度は、まだ低いようで、この改善が課題となる。
 プリンストン大・イェール大他の研究者は、イッテルビウムを使って構成した消失量子ビットによる"消失量子誤り訂正"によって、論理誤りしきい値を、大幅に増加させたと発表している→詳しくは、こちらを参照。
5⃣ シカゴ大 
 米シカゴ大学プリツカー分子工学大学院の研究者は、中性原子方式量子コンピュータにおけるリアルタイム量子誤り訂正方式を開発した(23年5月)[*68]。セシウム原子をスペクテーター量子ビットとして、ルビジウム原子をデータ量子ビットとして機能するようにした。具体的には、ルビジウム原子からリアルタイムでデータを読み取り、量子誤りの発生を検知した場合、マイクロ波を使用してセシウム原子を変更した。
 スペクテーター量子ビットとの不要な量子もつれ等に由来するスペクテーター誤りを軽減させる手法は、例えばIBMによって研究されている[*69]。東大とシカゴ大への支援[*63]にも現れているように、(量子技術において)IBMとシカゴ大の関係は深い。なお、リアルタイム量子誤り訂正の事例として、Quantinuumの事例[*70]及び日本の事例[*71]、EUのアルテミス・プロジェクト[*72]等がある。
6⃣ イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究者は、自由空間内の中性原子(イッテルビウム171)配列に対して、高忠実度かつスケーラブルな非破壊測定(読み出し)を実行した、と発表した(論文[*102]発表は、23年9月18日)。イッテルビウムは、ほぼ「祭り状態!」である。論文著者達によると、この研究は『測定型量子計算、非ユニタリー多体状態準備プロトコル、量子誤り訂正、測定誘起相転移』研究の実現を助ける。
†量子多体系では、a)量子もつれは、時間ともに増大する一方、b)測定は、もつれの増大を阻害する。測定頻度を増していくと、相反するa)とb)に競合が生じ、しきい値(ある頻度)で量子もつれの増大が均衡する。この均衡に至る現象を、「測定誘起相転移」現象と呼ぶ。→為念:最大70個の超伝導量子ビットを使って、測定誘起相転移を研究した、グーグル量子AIの論文[*103]。
7⃣ カリフォルニア工科大学
 約12,000 サイトで6,100個を超える中性原子を捕捉する光ピンセットのアレイを実験的に実現したと発表(24年3月18日@arXiv)[*144]。コヒーレンス時間が12.6秒。室温でのトラップ寿命が約23分。

(2) 量子ニューラルネットワーク
 リゲッティ(Rigetti Computing)が、量子カーネル法CNN(Quanvolutional NN)を気象予報に適用した事例を、キラーアプリケーションの一つとして取り上げており、面白い。気象予報の元となるデータをダウンサイジングする場合あるいは、予報したい地域の細かな地形にフィッティングさせる場合に、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)等の深層学習が利用されている。
 活性化関数をカーネル関数で置き換えて、非線形化したと表現できるカーネル法CNN(Kervolutional NN)はCNNより、高速・高精度と言われている。カーネル法を量子カーネル法にすることでさらに、高性能化できたと主張している[*1]。ただし、改善度はわずかであることに注意。またNVIDIAとコラボレーションし、気候モデル向けのGPU-QPUワークフローを開発している。量子機械学習技術を使っている。
 リゲッティは、金融機関向けに機械学習と最適化のアプリケーションを提供するソフトウェア企業QxBranchを買収している(19年7月)。同社は、量子機械学習(QML)を主戦場と定めているのかもしれない(22年1Qのイメージ→23年1Qには、QMLを主戦場とすることを明確にした)。

(3) シリコンスピン方式
1⃣ ロチェスター大学の研究者は、シリコンのスピンーバレー結合が、単一電子スピン状態と多電子スピン状態のコヒーレントな制御を可能にすることを示した(nature physicsで23年1月9日公開)[*44]。バレーは軌道角運動量の一種。磁場と電場を量子ビット毎に個別に調整して、電子スピンを制御する。豪Diraqも同じ種類の制御法を採用している。
2⃣ HRL Laboratories(ヒューズ航空機の研究部門が前身。現在、ゼネラルモーターズとボーイングが所有)は、natureで23年2月に公開された論文[*47]において、シリコンスピン量子ビットベースのユニバーサル制御を実証したと発表した。Si/SiGe量子ドットに閉じ込めた単一電子のスピンを量子ビットとし、印加電圧のみで電子スピンを部分的にSWAPすることで制御する。Siは28シリコン(ゆえにスピン0)。インターリーブ(ランダム化ベンチマーク)法を使って求めた量子論理ゲートの操作忠実度は、CNOTゲートが96.3±0.7%(2量子ゲートとは言え、低い!)、SWAPゲートが99.3±0.5%であった。
 HRLは、カリフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA)と共同で、陸軍研究局および物理科学研究所から、助成金を獲得した(24年1月10日)[*112]。
3⃣ インテル 
① 12量子ビットのチップTunnel Fallsを発表した(23年6月)。
② ウェーハ全体にわたるスピン量子ビット・デバイスのパフォーマンスに関する大量のデータを収集するための300mmの極低温プロービング・プロセスを開発した、と公式ブログに投稿した(24年5月1日)[*145]。均一で忠実度の高い、シリコン・スピン量子ビットの開発につながる(と主張)。BlueforsとAEM Aforeが協力している。
† シンガポールの半導体検査装置メーカー「AEMホールディングス」が、フィンランドの同業「Afore」を買収して誕生した企業。買収金額は、€7.58mil。

(4)その他
㈠⃣ NVIDIA
 米GPUベンダーNVIDIAは23年3月、GPU加速・量子コンピューティングシステムNVIDIA DGX Quantumを発表した。これは、NVIDIAのGPUとCUDA Quantum及び、Quantum Machinesによる量子制御プラットフォームOPXを融合させたシステムである。CUDA Quantumは、QPU/GPU/CPUの統合・プログラミングを可能にする、ハイブリッド量子古典コンピューティング・プラットフォームである。CUDA Quantumをプラットフォームに統合する量子H/Wベンダーとしては「Anyon Systems、Atom Computing、IonQ、ORCA Computing、Oxford Quantum Circuits、QuEra」が公表されている。
2⃣ Quoherent
 Quoherentは、トポロジカル絶縁体を使った(つまり、マヨラナゼロモードを使った)量子ビットによる、"ポータブル"な量子演算処理装置(QPU)を開発しているスタートアップである。2021年に設立。シードラウンドで、US$2.4milの資金調達を行ったと発表した(23年10月)。この資金調達は、レギュレーションD(による私募調達)で行われた。👉 シードランドの資金調達額は、最終的に$4.7milのようである(23年11月プレスリリース)。
3⃣ Extropic
 アルファベット(≒グーグル)の量子コンピューティング研究チーム元メンバーが率いるH/WスタートアップExtropicは、シード資金としてUS$14.1milを調達したと発表した(23年12月4日)[*110]。ただし、該社は量子コンピューティングを開発しているわけではない。事業目的は、大規模言語モデルをはじめとする深層学習モデルの学習に必要な電力を低減させることである。数多存在するNVIDIAの潜在競合の一つ。
 

【2】EU Go 2日本 米国 英国 カナダ 豪州 その他地域 中国
 ポートフォリオ的なバランスはとれている、と思われる。(冷却)イオンを使った制御NOTゲートの実装が初めて行われたのが、オーストリアのインスブルック大学(イグナシオ・シラックとペーター・ツォラーが提案。ツォラーがインスブルック大学出身で、シラックはツォラーの教え子)であったためか、イオントラップ方式が、やや多い印象。なお、イオントラップ方式の太宗は、超微細状態を使用して量子ビットを作成しているが、オーストリア勢は、超微細状態を使わない。超微細状態を使うと、コヒーレンス時間が長くなる一方、デコヒーレンスの影響を受けやすい、というトレードオフがある。
 国別で言うと、QuTechの存在もありオランダが有名であろうが、フランスが面白い。ドイツは、急速にギアをあげている(22年4月の執筆開始時点から、状況が大きく変化した)。
(1)フランス
 仏軍事省は、2032年までに、2基の誤り耐性型汎用量子コンピュータを調達する契約(PROQCIMAプログラム)を、仏スタートアップ5社と締結した(24年3月6日)[*136]。€500milを投下する。5社とは、Alice&Bob(超伝導)、Pasqal(中性原子)、Quandela(量子光)、Quobly(シリコン・スピン)、C12 Quantum Electronics(カーボンナノチューブ・スピン)。つまり全社。
1⃣ Aice&Bob
❶ 量子光方式のAice&Bobは、ボソニックコードとして猫符号を採用している。他に猫符号を採用してるスタートアップは確認できない(アカデミアでは、歴史的にイェール大学のグループが研究している)。アルテミス・プロジェクトに関しては、下図表を参照。
❷ データセンター事業者最大手の米エクイニクス🐾1を通じて、Alice&Bobの量子コンピューターに、(安全に)アクセスできるようになったことが発表された(23年11月)。
❸ 16量子ビットの量子処理ユニット(QPU)ヘリウム1をテープアウトしたと発表(23年12月18日)。損益分岐点を超えていると主張。また、論理誤り率は、10-6以下と主張している。
❹ NVIDIAのGPUアクセラレーテッド量子コンピューティング・システムDGX Quantumに、猫量子ビット等の自社技術を対応させて、事業拡大を目指す旨を発表した(23年3月20日)[*137]。NVIDIA DGX Quantumは、NVIDIA GH200 Grace HopperとQuantum Machines(イスラエル)の OPX+制御システムを組み合わせたシステム。また、A&Bは(パートナー企業と協働して)、オープンソースの高性能量子システム・シミュレーション・ライブラリdynamiqsを開発している。GPUを使うことで、猫量子ビットのシミュレーションを最大60倍高速化することに取り組んでいる[*137(再)]。
❺ ビット反転時間10秒の猫量子ビットを実装し、「(猫量子ビットに掛けられた)ビット反転保護を破ることなく、量子ビットの測定とコヒーレント制御を実証した」ことを発表(24年5月6日@nature[*150]、23年7月13日@arXiv[*151])。当該測定は、ビット反転保護を破壊しない"特殊な"量子トモグラフィー・プロトコルを導入することで、実現した。
❻ 仏政府🐾2から€16.5milのイノベーション助成金を受け取ったと発表(24年3月27日)[*152]。期間は3年間(2027年まで)で、リヨン高等師範学校及びパリ国立高等鉱業学校と協業する。ゴールは、「量子コンピューターを10倍安価に構築して、3年早く上市する」こと。
❼ 英リバーレーンの量子誤り訂正技術を導入する契約を締結したと発表(24年5月29日)[*153]。
🐾1 エクイニクスは、スペインの量子乱数発生器(QRNG)ベンダーQusideと連携している。エクイニクスを利用する企業は、QRNGを使ったセキュリティで保護される。なお、QusideのQRNGは、位相上の量子雑音(位相雑音)をベースとしている。
🐾2 仏の公的投資銀行Bpifranceが仏政府に代わって運営するFrance2030イニシアチブが、資金提供。France 2030は、5年間で€30bilの投資を展開して、産業競争力と将来技術の開発を目指している。
2⃣ Pasqal
❶ 該社は、シミュレーション分野を、足がかり市場と定めており、ビジネス・デベロップメント的に面白い。ビジネス・デベロップメントの分量が増えたので、表記を整理した:㊀シーメンス[*29]、㊁BMW[*30]、㊂BASF[*31]、㊃EDF[*32]、㊄ENI[*33]、㊅シカゴ大学[*37]。該社はM&A等を通して、アルゴリズムにも固有の強みを持っている:🈩Quantum Extremal Learning(モデル出力最適化量子学習)[*34]、🈔PINN(物理学に基づくニューラルネットワーク)[*35]、🈪Quantum Evolution Kernel(量子グラフカーネル)[*36]。
❷ 仏ソルボンヌ大、仏Institut d'optique théorique et appliquée、西ICFO(光科学研究所)、独Pixel Photonicsと協業し、連続量・量子光方式の量子プロセッサーを開発すると発表した(23年10月17日)[*101]。欧州イノベーションカウンシルのパスファインダー2023チャレンジ助成金によって資金提供される。詳細は不明。スクイーズした原子系から、スクイーズド光を発生させることはできる。原子のもつれを、光子に"転写"することもできる(スクイーズド光で可能かは、わからない)。リソース状態生成まで一気通貫で可能になったら、面白いだろう。
❸ 住友商事が進めるQX(量子トランスフォーメーション)プロジェクトと、戦略的パートナーシップを締結したと発表(23年10月)。対象には、「空飛ぶ自動車の交通整理」も含まれる。
❹ 量子演算処理ユニット(QPU)の相互接続性を拡張するために、仏Welinqとのパートナーシップを発表(24年4月23日)[*141]。Welinqは、(中性原子ベースの)量子メモリによって同期された光子を用いて量子情報を共有し、QPU間の量子もつれを作る。Welinqは24年末までに、量子メモリの産業用プロトタイプを開発する予定。Pasqal は、2024年中に、1,000量子ビットを達成する予定。
❺ 人工衛星の運用計画策定とスケジューリングの最適化に、中性原子方式量子H/Wが適していることを確認したと発表(24年5月14日)[*148]。仏タレスと協業し、GENCI†1の支援を受けた。運用計画の策定とは、「ミッションやプロジェクトの実行に適したポリシーと手順の選択」を指す。スケジューリングとは、「ミッションやプロジェクトの実行を運用スケジュールに変換すること」を指す。
❻ サウジアラビアの国営石油会社(総合エネルギー・化学企業)サウジ・アラムコは、Pasqalの量子コンピューターを設置する契約を締結した、と発表(24年5月20日)[*149]。2025年後半に、200量子ビットの量子コンピューターが導入予定。
❼ 産業セクターに合わせた量子コンピューティング・ソリューションを開発するため、印テック・マヒンドラとの戦略的提携を発表(24年5月29日)[*154]。例)製薬業→創薬、製造業他→新規材料の発見、航空宇宙業→衛星計画、金融業→データセット分析と財務モデリング、ユーティリティ→エネルギー消費の最適化。並びに、サイバーセキュリティの強化。
❽ IBMと提携することを発表した(24年6月6日)[*157]。⓵量子中心スーパーコンピューティングへの共通アプローチを開発し、⓶化学と材料科学の応用研究を促進するために提携する。⓵→複数の量子モダリティと高度な古典コンピューティング・クラスターにわたる、計算ワークフローを調整する、量子H/W装備スーパーコンピューターのソフトウェア統合アーキテクチャーを共同で定義する。強烈な勝ち組の一つとなりそう。
❾ 6ケルビンの極低温環境内で、最大2,088個のサイトからなる大規模な光ピンセット・アレイに、ルビジウム原子1,103個を「シングルショット、でロードすること」に成功した(24年5月29日@arXiv[])。加えて、FPGAによって制御される移動光ピンセットを用いて、828個の原子の「まるごと」再配列も実証した。
†1 GENCI(Grand Equipement National de Calcul Intensif)は、仏国内外の長期的HPC(High Performance Computing)戦略をサポートする目的で2007年に設立された「民間企業」。持ち株比率は、仏国49%、CEA20%、CNRS20%、大学10%、Inria1%。
3⃣ Quandela 
❶ 仏最大の電力会社EDFと協業することを発表した(22年11月2日)。協業内容は、水力発電に用いるダムの変形を、量子コンピュータでシミュレートするというものである(次ステップでは、量子機械学習が対象になる)。非常に面白い。PINN(物理学に基づくNN)で偏微分方程式を解くというアプローチと思われる。通常、構造解析は(古典コンピュータを使って)有限要素法で実行される。
❷ 論文[*89]を発表(23年6月1日@arXiv)し、以下を表明した:量子光方式の量子コンピュータにおいて、ガウス・ボソン・サンプリングのような特定タスクではなく、実用的な計算が可能なデバイスを開発した。このデバイスは、㊀リコンフィギャラブル・チップに、㊁ユニバーサル線形光ネットワークが成形され、そこには㊂量子ドットを用いた量子光源から(決定論的な)単一光子が供給される。ハードウェア・エラーは、機械学習されたトランス・コンパイル・プロセスで補償される。
 代表的な非クリフォード・1量子ゲート、2量子ゲート、3量子ゲート=「Tゲート、CNOTゲート、トフォリ・ゲート」、それぞれの平均忠実度は、99.6±0.1%(これでも低い)、93.8±0.6%(低過ぎる)、86±1.2%(😓)。実用的な計算として(機械学習の分類タスクに加えて)、水素分子の基底エネルギーをVQE[変分量子アイゲンソルバー法]を使って計算した。反復回数50~100回で理論値±0.01ハートリーに収束した。化学的精度(相対的エネルギー誤差)を1kcal/mol(0.0016ハートリー)で抑えることに、93%の確率で成功した。これらの要因は、高効率な単一量子光源とチップ制御のおかげ、と主張している。
 なお測定型量子計算の重要なマイルストーンとして、GHZ(Greenberger・Horne・Zeilinger)状態を生成したことも報告している。計算型だったはずのQuandelaは、測定型も視野に入れているのか?
4⃣ C12 Quantum Electronics 
 C12 Quantum Electronicsは、カーボンナノチューブの電子スピンを量子ビットに使用する、というアプローチを採用している。シリコンの代わりにカーボンナノチューブ(CNT)を使う、という理解でよいだろう。米アルゴンヌ国立研究所の研究者他も、(独自の化学修飾した、単層)CNTに閉じ込めた電子のスピンで量子ビットを作成し、コヒーレンス時間8.2μ秒(決して長くはない。ミリ秒は欲しい)、スピン格子-緩和時間13m秒を記録した[*50]。ちなみに、東北大学は、グラフェンの1次元材料である「グラフェンナノリボン」を使って、新しいグラフェン量子ドットデバイスを開発したことを発表した(23年1月)[*39]。これはシリコンの代わりに、グラフェンを使ったという理解で良いだろう。

(2)ドイツ
0⃣ スパコンと量子コンピュータとの統合に対して、以下の動きがある。
 ① ライプニッツ・スーパーコンピューティング・センター
  独連邦教育研究省が資金拠出して、IQM(超伝導方式:フィンランド)のNISQマシンをスパコンと統合する。
 ② ユーリッヒ総合研究機構ユーリッヒ・スーパーコンピューティング・センター
  ㊀ 独ParTec、NVIDIAと共同で、量子コンピュータと統合したスパコンを研究する研究所を設立した(23年5月に発表)。ParTecはモジュール方式
   スパコンのリーディングカンパニーらしい。
  ㊁ ユーリッヒ総合研究機構は、独eleQtron(イオントラップ方式)の量子計算モジュールをスパコンに統合するプロジェクトEPIQを推進している
   (24年3月25日発表[*138])。ノルトライン=ヴェストファーレン州から4年半にわたり約€21milの資金が提供される。
  ㊂ IQM Spark(5量子ビットのNISQマシン)が24年7月に稼働し、スパコンと統合される予定(24年3月25日発表[*139])。
1⃣ スタートアップ単体での開発①と並行して、政府が資金提供するプロジェクト方式②や、コンソーシアム方式③での開発も精力的に進めている(①は③にmergeされつつあるように見える)。全方位でギアをあげている。
 ① イオントラップ方式で2社(eleQtron、QUDORA technologies)、冷却原子(中性原子)方式で1社(planqc)のスタートアップが、開発を行っている。
 ② a.独連邦教育研究省が資金提供・ユーリッヒ研究所が主導するプロジェクトQSolidが、超伝導方式の量子コンピュータを開発する。
   b.独連邦教育研究省が資金提供・フラウンホーファー応用固体物理学研究所研究所(IAF)が主導するプロジェクトが、ダイヤモンドNVセンター方式の
    量子コンピュータを開発する。ドイツにも拠点がある豪Quantum Brillianceも参加している。
   c.独連邦教育研究省が資金提供・マイクロエレクトロニクス・ドイツ研究所[*42]が主導する「モジュール量子およびニューロモルフィック・コンピュー
    ティング」プロジェクトにおいて、イオントラップ方式量子コンピュータ向けに、"ニオブ酸リチウム"導波路を開発する[*43]。
   d.独連邦教育研究省が資金提供・Q.ANT[*83]が主導する「PhoQuant」[*84]は、量子光方式量子コンピュータを開発する。
 ③ a.独連邦経済・気候保護省を経由して航空宇宙センター(DLR)が資金提供して、イオントラップ方式(メンバー:独eleQtron、独QUDORA technologies、
    英Universal Quantumのドイツ拠点、蘭NXPのドイツ拠点、墺Parity Quantum Computing)の量子コンピュータを開発、
   👉 イオントラップ方式の量子コンピュータ・デモンステレータを、ハンブルグ市に設置と発表(24年5月30日)[*155]。
   b.DLRが資金提供して、量子光方式(メンバー:蘭Quix Quantum、下記(3)②も参照)の量子コンピュータを開発、
   c.DLRが資金提供して、中性原子方式の量子コンピュータ(100量子ビット)をDLRに納入(23年5月)するとともに、H/W及びS/Wを開発(メンバー:独
    planqc、独MenloSystems[主要製品:光周波数コム、レーザー]、墺Parity Quantum Computing)する。
2⃣ ユーリッヒ研究所とアーヘン工科大学の研究者は、2層グラフェンを使って、ほぼ完璧な粒子正孔対称性を示す、2量子ドットの実現が可能であるという研究成果を発表した(natureに論文[*56]を23年3月3日投稿)。2層グラフェンは(ディラック電子系である単層グラフェンと異なり)外部電場により制御可能なバンドギャップを備えている。このため、電子及び正孔を制御(トラップ)できる。また(2次元物質で六角格子構造を持つ)グラフェンは、エネルギーゼロの固有値状態がマヨラナ状態となる。つまり、(トポロジカル量子計算の実現までは、まだ遠いが)トポロジカル量子ビットに繋がる成果でもある。さらに電子正孔対称性がスピンとバレー(軌道角運動量の一種)を遮断し、スピン量子ビットとバレー量子ビットの動作を可能にする、とも主張している。
3⃣ 2021年に設立されたQC Designというスタートアップが23年6月6日にステルスモードを解除した。該社は、「論理量子ビットのスケールアップに必要なテクノロジーをライセンス供与」することを生業とする。昨年、投資家(独Vsquared Ventures、仏Quantonation、独Salvia(独語サイトしかない!))からプレシード資金を調達した、ようである。
4⃣ ①独ダルムシュタット工科大学(応用物理学研究所)の研究チームは、「中性原子量子ビットの平面アレイを大規模に3次元多層化する技術を開発した」と論文[*74]発表した(23年5月)。マイクロレンズアレイのタルボット効果を利用することで、レーザー出力などのリソース追加を比例的には必要とせずに、数百量子ビットを1万量子ビット以上に増加可能と主張する。
② 同大学及びマックス・プランク量子光学研究所は、「レーザー出力による制限を越えて、中性原子方式量子ビットの数を拡張した」と主張する論文[*131]を発表した(24年2月9日@arXiv)。中性原子方式量子ビットには、光ピンセット(光トラップ)で捕捉・整列させた原子が使用される。(マイクロレンズ・アレイを使った)光ピンセットで捕捉できる原子の数は、光ピンセットに用いるレーザーの出力及び光ファイバーの伝送効率により制限されていた。セットアップを、原子種=ルビジウム原子、レーザー光源=チタン・サファイア・レーザーとする。ピンセットアレイの作成に利用可能なシングルモード光ファイバーの最大出力は数ワット程度なので、原子トラップ面までの光学コンポーネントの一般的な損失を考慮すると、捕捉サイト数は約1,500にとどまる。[*131]では、これを2倍の約3,000とした。本質的には、マイクロレンズ・アレイ(MLA)を2つ使うことで、サイト数2倍を達成した。MLAは2つに限定されないので、さらに、量子ビットは増やせる。
† 原子が捕捉される場所。サイト当たりの原子数は0あるいは1→サイトが原子に占有されたら1で、占有されない場合は0(註:この0と1が、量子ビットになるわけではない)。
5⃣ フラウンホーファー応用固体物理学研究所は、200mmおよび300mmウェーハ全体の量子ビット・デバイスの統計的品質測定用「極低温測定セットアップ」の運用を開始した(23年8月31日)。
6⃣ マックス・プランク量子光学研究所他[*132]及びplanqc(独の中性原子方式量子コンピュータ・スタートアップ)は、「光ピンセットに捕捉された1,000個を超える原子の高密度アレイに、継続的に原子を再ローディングすることに成功した」と述べる論文[*133]を発表した(24年2月10日@arXiv)。量子ビット数が増えても、再ローディング時間は現実的な時間スケールである必要がある。そうでなければ、再ローディングが計算のボトルネックとなってしまう。[*133]では、正味2.5秒で130個の原子が再ローディングされた。

(3)オランダ
❶ QuantWareは、新規材料によるQPU開発のため、蘭の官民基金QuantumDeltaNLから€1.1milの助成金を授与したと発表した(22年9月)。詳細は不明だが業界では、「窒化ニオブを電極材料・窒化アルミニウムを絶縁層とする、ジョセフソン接合」が、優れた特性を持つことが知られている。この全窒化物によるジョセフソン接合を使った超伝導量子ビットの作成は、産総研が21年9月、世界で初めて成功した。22年9月27日、東大は、高品質な窒化ニオブ/窒化アルミニウム接合を作製することに成功したと発表した。
❷ QuiX Quantumは、独航空宇宙センター(DLR)と量子コンピュータ及び量子アプリケーションを共同開発する4年・€14milの契約を結んだ(22年9月23日)。対象は、耐量子暗号、量子機械学習、衛星運用の計画最適化、および電池システム開発を目的とする酸化還元反応のシミュレーション。
❸ QuTechは、シリコン量子ドット中のスピンを用いた6キュービット量子プロセッサーを実現したことを報告した(22年9月29日)[*17]。1量子ゲート操作(忠実度99.9%)と2量子ゲート操作(忠実度89~95%)を実行。また、高忠実度の初期化と読み出しを実現するプロトコルを開発し、実証した。
❹ Orange Quantum Systems(OrangeQS)は、プレシードラウンドで€1.5milを調達したと発表(23年9月)。OrangeQSは、2020年にTNO(オランダ応用科学研究機構)からスピンアウトしたスタートアップで、量子チップテスト・システムOrangeQS Industry Systemを開発販売している。TNOは、1932年に蘭で設立された総合研究機関で、基礎研究の商業化や知財ライセンシング等を行っている。2018年12月には日本拠点を横浜に設立している。
👉 OrangeQS Industry Systemが最初の顧客に納入される時期は、24年第4四半期の予定。
❺ アイントホーフェン工科大学のスピンオフ・スタートアップMicroAlignは、シードラウンドで€1milを調達した(24年6月6日)[*158]。高精度ファイバーアレイの商業化が、該社のビジネスである。量子コンピュータの文脈では、以下のような事業機会が存在する。
 光ファイバー・アレイとフォトニック・チップ(光量子コンピュータの量子チップ)間の最適な結合は、ファイバー・アレイのコア位置の不完全性(偏心)によって制限される。該社のマイクロ・アクチュエーターは、ファイバーごとの位置合わせ機能を提供し、偏心による残留位置ずれ損失を抑制する。

(4)スペイン
 ① スペインにQilimanjaro Quantum Techという量子アニーラを開発しているスタートアップが存在する(2019年設立。バルセロナ・スーパーコンピューティング・センター、バルセロナ大学、(スペイン)高エネルギー物理学研究所からのスピンオフ企業)。
 ② バルセロナ・スーパーコンピューティングセンターのスパコンMareNostrum5に、IQM(フィンランド・超伝導方式)の量子プロセッサを統合したことを発表(23年3月)。スパコンとの統合自体は、Qilimanjaro Quantum Tech、GMV(スペインの航空宇宙・防衛、セキュリティ等を手がける企業)が主導。

(5)EuRyQaプロジェクト
 欧州委員会は、22年10月、欧州リュードベリ量子コンピューティング・インフラ(EuRyQa)プロジェクトを立ち上げると発表した。期間3年で€5milを投じる。7か国から11のパートナーを集結させた。冷却原子(中性原子)方式の量子コンピュータを、FTQCに至る次のステップに進めるため、欧州における補完的な4つのプラットフォームを統合する。仏ストラスブール大が主導し、仏Pasqal、イスラエルQuantum Machines、独Qruiseなどが参加している。米国と比べて圧倒的に手薄だった中性原子方式に、EUが本腰を入れた。

(6)デンマーク
 コペンハーゲン大学ニールス・ボーア研究所ハイブリッド量子ネットワークセンターの研究者他は、㊀インジウムヒ素・量子ドットによる(決定論的)単一量子光子源と、㊁絶縁体上にニオブ酸リチウム薄膜で作った光回路、を統合した「フォトニック・プラットフォーム」を開発した(23年5月[*67])。いくつかの重要な光量子情報処理機能を実験的に実現し、ニオブ酸リチウムが、決定論的光源からの光子を処理できる可能性を示した。誤り耐性型光量子コンピュータ実現に、一歩近づいた旨を主張している。
 

【3】英国 Go 2 日本 米国 EU カナダ 豪州 その他地域 中国
 英国は(超伝導方式に比べて)イオントラップ方式のスタートアップが多い。ソフトウェア企業の動向を鑑みても、その理由は、最初に立ちあがる市場を「シミュレーション分野」と見定めているからであろう。(加えて、The Quantum Computing & Simulation Hubの前身組織であるNetworked Quantum Information Technologies Hubが、イオントラップ・アーキテクチャを開発したという歴史的経緯も大きいようである。)
 市場の力などを借りてスタートアップが自力でゴリゴリ成長する米国と異なり、英国は、政府等がプロジェクトのお膳立てをして、プロジェクトリーダーにスタートアップを据える。プロジェクトメンバーは、国を代表する大企業という座組である。日本も参考にしたほうが良いだろう。
(1) スタートアップ
1⃣ Oxford Quantum Circuits
❶ 22年9月、英国の(コロケーション)データセンター事業者Cyxteraとの提携を発表した。この提携は、データセンター内にQPUが本格的に導入される嚆矢となるだろう。ちなみに、Cyxteraは21年10月、NASDAQにSPAC上場した。23年3月には、米(コロケーション)データセンター事業者エクイニクスが東京に有するデータセンターに、OQCのQPUが設置されると発表された。エクイニクスは、データセンター事業者最大手(NTTは、3位。2位は米デジタル・リアルティ)。Cyxteraは、主要プレーヤーの1社。
❷ 23年9月、パイソンベースのコンパイラQuantum Assembly Toolchain(QAT)をリリースした。オプティマイザ機能を内蔵している他、Quantinuum社TKETのオプティマイザ機能をサポートしている。OQC自身のクラウド及びAWS Braketを通じてアクセス可能。
2⃣ M Squared Lasers(M2)は、英国初の商用中性原子方式量子コンピュータシステムMaxwellを公開した(22年11月11日)。Maxwellは、(スコットランドにある)ストラスクライド大が開発したアーキテクチャを実装している。M2は、レーザー発振器やフォトニクスツールを設計および製造している企業で、創業は2003年。
3⃣ ユニバーサル・クォンタム(イオントラップ方式)及び英サセックス大学は、「2つの隣接する表面電極イオントラップモジュールをイオン輸送操作で接続し、高速で決定論的な高忠実度の量子物質リンクを実現させた」と発表した(nature communicationsに投稿された論文[*45]がオンライン公開されたのは、23年2月8日)。正確には、総距離684μmのイオン輸送を、2424s-1の転送速度で実行した。転送中のイオン損失に伴う不忠実度は、7×10-8未満に抑えた。従来は、光接続を用いてモジュール間を接続していたが、転送速度が遅い・エンタングルメント忠実度が低い、などの問題があった。電界を媒介とした接続で接続性能を改善し、イオントラップ方式におけるモジューラ・アプローチを、大きく前進させたとする。
4⃣ 英国の量子ネットワーキング・スタートアップNuクォンタムは、英国政府と量子データセンターのプロトタイプを提供する£2.3milの契約を締結した(LYRAプロジェクト、24年1月29日)[*116]。つまり、モジュラー・アプローチによる量子コンピュータの実現を目指す。モダリティは問わない。(ネットワーク機器ベンダーである)米シスコと協力する。
 Nuクォンタムは、こちらの下表を参照。
5⃣ ORCA Computing(光方式)は、量子ネットワークを進化させる”多重化技術”を開発する共同研究開発コンソーシアムの先導することを発表した(24年6月25日)[*169]。東芝(ヨーロッパ)、インペリアル・カレッジ・ロンドン、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン等と連携する。量子計算の文脈で言えば、モジュラーアプローチによるスケールアップをサポートする取り組みである。

(2) 公的機関
1⃣ スパコン・センター
 STFC(科学技術施設会議)傘下のハートリーセンター(英国のスパコン・センター)は、米Psi Quantum(量子光方式H/Wベンダー:離散光・測定型)との連携を開始すると発表(23年10月)。国家安全保障戦略投資基金からの支援を受け、誤り耐性汎用型量子コンピュータ向けアプリケーション開発に向けた12か月のプロジェクトに取り組む(プロジェクトを立ち上げること自体は、23年3月に発表されている)。科学・イノベーション・技術省(DSIT)からは既に、£9milの資金援助を受けている。
2⃣ 英国立量子コンピューティング・センター(NQCC)
❶ 量子コンピューティング・テストベッドの構築に、英ORCA Computing(離散量光方式測定型量子計算)の光量子プロセッサ[*122]、英Quantum Motion(シリコンスピン方式)の量子プロセッサ[*123]が選ばれたと発表した(24年2月5日)。テストベッドは、GPUベースの高性能コンピューティング・クラスターと緊密に統合される。NQCCは、テストベッドを、フルスタック型量子コンピュータに対するH/WとS/Wの協調設計、量子モダリティに適したアプリケーションの探索などの基盤とする意向。
 ORCAは、24年から、量子古典ハイブリッド・ニューラルネットワーク・アーキテクチャ及び、光量子プロセッサを使用した機械学習用光量子コンピューティング・テストベッドを開発していた。
† ORCAのQPUは、ポーランドのポズナンスーパーコンピューティング及びネットワーキングセンター(PSNC)にも導入されている。PSNC及びORCAは、NVIDIAとの協業を発表(24年5月13日)[*147]。

【4】カナダ Go 2 日本 米国 EU 英国 豪州 その他地域 中国
 カナダには2020年に設立された、infinityQ Technology Incというイジングマシンを開発しているスタートアップが(D-Wave以外にも)存在する。
(1) 量子光方式
1⃣ Xanaduは22年6月、ボソンサンプリングを実行し、量子優位性を達成したと発表した。20年12月に中国も達成しているが、Xanaduは、「プログラマブル」なマシンで達成したという点に意義があるのだろう。→「時間多重化されたスクイーズド光パルスとループ型光回路を用いることで、その計算規模や自由度が劇的に向上している」[*64]
 同社の量子ビットは連続変数量子ビットであるが、そのような量子系のヒルベルト空間は無限次元である。このため、量子機械学習において優位なポジションにある。Xanaduが、量子機械学習を最注力分野と(あるいは特化)している理由の一つかも知れない。なお離散量であることを表すビットを連続量にも適用することは、言語矛盾に当たるとの考えから、連続変数量子ビットの場合、qubitではなくqumodeを使う(こともある)。なお、スクイーズド光(=連続変数量子ビット、qumode)は、量子計算中に発生するエラーを('普通'の誤り訂正符号では)訂正できない。このため、大規模な量子計算は不可能と目されていたが、2014年にGKP符号を用いる方法が提案された。しきい値以下で制御することができれば、GKP符号は、FTQC実現の有望な誤り訂正符号となることが期待される。
2⃣ Xanaduの主なビジネス開発は以下の通り:❶ロールスロイスと協業し、PennyLaneを使って、量子特異値変換(QSVT)向けに調整された量子ソフトウェアを開発する(発表:23年1月)。このソフトウェアを使って、ロールスロイスが、航空宇宙アプリケーション向けの量子アルゴリズムの研究する。❷韓国科学技術研究所とのパートナーシップ締結を発表(23年1月)。次世代リチウムイオン電池の開発に焦点を当てている。❸VWと研究開発パートナーシップを結び、初弾として、リチウムイオン電池の正極材ケイ酸鉄リチウムをシミュレートする量子アルゴリズムを開発する(発表:22年10月)。
3⃣ PennyLaneのマルチノードバージョンをNVIDIAのGPU(A100)上で実装し、スパコンとマージした上で、物理シミュレーションを実行していることをブログ[*91],[*92]で発表した。Xanaduは、22年7月、物理量子ビットの数を超えて量子計算のサイズを拡張する新しい方法を提案している(論文[*93]は23年2月にバージョンアップしている)。この新手法を実現させたのが、マルチノードバージョンである。スパコンは、(ローレンスバークレー研究所が運営する)国立エネルギー研究科学計算センターのPerlmutter。
4⃣ カナダ政府からCAD375milの「返済可能な拠出金」を受け取ったと報道された(24年2月23日)[*126]。返済可能な拠出金=実質的には、貸付金でカナダ特有の制度らしい。金利や返済期間は様々で、金利ゼロもあるらしい[*127]。

(2) シリコンスピン方式
1⃣ シリコンスピン方式では、該当ベンダーPhotonicとnearly equalであろうサイモンフレーザー大学の研究者が、ブレイクスルーに相当する成果をあげた:印刷技術を使って、実質的に15万個の量子ビットを作成した。スケーラビリティという意味では、大きな進歩であるが、量子コンピュータの量子ビットとして動作したわけではないことに注意。
2⃣ テレポートしたCNOTゲートを"決定論的に"実行 
 Photonicは、該社サイトにて、以下を発表(2024年5月30日)[*159]:「シリコンのT中心を使って、モジュール間のエンタングルメント配送を実証し、分散型量子計算と量子インターネットに向けた重要なマイルストーンを達成した」。なお、最初にテレポートしたCNOTゲートを決定論的に実行したのは、米イェール大学のグループ(2018年)[*160]。モダリティは超伝導。Photonicのアプローチは、「ネイティブな通信ネットワーク・インターフェイスを備えた、光学的にリンクされた量子ビットに基づいている」ところに特色がある。つまり既存の通信ネットワークとの統合が容易という点が訴求ポイント。
 具体的には、以下❶~❹を実行した。
❶ 通信用光ファイバーを介して†1、量子情報を伝送する光子が、互いに区別できないことを確認した†2
❷ ❶の光子で、量子ビットをエンタングルすることに成功した†3
❸ 物理的に離れた量子ビット間で、テレポートしたCNOTゲートの遠隔量子論理ゲート・シーケンスを実行した†4,†5
❹ 量子ビットの初期化、読み出し、1量子ビットゲートの実行。
👉 欠けているピースは、Tゲートの実行のみ、という理解で良いだろう。
†1 Oバンド波長(1260~1360nm)。
†2 HOM可視度=0.63(タイムビン5ナノ秒、2光子放出レート0.09Hz)、0.87(タイムビン10ナノ秒、2光子放出レート2mHz)。
†3 ベルペアのエンタングルメント忠実度=0.60(タイムビン40ナノ秒)。
†4 40メートルの光ファイバーで隔離された、2つのクライオスタットに配置された量子ビットに対して実行された。
†5 忠実度0.998、2光子放出レート200kHzがゴールのようである。故に、ゴールは遠い。
 

【5】豪州 Go 2 日本 米国 EU 英国 カナダ その他地域 中国
 オーストラリアのスタートアップでは、量子ビットがシリコンとダイヤモンドNVという、レアなタイプの量子コンピューターのみが開発されている(ようである)。
(1) シリコンスピン方式
1⃣ 忠実度 
❶ Silicon Quantum Computing
 シリコンスピン方式の量子コンピューターを開発しているSilicon Quantum Computing(SQC)は、6月23日、シリコン量子ビットで原子を捕捉し、有機化合物をエミュレートすることに成功したと発表した。つまりシリコンスピン方式で、量子化学シミュレータが可能となったのであり、中性原子(冷却原子)方式と一部コンパラになったと言える。もっとも、この発表には、「量子コンピューター(FTQC)の開発が遅れていることから、投資家の注意を逸らす意図がある」という見方もある。SQCは、CNOTゲートで忠実度99.98%を達成したと論文[*48]上で発表した(23年3月、論文公開は2月)。これは、凄い!
❷ Diraq 
 Diraqは、300mmウェハ†1上・1ケルビンで動作するスピン量子ビットに対して、以下の忠実度(最高値)を達成した、と発表(24年3月27日@nature[*161]):1量子ビットゲート99.85%、2量子ビットゲート(CZゲート†2)98.92%、読み出し及び初期化99.34%。
†1 imec(ベルギー)が、テストチップを製造した。量産では、米グローバル・ファウンドリーと組む。
†2 正確には、decoupled CZ(DCZ)ゲート。DCZゲートは、スピン量子ビット方式に特有のCZゲートで、以下のメリットがあるらしい[*162]。㊀z回転のキャリブレーションが不要、㊁スピンに結合する低周波ノイズの影響が相殺される。
2⃣ 谷状態の制圧 
 シリコンスピン方式では、最低エネルギー状態(谷状態)が量子ビットと競合して、量子計算を妨害する。そのため、谷状態を制圧する必要があるが、シリコン結晶に欠陥があることを前提とすると、完全制圧は難しい。ウィスコンシン大学マディソン校、ニューサウスウェールズ大学他は、欠陥が存在する場合でも谷状態を制御する方法を見つけた(22年4月)[*16]。ゲート電圧を印加することにより、谷状態のエネルギーを制御可能な方法で変化させる、という方法である。
🖋参考1 天然シリコンには3つの同位体が含まれている。そのうち29シリコンは、1/2の核スピンを持つ。28シリコンと30シリコンは、スピンゼロである。1/2のスピンは、シリコンスピン量子ビットのデコヒーレンスを惹起する。このため、シリコンスピン方式の量子コンピュータ開発では、29シリコンを除去する必要がある(反対に、29シリコンの核スピンを積極的に利用するというアプローチも存在する)。豪州企業 Silex Systems Limited は、ニューサウスウェールズ大学及びSilicon Quantum Computing(SQC)と協力、豪連邦政府から支援を受けて、29シリコンを除去したシリコンを顧客(SQC)に提供するプロジェクトを実施している。同プロジェクトは、2020年に始まり、2022年末まで行われる予定。22年12月、28シリコンの割合が99.95%を超える、という目標を達成したと発表。
🖋参考2 英マンチェスター大・豪メルボルン大の研究者は、天然シリコンウェハーにおける29シリコンの残存濃度を2.3±0.7ppmまで減少させた、と発表(24年5月7日@nature communications material)[*146]。
3⃣ ジェリービーンドット
 ニューサウスウェールズ大の研究者は、シリコンチップ上に作製されたジェリービーンドットの電荷特性を調査して、ジェリービーンドットが「シリコンスピン・ベースの量子操作を実行するための有望なプラットフォーム」であることを確かめた、と発表した(論文[*57]投稿は、23年2月20日)。シリコンベースの量子ビット間で量子情報を転送する手段として、「マルチドット相互作用、短距離スピン移動」といった手段の有効性が実証されている。ジェリービーンドットは、その代替として用いられる(単一の)細長いカプラーである。ガリウムヒ素系では代替性が実証されていたが、シリコン系では実証されていなかった、という。

(2)ダイヤモンドNV
 Quantum Brillianceは、英国のスパコンセンターであるSTFC Hartreeセンターに、アクセラレータとしての量子演算処理装置(QPU)を納入したと発表(23年11月)。豪州のPawseyスパコンセンターには、22年6月に納入済。
 ちなみに、Hartreeセンターには、仏Atosの量子シミュレータ、米Psi Quantum(量子光方式H/Wベンダー)のQPUも納入されている。

(3) その他
① (マイクロ波)サーキュレータを開発するアナログ・クォンタム・サーキッツ(AQC)というスタートアップが、23年に設立された。いきなり、A$3milをVCから調達。AQCは、現行品に比べて1000倍小さいサーキュレータの開発を目指している。オーストラリア研究評議会(ARC)量子システム工学センター(EQUS)の研究に基づいている。
 

【6】その他地域 Go 2 日本 米国 EU 英国 カナダ 豪州 中国
 イスラエルは、新しい量子コンピューティング・コンソーシアムに、およそUS$32.5milの資金を投じて、どの量子モダリティが、より実用的かを判断する。地元メディアが、23年1月に報道した。特に超伝導と(トラップされた)イオンの2つの量子モダリティに焦点を当てる。イスラエル・イノベーション・オーソリティ(IIA:Israel Innovation Authority)がこのプロジェクトの資金源となる。IIAは、国内外のイノベーション・エコシステムのニーズに対応するため、実用的なツールと資金提供プラットフォームを提供する独立した公的機関。
 

【7】中国 Go 2 日本 米国 EU 英国 カナダ 豪州 その他地域 
(1) 藩建偉
1⃣ 中国で「量子の父」と呼ばれている藩建偉は、①2つの量子超越(超伝導方式の祖沖之2号、量子光方式の九章)、②通信衛星「墨子号」を使った量子暗号通信、に携わり、さらに③表面符号での、量子誤り訂正の実行に成功した(22年7月)。
2⃣ 10個の原子からなる1次元鎖と、2×4(=8)個の原子からなる2次元ブロックとの間で、マルチパータイト量子もつれを生成することに成功している(23年8月)[*95]。そして、このマルチパータイト量子もつれを、忠実度95.6%、寿命2.20±0.13秒のベル状態と接続している。
(2) アリババ
 スタートアップではないが、アリババが、フラクソニウム量子ビットを採用した量子コンピューターを作動させたとフィジカル・レビュー・レターに発表した(22年6月)[*24]。米Atlantic Quantumが採用しているアプローチである。回路の工夫により、デコヒーレンス及びスケールアップに対処するというアプローチなので、エンジニアリング力が要求される。少なくとも、日本は遥かに凌駕されたことに間違いはないだろう。
👉23年11月、量子研究所の閉鎖を発表。
(3) 百度 
 同じくスタートアップではないが、百度は22年8月25日、「ハードウェア・ソフトウェア及びアプリケーションを完全に統合した初の超伝導量子コンピューターQian Shi(乾始)を開発した」と発表した。併せて、「モバイルアプリ・PC及びクラウドを介して様々な量子チップへのアクセスを提供する、世界初の全プラットフォームの量子ハードウェア・ソフトウェア・統合ソリューションLiang Xi(量義)」も発表した。Qian Shiは、10量子ビットである。
👉24年1月、北京量子情報科学研究院(BAQIS)に量子研究に関する資産を移管することを発表。
(4) 量子クラウド
 中国は、量子コンピューティング・クラウド・プラットフォームを立ち上げた、と中国メディア「チャイナ・デイリー(中国日報)」が報じた(23年5月28日)[*65]。同プラットフォームは、北京量子情報科学研究院(BAQIS)、中国科学院物理研究所(IOPCAS)、清華大学の共同研究である。なおBAQIS(設立:2017年12月24日)は、北京を代表する量子研究拠点として、北京市が「清華大学、北京大学、中国科学院」等、北京市内の複数のトップ学術機関と共同で設立した新しいタイプの研究開発機関である。BAQISは、その設立経緯から、「清華大学、北京大学、IOPCAS、中国科学院半導体研究所(ISCAS)、中国科学院大学(UCAS)、百度、等と研究者の人的交流などで連携している[*66]。
(5) その他
1⃣ 量子光方式のTuring Quantumが開発を目指している「ニオブ酸リチウム」ベースのチップを、米カリフォルニア工科大学の研究者が開発したと発表した(22年9月)[*10]。
2⃣ 玻色量子(Bose Quantum)というイジングマシンを開発しているスタートアップもある。
3⃣ 中国地元メディアは24年初めに、希釈冷凍機「EZ-Q冷凍機」の量産が中国で開始されたと報道した。☛怪しい。
 
※ 資金調達額(下表)は、金額の多寡を技術力「発揚」に利用しているようなので、信憑性に乏しいと思われる。
 

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Appendix A 測定型量子計算
(1) 束縛エンタングルメント
 純粋状態がノイズの影響を受ける等して混合状態になった場合、LOCC(局所操作と古典通信)を用いてエンタングルメント蒸留を実施し、純粋状態に変換する。しかし混合状態は純粋状態とは異なり、LOCCが非可逆であり、蒸留できないエンタングルメント=束縛エンタングルメント(BE)が存在する。BEは極めて弱いエンタングルメントで、抽出することができない。量子通信の文脈では、BEは使い道があるが、測定型量子計算では厄介者でしかない。
 つまり、測定型量子計算の初期準備状態であるリソース状態は、BEが発生しないほうが好都合である。このため、リソース状態において、BE発生を左右する因子を探索することは意味がある。[*A-1]では、①(縦磁場でも横磁場でも)磁場の印加がBEの発生温度領域を狭めること、②ハイパーグラフ状態は、グラフ状態よりBEの発生領域が狭い傾向が見られること、が示されている。

Appendix B スケールアップに伴う超伝導方式量子コンピュータのコスト問題
 誤り耐性量子計算を実現するには、100万もの(物理)量子ビットが必要だと言われている。現状(≒2022年)、数百量子ビットなので、ギャップは大きい。そのギャップを埋めることは技術的に難しいが、コスト的にもシビアである。[*6(再)]にあるように、数百万円/物理量子ビットがそのままスケールすれば、100万論理量子ビット達成には、数兆円を要する(30年頃の実現を仮定して、インフレを考慮すると、1論理量子ビット作成には、1千万円以上かかるだろう)。
 中村(2021)及びIBMのレビュー論文[*A-2]を基に、コスト問題について整理した。
(1) チップレベルのコストアップ要因
1⃣ 超伝導量子ビットは、理想的な2準位系ではない(冷却原子(中性原子)方式で用いられる、リュードベリ原子は理想的な2準位系である)。あくまで、他のエネルギー準位を持つ「有効2準位系」である(下記※)。そのため、精密な制御が要求される。これは、超伝導方式量子コンピュータの製造コストをアップさせる。そして、スケールアップに伴って制御は複雑になり、さらにコストを増加させる。
2⃣ ばらつき
❶ パラメータ設計の自由度が高いという超伝導方式のメリットの裏返しとして、リソグラフィで作製される量子ビットは、パラメータがばらつく。具体的には、ジョセフソン接合の接合抵抗が4%程度ばらつき、量子ビット周波数が2%程度ばらつく([*A-3]によれば、IMECは2020年に、ジョセフソン接合の性能ばらつきが1%以下であると発表)。この問題は、周波数固定型の場合、より深刻となる。周波数可変型だと、周波数を変化させることで、初期ばらつきを、ある程度吸収できるからである。追加的プロセスを導入して、ばらつきを抑えることができるが、それは高コストにつながる。スケールアップに伴って、リソグラフィーステップとプロセスステップが増加する。必然的に、パラメータばらつき問題は、よりシビアになる。
❷ 22年12月、NTTと産総研は「ジョセフソン接合の電荷揺らぎを引き起こす2準位欠陥のタイプを識別できた」と発表した。超伝導磁束量子ビットを用いて、理論的に予想されていたタイプの異なる2準位欠陥(電荷型と臨界電流型)を実験的に識別する方法を提案・実証した[*38]。これは、「種々ある"ばらつき"の一つを抑制する一歩を踏み出した」という発表であり、問題の根深さが垣間見える。
3⃣ 超伝導量子ビットにおける障害の多くは、極低温下でのみ検出可能である。これは、極めて煩雑で困難な作業となる。代わりに、室温で検出可能とするには、多数のチップを測定し、測定データと障害との相関関係を確立する必要がある。ここでも、②に上げた「ばらつき問題」が影響すると考えられる。歩留まりが低下し、製造とアセンブリのデバッグが増加する。これらに伴い、コストが増加する。
[参 考] 超伝導量子ビットにおけるコヒーレンスを制限する主な原因である1/f磁束ノイズの理解に近づいたという論文が、米MITの研究者によってarXivに投稿された(23年1月18日)[*A-13]。超伝導量子ビットの先行きは、決して明るくない。

※ 超伝導量子ビットが理想的な2準位系ではないため(間接的)に生じるデコヒーレンスの要因として、電極中に励起する準粒子がある。その原因として、宇宙線等の高エネルギー粒子線等が考えられている。宇宙線等により引き起こされるバーストエラーに関しては、低オーバーヘッドで推定する手法が開発された(22年9月30日、九大・東大)[*A-4]

(2) パッケージングレベルのコストアップ要因
1⃣ 2次元集積化では、スケールアップに伴って、中央に配置される量子ビットに対する配線の配線密度やクロストークが課題となる。フリップチップ構造から、3次元高集積化を可能とするインターポーザ基板への移行が、解決策にはなる。通常のデジタル回路と同様である。
 しかし、通常のデジタル回路と異なり、量子コンピュータチップでは、高周波アナログ回路としての厳しい仕様が要求される。また、量子ビットのコヒーレンスや共振器のQ値に影響する高周波損失に対する制約もある。これらは、確実にコストアップにつながる。
2⃣ 室温部からの雑音流入を防ぐため、量子ビット制御線には、固定減衰器やフィルタが必要である。さらに、読み出し用配線には、サーキュレータや増幅器が必要である。これらの部品は、大きさがcmオーダーなので、数百量子ビットにスケールアップした場合、現行の希釈冷凍機のサイズに収まらない。普通に考えて、小型化すると、コストは上がると考えられる。部品を小型化する代わりに、冷凍機を大きくするというアプローチも理屈(頭の体操?)の上では、あり得る。
❶ イスラエルの量子ソフトウェア・スタートアップQuantum Machinesは、超伝導量子ビット用チップパッケージQDevilの最新製品「QCage.64」をリリースした(23年2月発表)[*A-14]。最大30量子ビットを、制御・読み出しできる。(当然ながら)低損失、高コヒーレント、高フィデリティを謳っている。QDevilは、同名のデンマーク企業QDevilが開発した製品。極低温~室温にわたる量子プロセッサの動作に不可欠な、補助電子機器及び特殊コンポーネントの開発・製造を行うQDevil社は、2022年3月、Quantum Machinesに買収された。
❷ 日本の国立天文台先端技術センターは、SIS(超伝導体ー絶縁体ー超伝導体)ミキサを増幅素子とする超伝導マイクロ波増幅器(SISアンプ)は「従来型アンプに比べて、消費電力を3桁以上低減可能」という発表を行った(23年3月)[*53]。
 さらに、国立天文台は23年7月4日、新しいアイソレータを開発したと発表した[*A-24]。超伝導方式の量子コンピュータにおいて、アイソレータは、量子ビットと増幅器の間に配置され、信号の逆流を防止し、量子ビットの量子状態が壊れるのを防いでいる。新しく開発したアイソレータは、mmサイズで大幅に小型化できた、とする。従来型の、磁性体を利用したアイソレータは、cmサイズであった。
 下記、Appendix C 量子インターコネクトのロードマップ・・・量子コンピュータ【2】今後10年間の課題、にも「アイソレータのような物理的に大きな電子部品を使用しなければならないため、(量子コンピュータの)スケールアップが制限されている」旨の記述がある。
❸ 蘭のスタートアップQuantwareは、量子コンピュータ本体というより、超伝導方式QPUの開発を主体としている。さらに、QPUの周辺機器を幅広く扱っている。増幅器も該社ラインアップの一つである。超伝導方式の量子コンピュータ(あるいはQPU)は、極低温下で量子ビットの高速かつ正確な読み出しを実現しなければならない。そのためには、超低ノイズの増幅器が必要となる。Quantwareの増幅器は、進行波型ジョセフソンパラメトリック増幅器であり、読み出し多重化と呼ばれる技術を介した広い増幅帯域幅により、多数の量子ビットを同時に読み出すことができる。
 24年2月6日、従来品からサイズを半分以下にした新製品発売を発表した[*A-32]。
[参 考] 日本の産業技術総合研究所は、超伝導方式量子コンピューター向け制御用集積回路で発生するノイズの発生源を特定した、と発表(23年6月)[*A-22]。原子サイズの欠陥に付随して生じる、原子位置の微小な乱れが、ノイズを発生させていた。

(3) スケールアップに伴うコストアップを解決する方策
1⃣ デコヒーレンス対策=(1)①に対する解決策 
 超伝導量子ビットが理想的な2準位系ではないため精密な制御が要求される、という問題を解決する方策として、回路構成自体に工夫を凝らして、デコヒーレンスに対して堅牢な量子ビットを実現するという方策がある。ただし、この策がトータルで、スケールアップに伴うコストを解消してくれるかは、不明確。
 デコヒーレンスに対して堅牢な量子ビットを実現する方法の一つが、トランズモンの代わりにフラクソニウムを使うという策である。これは、米国・スウェーデンのスタートアップAtlantic Quantumが採用している。中国のアリババは、フラクソニウム量子ビットを採用した量子コンピューターを作動させた、とフィジカル・レビュー・レターズに発表している(22年6月)[*24(再)]。他には、0-π量子ビットと呼ばれるアイデアがある。

6⃣ 周波数ばらつき対策=(1)②に対する解決策
 東京大学と理化学研究所は、単一接合トランズモン量子ビット(周波数固定方式、あるいはIBM方式)において課題であった、量子ビット製造時の周波数ばらつき問題を克服する発明を発表した(23年6月30日)[*A-23]。量子ゲートの精度を低下させ、誤りを生む「残留相互作用」を抑制する、3つの周波数固定トランズモン量子ビットから成る回路を提案した。2つはデータ量子ビットで、残りはカプラである。データ量子ビットは、カプラーを介する間接結合と、カプラーを介さない直接結合で、互いに結合している。間接結合は、2量子ビットゲート実行にのみ最適化。直接結合は、残留相互作用抑制にのみ最適化する。こうすることで、高速ゲート操作と高忠実度操作の両立が可能と主張している。
 → 量子ビットが増えることに伴うコスト問題と、量子ビットが増えることに伴う製造時のばらつき(個体間の品質差)問題、歩留まり低下に伴うコスト問題等は、発生しないのだろうか。

2⃣ 測定データと障害との相関におけるばらつき対策=(1)③に対する解決策
 転移学習などの機械学習モデルで、解決することは可能と思われる。

3⃣ 高密度配線対策=(2)1⃣に対する解決策
❶ 高密度配線を避ける方策の一つとして、下記4⃣❹・・・「パリティベース量子計算」が考えられる。
❷ マイクロソフトは、読み出しラインを"1000:1"の比率で多重化することで、読み出しラインの数を減らす方針である[*A-26]。

4⃣ スケールアップの規模を縮小する
 モジュラーアプローチ、ネットワーキング以外に解決策を整理する。
❶ ボゾニック符号を使って、Hardware-efficientに、論理量子ビットを構築するという方策がある。一般に知られているところでは、仏Alice&Bob(猫符号)、加Nord Quantique(GKP符号)が採用している。ちなみにNord Quantiqueには、住友商事が出資している。
❷ 量子誤り訂正ではなく、量子誤り抑制(緩和)で対応するという方策があり得る。量子誤り訂正を行わなければ、物理量子ビットに対して、論理量子ビットを大幅(1000倍)に膨らませる必要が減じる。2量子ビットゲートの忠実度が99.99%を超えると、量子誤り訂正は必ずしも必要ではないらしい。東芝が22年9月に発表したダブル・トランズモン・カプラ[*8(再)]は、シミュレーション上、2量子ビットゲートの忠実度が99.99%を超えるという。
❸ 誤り訂正をクリフォード・ゲートに、誤り抑制を非クリフォード・ゲートに適用すると、魔法状態を用いなくても、(蒸留した)魔法状態を用いた量子計算と同等の計算を実行できる[*A-5]。つまり、規模を小さく抑えることができる。ただし、この組み合わせ解決策には、計算回数が大幅に増えるという副作用がある。
❹ 墺インスブルック大が、22年10月に発表した「パリティベース量子計算」では、「魔法状態→クリフォードゲート=非クリフォードゲート」を使わずに、非クリフォード・ゲートを実行できる。Hardware-efficientであり、スケールアップを抑制できると考えられる。👉パリティベース量子計算については、量子スタートアップ ソフトウェアの巻 AppendixCを参照。
❺ 大阪大学と富士通は、23年3月「高効率位相回転ゲート方式」量子計算アーキテクチャを発表した。このアーキテクチャは、ソロヴェイ・キタエフ定理からフツウに導入される基本量子ゲート、つまりアダマール・ゲート、位相ゲート、CNOTゲート及びTゲートの内、Tゲートを使わない。代わりに、"位相回転"ゲートを使う。このため、魔法状態蒸留に相当する操作及び、物理量子ビットが(それぞれ1/20及び1/10と)大幅に軽減される、とする。Hardware-efficientな方法であり、❶GKP符号・猫符号あるいは、❹パリティベース量子計算と競合すると考えられる。

7⃣ 高周波コンポーネントの特性評価=(2)1⃣に対する解決策
❶ 産総研は、4Kから300 K(-269℃から27℃)の任意の温度において、高周波コンポーネントの特性評価技術を開発した、と発表した(23年9月21日)[*A-25]。従って、これは、解決策というより解決策の一つ手前。
 低温高周波回路の発熱問題を回避しながら、量子ビットの増加に対応するためには、高性能・高密度な低温用高周波コンポーネントを開発する必要がある。その前段として、使用温度における反射・伝送特性(Sパラメーター)を評価する方法が求められていた。産総研は、独自に開発したカスタム冷凍機と機械式の高周波スイッチを利用することで、広い温度範囲にわたる、Sパラメーターの測定を実現した。

5⃣ 配線に関する問題への対策=(2)2⃣に対する解決策
❶ 制御及び測定等を『極低温CMOS(クライオCMOS)チップ』に任せるという解決策がある。 
①米SEEQCのDQM System-on-a-Chip(超伝導方式に限定されない)がある。
 また、SEEQCは、単一磁束量子(SFQ)回路を使ったデジタルチップを発表した(23年3月)[*52]。フラクソニウムを含む全ての超伝導量子ビットのみならず、スピン量子ビットなどの他モダリティとも互換性があるという。SEEQCは、このSFQチップにより「ハードウェア効率の高いデジタル制御・読み出し、および高速・低レイテンシ・スケーラブルな量子誤り訂正量子システムに必要な、高速処理量子ビット・データの実装が可能になる」と主張している。
②Googleも、開発中である。
③英国のSemiwiseは、極低温CMOSチップ用のプロセス設計キットを提供している。
④ちなみに、シリコンスピン方式では、インテル(2021年に2量子ビットの制御に成功[*A-3])、産総研が開発を行っている。
👉 インテルは、「mK(ミリケルビン)温度で動作可能な」シリコンスピン量子ビット制御電子機器Pando Treeを開発した、と該社ブログ[*A-38]にて発表した(24年6月20日)。Pando TreeはHorse Ridge IIと組み合わせて使用する。(4ケルビンで動作する)Horse Ridge IIは、「必要な制御電圧を生成し、1 本の信号線と複数のデジタル制御信号を介してPando Treeと通信する」。Pando Treeは多重分離器として機能し、制御信号を量子ビットに分配し、必要な配線の数を大幅に削減する。具体的には、N個の量子ビットを制御するのに必要な入力信号(=配線の数)は、約log2N 個で済む。100万物理量子ビットの場合でも、配線は20本で済む。
⑤マイクロソフトもクライオ CMOS 制御チップを開発中という[*A-26]。
⑥英Agile Analogと英sureCoreは、極低温制御ASICを開発した(23年12月5日)[*A-30]。Agile AnalogはアナログIP開発企業、sureCoreは低電力組み込みメモリIP開発企業である(半導体業界では、回路設計データをIPと呼ぶ)。該ASICは、Innovate UKが資金提供した「次世代のスケーラブルな量子コンピューターを可能にする極低温CMOS開発」の一環として、米グローバル・ファウンドリーズ(の22nmプロセス)で製造される。
❷ 配線の材料を替えるという解決策がある。 
①光ファイバーに替える(配線は通常、金属ケーブルであり、光ファイバーを使用することで熱負荷を抑えることができる。)
 ㊀カリフォルニア大学サンタバーバラ校、レイセオンBBNテクノロジーズ、伊カリアリ大学、マイクロソフト リサーチ、東京工業大学の研究者は、電流によって運ばれる情報を光に変換するデバイス「磁気光学変調器」を開発した、と発表(2022年9月5日)[*A-6]。このデバイスを用いることで、光ファイバーを使った配線が可能になると考えられている。
 ㊁米リゲッティと蘭QphoXは、光学トランスデューサー(ピエゾオプトメカニカル・トランスデューサー)で超伝導キュビットを読み取ることに成功したと発表した(23年10月9日@arXiv[*A-28])。99%を超える平均忠実度で、光ファイバーを用いた「読み出し」を成功させた。フットプリントは、0.15mm2以下と小さい。QphoXは、マイクロ波ベース量子システムの光学読み取りソリューションを開発している量子テクノロジースタートアップで、蘭QuantWare(22年6月~)及びフィンランドIQM(22年9月~)とも協業している[モダリティは、2社とも超伝導トランズモン]。また、QphoXは24年1月、€8milの資金調達を完了した。
②ハイブリッド材料
 蘭デルフト・サーキットは、革新的な量子コンピューターケーブルCri/oFlexを開発したと主張。Cri/oFlexは、ポリイミドと銀の独自の組み合わせを使用して作成され、マイクロ波性能と柔軟性が高く、非常に薄い極低温ケーブルである。23年9月、シリーズAで€6.3milを調達した。
③その他
 ㊀中国の南方科学技術大学他の研究者は、純アルミニウムのケーブルは、ニオブ・チタン製のケーブルに比べて、接続損失が1桁小さい、との研究結果を発表している(23年2月)[*A-17]。
❻ マイクロ波を多重化して、配線の数を減らすという解決策がある。 
 産総研・横浜国大・東北大・日本電気は、マイクロ波を多重化することで、「1本のマイクロ波ケーブルで1,000個以上の量子ビットを制御可能な、超伝導回路の原理実証に成功した」と発表した(24年6月3日)[*A-37]。理屈の上では、現状のセットアップで、100万物理量子ビットを実現する目途がたったことになるのだろう。
❸ 復号器を冷凍機に入れるという解決策
 極低温下の量子ビットと配線接続している室温下の機器には、量子誤り訂正符号の復号器も含まれる。慶応義塾大学・NTT・名古屋大学・理化学研究所は、極低温下で動作可能な復号器を開発した、と発表した(22年4月1日)[*A-7]。そのような復号器があれば、配線を大幅に減らすことが可能となる。ちなみに、この復号器は、格子手術を行う際の復号処理が可能である。
❹ 冷凍機の収量を上げるという解決策
 大型化はコストアップにしかならないが、大きくせずに収納能力をアップさせることができれば、解決策になる。米スタートアップのMaybell Quantumは、スペース1/10で3倍の量子ビットをサポートする冷凍機を開発したようである[*A-8]→23年3月、Maybell Big Fridgeを発売。23年9月には、デンマーク・コペンハーゲンにヨーロッパ本社を設立した。24年3月、シリーズAでUS$25milを調達したと発表した[*A-33]。
❺ サーキュレータを小型化するという解決策
 豪州で、アナログ・クォンタム・サーキッツというスタートアップが23年(10月?)に設立された。A$3milをVCから調達している。現行品より1000倍小さいサーキュレータの開発を目指している。

[参 考]
⓵ Bluefors
㊀ フィンランドの極低温製品ベンダーBlueforsは、日本のロックゲート社を買収したと発表(23年5月25日、ただし取引完了は6月末予定)。本案件は、事業承継M&Aである。1999年創業のロックゲート社は、BlueFors社の(無冷媒)希釈冷凍機や独Entropy社のクライオスタットといった「極低温関連装置」の輸入・販売を行っており、日本における(超伝導方式)量子コンピュータのサプライチェーンの一翼を担っている。
㊁ 同日(23/5/25)、アールト大学、VTT(フィンランド技術研究所)、IQM(超伝導方式量子コンピュータ・ベンダー:アールト大とVTTからのスピンアウト)との共同研究により、「極低温において、マイクロ波放射の絶対電力をフェムトワットレベルまで測定できるナノデバイス(改良ボロメータ)を開発したと発表[*A-21]。なおBlueforsは、23年3月に、米国の機械式クライオクーラー製造・販売会社Cryomechを買収している。
㊂ 希釈冷凍機システムの超小型バージョンの開発を発表(24年4月23日)[*A-34]。
⓶ VTTは、量子コンピューターの冷却コストを1/10に削減できる可能性がある冷却デバイスを開発したと発表した(23年9月)[*A-27]。開発した冷却デバイスは、放出された電子で放熱する熱電子デバイスである。このデバイスの利点は、いわゆる「後方散乱」(=熱のもどり)を防げるところにあるという。
⓷ (為念)下表は、米ランド研究所のレポートにおいて、具体的な社名があげられている、米国外の量子技術コンポーネント・サプライヤー(一部)である。

⓸ 産総研は、トランジスタの低温動作メカニズムを世界で初めて解明した、と発表した(23年12月10日)[*A-29]。

(4) 理化学研究所の超伝導式量子コンピュータにおけるスケールアップ対策
 理研は、23年3月27日に量子コンピュータをクラウド公開した。以下の取り組みにより、スケールアップ対策を施している[*A-18]。
❶ 2次元集積回路の上では、正方形に並べられた4個の量子ビットが、それぞれ隣り合う量子ビットをつなぐ「量子ビット間結合」で接続されている。また、正方形の中に「読み出し共振器」、「多重読み出し用フィルタ回路」などが配置されている。
❷ 2次元平面に配置された量子ビットへの配線をチップに対して垂直に結合させる垂直配線パッケージ方式を採用した。さらに量子ビット集積回路チップへの配線を一括で接続できる配線パッケージも開発している。
❸ 高精度で位相の安定したマイクロ波パルス生成が可能な制御装置、並びに、同装置を用いて量子ビットを制御するソフトウェアを開発した。

(5) 英リバーレーンのスケールアップ対策
 リバーレーンは、量子プロセッサ(QPU)と、(古典インターフェースで接続されている古典的)制御装置との間で、やりとりされるデータを圧縮するという方法を提示した[*A-31]。データの移動にはエネルギーが必要なので、圧縮してデータ容量を減らせば、熱の発生=熱ノイズを防ぐことができる。データの圧縮と復元時にノイズが発生するため、発熱を抑制する効果との最適なバランスをとる必要がある。なお、一連の技術は、特許取得済のようである。

Appendix C 量子インターコネクトのロードマップ・・・量子コンピュータ
 Q-NEXT[*A-9]量子情報科学センターにより作成された[*A-10](以下、本資料)は、ロードマップである。従って、時間軸を設定した上で、課題を特定し、課題解決につながる技術開発の指針を明示する、という構成を採っている。本資料の対象は、量子技術の主要3分野と呼ばれる、量子コンピュータ・量子通信(並びに量子センシング)である。さらに、主要3分野の実現に通底する概念として、”量子インターコネクト”を、掲げていることが特徴と考えられる。様々なスケールで「つながる」ことは、量子コンピュータの実現のみならず、性能の向上にも大きく資することが述べられている。
 ここでは、量子コンピュータのみを取り上げる。量子通信については、量子スタートアップ 通信のAppendix Cを参照。

【1】量子インターコネクト
(1) 量子インターコネクトとは何か?
 量子インターコネクトは、システム間や異なる長さスケールの間で、コヒーレント量子情報をリンクさせ、移動させる。インターコネクトは、❶量子サブシステム内、❷量子プロセッサー間、❸量子コンピューターと古典コンピューター間の接続、に大別できる。なお、相互接続された量子システムのうち、物理的な距離がある程度離れているものを量子ネットワークと呼ぶ。
 本資料では、「インターコネクトによって、量子アルゴリズムを実行する強力な量子コンピューターを構築することができるようになる」と主張している。
 インターコネクトは、いわゆるモジュラーアプローチを包摂する概念と考えられるだろう。余談ながら、量子コンピュータのスケールアップに、モジュラーアプローチが不可欠であるという考えは、量子モダリティを横断するコンセンサスである(例えば、量子コンピュータの戦略設計【Appendix 4】IBMが語る超伝導型量子コンピュータの未来などを参照)。

(2) 量子計算において重要なインターコネクト
 本資料では、「2種類のインターコネクトが計算において重要である」と主張する。
 1⃣ 一つ目は、量子ビット間の相互作用を利用した量子間インターコネクト。量子間インターコネクトでは、同じ種類の量子ビットを接続する同種インターコネクトと、異なる種類の量子ビットを接続する異種インターコネクトを考えることがさらに有効である。
 2⃣ 2つ目は、量子ビットと古典的な情報要素の間で情報を転送する「量子-古典インターコネクト」である。この情報の流れは、古典的制御から量子ビット制御へ、量子ビットから古典的読み出し(部分的な古典的読み出しを含む)へと、2つの方向から発生する。

(3) ネットワーク型量子コンピュータのインパクト
 本資料は、量子コンピュータの機能に長距離通信が加わった場合に、特に現れる3つの応用例を紹介している。もちろん、「メートルからキロメートルに及ぶ量子ネットワークは、効率的な量子伝送や量子中継器(量子リピーター)など、今後”15年”の間に実現するための広範な開発が必要である」ことも付言している。
1⃣ ブラインド量子コンピューティングでは、クライアントが準備と計測の技術を持ち、計算とデータをサーバから隠すことができれば、安全なクラウド量子コンピューティングプラットフォームを実現することができる。しかし、現実的なベンチマークは今のところ不明である。
2⃣ 分散量子コンピューティングでは、複数の量子プロセッサーをコヒーレントに接続し、1つの大きな量子コンピューターとして動作させる。十分な接続性を確保できれば、個々の量子プロセッサーが独立に動作するよりも指数関数的に性能が向上する。
3⃣ エッジ量子コンピューティングは、量子センシングと統合され、センサーやデータストリームからのデータを計算するために、もつれたリソースを使用することを意味する。ネットワークは、古典的なコンピュータでは実現できない性能のスケーリングを可能にする。

[参考]
 米シカゴ大の研究者は、超伝導式量子コンピュータの出力結果(量子情報)を光ファイバーで送信可能にする方法を提案した(論文[*A-19]の公開は23年3月)。リュードベリ原子(ルビジウム85)を媒介にして、超伝導共振器と光共振器を結合させる。量子情報をもった光子を吸収したリュードベリ原子は、量子情報に対応した、通信波長の光を放出する。現時点で忠実度は低いと思われるが、アプローチとして面白い。

【2】 今後10年間の課題
(1) 量子プロセッサーにおける課題
 本資料では、「量子プロセッサーにおける課題は、エンタングルメントをスケールアップして処理することである」と明言している。そして、「エンタングルメントを移動させるためには、分散したネットワーク全体のコヒーレンスを維持する必要がある。したがって、大きな長さスケールでネットワーク化された複雑で異質な材料系におけるコヒーレンスを制御することが重要な課題となる」と主張する。

(2) インターコネクトにおける課題
 本資料では、掲題課題について頭出しし、以下のように解題している。
1⃣ 低温での量子ビットの入出力、アドレス指定、接続性を改善する
 極低温での量子ビットの接続は難しく、現状では量子ビットを1つのチップに配置する必要があり、アイソレータのような物理的に大きな電子部品を使用しなければならないため、進展が制限されている(→日本の国立天文台は、mmサイズのアイソレータを開発した、と発表(23年7月4日)[*A-24])。量子チップ間の相互接続と量子ビットの読み出しを、大型の部品なしで行う能力を確立すれば、量子ビット数と量子プロセッサのサイズを拡大することが可能になる。

2⃣ 非決定論的原子スケール配置および製造アプローチを用いて、20nm以下の横方向精度、場合によっては3次元に配置された光学活性スピン/格子欠陥をコヒーレントに制御し、対処する
 光学的に活性なスピンおよび格子欠陥は、コンピューティングのための優れた特性を持っている。これらの欠陥を高い空間分解能でコヒーレントに制御することができれば、コンピューティングにとって革新的なものになるだろう。なお、それら欠陥には、❶格子空孔のような結晶欠陥と、❷ドーパントのような外部欠陥がある。

3⃣ ネットワーク型アーキテクチャの開発
① 2つの異種量子ビットのためのネットワーク型アーキテクチャ。異なる量子ビットが異なる利点を持つことは、広く認識されている。例えば、演算速度とコヒーレンス時間のトレードオフ。中性原子やイオンはコヒーレンス時間が長い半面、量子ゲート速度は遅いとされている(必ずしもそうではない。日本の分子研は、中性原子方式において、CZゲートを6.5ナノ秒で動作させている(22年8月))。一方、超伝導量子ビットは量子ゲート速度が速い半面、コヒーレンス時間は短いとされている。
② 大規模(>1000量子ビット)システムのための相互接続アーキテクチャと、その性能をベンチマークするための測定基準。

4⃣ 物質量子ビットから通信用光学光子への変換を99%の忠実度で実証する
 量子コンピュータでは、異なるクライオスタットや超高真空チャンバーに収容された量子ビットを高忠実度で光結合させることが可能である。このような結合が有用であるための忠実度の要件は、おそらく誤り訂正のしきい値によって設定される。しかし、このようなリソースを有効に利用するためのアルゴリズムやアーキテクチャの進歩次第では、より低い忠実度でもエンタングルメント・リソースとして有用である可能性がある。

【3】今後必要となる技術開発
 本資料では、以下のように主張している。
(1)量子ゲートの忠実度とコヒーレンス性の向上
 この主題は、改めて主張するまでもないので割愛(実際、取り立てて新しいことは、何も述べられていない)。

(2)量子ビットの改良された古典制御と効率的でスケーラブルなゲート駆動
 高コストのゲート制御は、小中規模の量子ビット数では許容できるかもしれない。しかし、大規模量子ビットでは、ゲート制御のスケーラビリティとコストが重要であり、クリティカルな可能性がある。コストとスケーラビリティの限界は、いくつかの方法で生じる(Appendix Bも参照)。
1⃣ 低温プロセッサシステムの熱工学的考察
 希釈冷凍機における数十本、数百本の同軸ケーブルの熱負荷は許容範囲内である。しかし、何千本もの同軸ケーブルにかかる熱負荷は、そうではない。
2⃣ 光学系の集積化
 集積化されたフォトニックチップ上で、光レーザーパルスを統合的に配線するニーズが高まっていると予想される。このようなアプローチは、過去15年間のシリコンフォトニクスと光パッケージングにおける開発に基づいており、さらに、量子ビットベースの処理に関連する新しい材料の統合が必要となる可能性がある。
3⃣ 制御信号
 光、マイクロ波、電気などの制御信号の生成にも、スペース、熱負荷、システム/部品コストなどのコストがかかり、特に大型のシステムにはその影響が大きくなると考えられる。この問題を解決するために、低温古典制御が研究されている。

(3)大規模システムにおけるフルスタック量子計算の研究と実証 
 量子コンピュータの大規模化に伴い、ソフトウェアの自動化、マシンアーキテクチャの大規模化、システム統合のテーマがますます重要になる。低レベルの制御信号は、非常に少数の量子ビットを超えて手作業で生成することはできない。そのため、コンパイラ、ファームウェア、物理プラットフォームの抽象化、そして自動化が重要になる。
 重要なのは、大規模(1000量子ビット以上)システムのアーキテクチャ(相互接続アーキテクチャを含む)と、その性能をベンチマークするための指標は、今日ほとんど知られていないことである。この方向での研究は、大規模で有用なシステムの開発・構築を可能にするために極めて重要である。

(4)物理的量子ビット間の量子情報の相互変換
 高忠実度の相互変換が実現できれば、寿命の長い(ただし、遅い)量子ビットから寿命の短い(ただし、速い)量子ビットへ移行する際に、速度面での利点があるはずである。高速な量子ビットは、それ自体が高忠実度な演算をしなければならない。この相互変換はおそらく2回行われる必要がある(1回目は速い領域に入り、2回目は遅い、しかしよりコヒーレントな領域に戻るため)。
 物質系の量子ビットを光子の「データバス」量子ビットに変換することで、より効率的なアーキテクチャを実現できるかもしれない。例えば、多くの量子ビットプラットフォームで見られる最近接結合の制約ではなく、全結合に近づけることができる。

【4】Digression:量子コンピュータにおけるアプリケーション
 あくまで余談として、掲題につき本資料で取り上げられている内容を簡潔に記す[*A-11]。
❶ 量子シミュレーション。物理系では、ハバード・モデル[*A-12]。化学系では、古典計算機では不可能な軌道数(100 超)を持つ量子化学計算。
❷ 量子暗号。
❸ モンテカルロ・アルゴリズムや量子近似最適化アルゴリズム(QAOA)など、グラフ上の最適化問題に適用可能な最適化アルゴリズム。
❹ 線形代数における効率的な計算ソリューションのための量子アルゴリズム(HHLアルゴリズムなど)の展開、及びデータ解析のための機械学習への応用。

Appendix D リュードベリ原子配列が、幅広い最適化問題を、ハードウェア効率的に符号化できるという研究成果
 リュードベリ原子配列は、リュードベリ・ブロッケードのおかげで(ゆえに本質的に)、単位円盤グラフ(UDG)上の最大独立集合(MIS)問題を、自然に符号化することが示されている。自然とは、以下の意味である:UDGであれば、グラフの各頂点は1つの原子で表現でき、ハードウェアの接続性は単位円盤の接続性に直接対応するため、リュードベリ原子を用いた符号化は、オーバーヘッドなしに行うことができる。
 そして、リュードベリ原子配列を用いて最大独立集合問題の解を求める場合、 最適化された(古典的)シミュレーテッド・アニーリング(SA)法に比べて、”超線形”加速(線形加速を超えるだけで、2次加速ではない!)が観測された[*A-15]。ただし、リュードベリ・ブロッケードは幾何学的な制約を課しており、ハードウェア上で実装可能なグラフは、単位円盤グラフに限定される。これが、従前の状況であった。
 米スタートアップのQuEra、米ハーバード大、墺インスブルック大の研究者は、Physical Review Xで23年2月14日に公開された論文[*A-16](以下、本論文。なお、arXivには22年9月8日付けで投稿されている)では、リュードベリ原子を用いた符号化というアプローチを、任意の接続性を持つグラフ上で定義される問題へと拡張した。具体的には、任意グラフ上の重み付き最大独立集合(MWIS)問題、2次制約なし2値最適化(QUBO)問題、素因数分解などである。本論文の貢献は、この拡張手法の構築にある。
 本論文が主張する、成果及び優位性は、以下の通り。
(1) 成果1
 符号化のオーバーヘッドは、最大でもO(N2)である。ここでNは、(リュードベリ原子を用いた)符号化を行う前の、元の計算問題における変数の数である。つまり、ハードウェア効率的(低オーバーヘッド)な符号化が行えたと主張する。
(2) 成果2
 元のMWISと、リュードベリ原子を用いた符号化を実施したMWISの、断熱的時間スケール(ランダウ・ツェナー(LT)時間スケール)を比較して、両者が”相関”することを確認した。これをもって、符号化がアルゴリズムの性能に悪影響を与えないことを示唆している、と結論付けている(回りくどくて、よくわからない。LT時間スケールは、当然、長くなっている)。
 ただし、本論文で扱った問題のサイズは小さく、大きなサイズでも同様の結果が得られるかは分からない、としている。
(3) 優位性
 本論文の手法以外にも、リュードベリ原子配列の適用性を、単位円盤グラフ以外に拡張するアプローチが提示されている。しかし、それらは、①特定クラスのグラフに限定されていたり、②3次元の配列が必要(例えば、尾注*2を参照)であったり、③4体相互作用や、調整可能なイジング相互作用を必要とする。本論文の方法は、リュードベリ・ブロッケードにのみ依存し、2次元アレイしか必要としないため、優位であると主張する。

Appendix E 人工原子・共振器結合系とマイクロ波光子間の決定論的SWAPゲート
【0】はじめに
 105オーダーの物理量子ビット数で量子優位性が発現すると推定する論文が、24年4月29日発表された(詳細は、こちらを参照)。(2048ビットの)RSA暗号を解読するために必要とされる107オーダーと比べると、2桁少ないとは言え、10万個にまで量子ビットを集積化することは、現状では未だ難しい。
 ”超伝導方式”量子ビットの集積化・スケールアップにおける課題に対して、中村(2021)は、「(物理)量子ビット数が1,000に到達する頃には、力業ではなく何らかのスマートな信号伝達手段が必要になると思われる」と総括している(詳しくは、Appendix Bを参照)。
 物理的な配線に代わる、スマートな信号伝達手段として期待されている手段が、マイクロ波光子を介した量子情報の伝達である。東京医科歯科大学及び産総研の研究者は、「マイクロ波光子を超伝導人工原子に1回だけ反射させることで、両者のもつ量子ビットの情報を交換できることを実証した」と主張する論文[*A-35](以下、本論文)を発表した(24年5月23日@Physical Review Applied)。
 本論文で扱われている対象のジャンルは、いわゆる量子インターコネクト(インターコネクション)に属する。細かく言えば、異種量子ビットの量子ビット間インターコネクト(異種量子間インターコネクト)ということになる。量子演算装置(QPU)を光ケーブル(≒量子インターネット)で繋ぐ「量子-古典インターコネクト」と区別するために、敢えて、細かく書き出した。

【2】共振器量子電磁力学 ~ 深強結合領域
 以下は、設楽・越野(2023)を参考にしている。
 共振器を用いて光子モードを離散化し、原子が単一の光子モードとのみ「狭く深く」結合している状況を作ると、原子と光子の間で『可逆な』エネルギーのキャッチボールが起こるようになる。原子と光子モードとの結合を g、原子および共振器の散逸レートをそれぞれ γ, κ で表す。このとき、g ≲ γ, κを弱結合領域、g ≳ γ, κを強結合領域と呼ぶ。ただし、強結合領域であっても、gは、原子の共鳴周波数ωaや共振器の共鳴周波数ωcに比べれば、圧倒的に小さい。結合gがωaやωcと同程度になると、超強結合領域と呼ばれる。そしてさらに、gがωaやωcを越えると、「深強結合領域」と呼ばれる。本論文及び、下記先行研究で扱われている、人工原子・共振器結合系は、この「深強結合領域」に属する。
  深強結合領域は、超伝導回路を使った人工原子・共振器結合系で初めて(2017年)、実現された。深強結合領域の人工原子・共振器結合系を採用する利点は、いくつか上げられるが、本論文・先行研究の文脈で言うと、人工原子とマイクロ波光子との間の双方向で、量子状態転送が可能になるということだろう。つまり、深強結合領域でなければ、双方向での量子状態転送は不可能であろう(と理解している)。

【3】先行研究
 「量子プロセッサーの大規模化へ向けた量子インターコネクションの基盤技術の創成」(2017年10 月~2021年3月)は、本論文の先行研究[*A-36]の一つである。この先行研究では、量子ビットの長寿命化と、マイクロ波共振器の内部Q値🛡1の改善を行っている。具体的には、量子ビットの設計とプロセスの改善🛡2により、T1🛡3 > 10秒を超える量子ビットの作製に成功した。
 先行研究では、両刃の剣でもある「超伝導回路への大容量追加」という手段を、量子ビットの長寿命化のために採用していない。作製プロセスの改善という地道な手段を採用している。
🛡1 共振器内部の光子の寿命。Q値については、10GHz帯域かつ入力光子数~1 において 106を超えることを実証した。
🛡2 具体的には、以下が上げられている:基板や電極表面の酸化膜除去プロセスを追加。アルミとニオブ電極間コンタクトをバンデージ電極で作製することで、基板表面のダメージを回避。
🛡3 (量子ビットの)励起状態が基底状態に緩和する平均時間。エネルギー緩和時間ともいう。ちなみに、T2は「重ね合わせを維持できる平均時間」で、位相緩和時間、デコヒーレンス時間とも呼ばれる。

【4】本論文の主張 
 本論文は、以下を主張する。
(1) 超伝導人工原子🛡4とマイクロ波光子🛡5との間で、双方向の量子状態転送が実際に起こっていることを実験的に確認した。
(2) 量子状態転送における忠実度の平均値🛡6は、マイクロ波光子→人工原子では0.826、人工原子→マイクロ波光子では、0.801であった。
(3) この状態転送忠実度は、実用的なアプリケーションには依然として不十分(☛【5】考察(1))であるが、不忠実度の主な起源は、現在の量子ビット製造技術で克服できる(☛【5】考察(2))。
🛡4 天然原子に対して、人工原子である。また、この場合の人工原子は、超伝導回路と共振器の結合系である。また、超伝導回路が共振器と結合(かつ共振器は導波路と結合している)ので、着衣状態を固有状態としている。裸の状態に対して、着衣状態(dressed state:正式な訳語)という文言が用いられる。
🛡5 マイクロ波領域の単一光子。単一光子状態であることがキモであるが、実際には、弱いコヒーレント状態のパルスを使用している。弱いコヒーレント状態のパルスとは、平均光子数|α|2 « 1(より具体的には、0.1程度)を意味している。単一光子を使わない理由は、量子チップに統合可能な、単一光子を”決定論的に”発生させる量子光源が、容易に入手できないからと思われる。ちなみに、デンマークのニールス・ボーア研究所や仏スタートアップQuandela等は、決定論的な単一光源を開発した、と主張している。
🛡6 単一光子状態を使うべきであるが、実際は、弱いコヒーレント状態のパルスを使って、単一光子状態の転送忠実度を、数値シミュレーションによって推定している。また平均値は、異なる6つの始状態に対して測定された忠実度に対する、算術平均値である。

【5】考察 
(1) Q-NEXT[*A-9]量子情報科学センターにより作成された[*A-10]には、「固体量子ビットから光子量子ビットへの変換(転送)は、99%の忠実度が望ましい」と解釈できる記述がある(詳細は、こちら)。

(2) 一方、本論文の付録A: THEORY OF THE ATOM-PHOTON (SWAP)α GATE 3 数値シミュレーションd.不忠実度の起源では、以下の記述がある:
 ❶十分に弱いパルス(平均光子数|α|2≾0.05)を使用し、単一光子入力に対する忠実度をより厳密に見積もることができれば、忠実度は0.839に達する。❷システムパラメータを変えずに、光子・量子ビットパルスを最適化すると、忠実度は0.849に改善される。❸長寿命の原子量子ビット(T1 = 90 µs)を仮定し、駆動パルスと光子量子ビットのパルスの長さ(それぞれ575 nsと261 ns)を最適化すると、忠実度は0.975に達する。❹分散周波数シフトχを大きくすることでさらに改善できる。

(3) ❸の影響が大きいことがわかる。つまり、量子ビットの長寿命化である。T1 = 90 µsでよければ、すでに先行研究で得られている気がする。結論として、99%の忠実度は視野に入っていると理解して良いのだろうか?

【尾 注】
*0 スピンを表す記号をイメージ。もちろん、中島多様体インスパイアード。(中島啓教授は、2023年から国際数学連合の総裁に就任された。)
*1 https://arxiv.org/pdf/2111.15605.pdf
*2 中性原子方式量子コンピューターにおける組み合わせ最適化問題についての補足:
 中性原子(冷却原子)方式量子コンピューターは、原子が、グラフのノードとエッジを表すことができるため、グラフをシミュレートするための有望なシステムである。加えて、リュードベリ・ブロッケードのおかげで、エンタングルメント(量子もつれ)が、比較的容易に実現可能である。
 多体系では、このリュードベリ・ブロッケードは、リュードベリ原子からブロッケード半径内にある、他の原子がリュードベリ状態へ励起することを抑制する。ブロッケード半径の存在により、中性原子方式量子コンピューターでは、長距離のエッジもしくは同じノードからの多くのエッジを持つ、非平面グラフをシミュレートすることが難しくなる。別の表現を使うと、対応が難しい「組み合わせ最適化問題」がある。
 韓国科学技術院(KAIST)の研究者は、原子列を3次元に構成することで、困難を回避することに成功した(natureにて2022年6月発表→https://www.nature.com/articles/s41567-022-01629-5)。
*3 https://www.nature.com/articles/s41586-022-04986-6 
*4 https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2022/pr20220907/pr20220907.html 
*5 https://www.ims.ac.jp/news/2022/08/0809.html 
*6 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1413732.html
*7 https://www.riken.jp/press/2022/20220913_3/index.html 
*8 https://www.global.toshiba/jp/technology/corporate/rdc/rd/topics/22/2209-01.html
*9 https://www.hpcwire.com/2022/08/30/aws-takes-the-short-and-long-view-of-quantum-computing/ 
*10 Few-cycle vacuum squeezing in nanophotonics (https://www.science.org/doi/10.1126/science.abo6213?cookieSet=1) 
*11 https://www.nature.com/articles/s41534-022-00615-2
*12 https://physicsworld.com/a/new-neutral-atom-qubit-offers-advantages-for-quantum-computing/
*13 https://journals.aps.org/prx/abstract/10.1103/PhysRevX.12.021027
*14 https://www.riken.jp/press/2022/20221012_1/
*15 https://www8.cao.go.jp/cstp/prism/seika/ryoshi_r3/ryoshi1.pdf
*16 How Valley-Orbit States in Silicon Quantum Dots Probe Quantum Well Interfaces (https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.128.146802)
*17 https://physicsworld.com/a/six-qubit-silicon-quantum-processor-sets-a-record/及び、6キュービットプロセッサーの実現(https://www.natureasia.com/ja-jp/nature/highlights/116880)
*18 https://www.tus.ac.jp/today/archive/20220928_5268.html
*19 Takashi Yamakawa,Mark Zhandry、Verifiable Quantum Advantage without Structure (https://arxiv.org/abs/2204.02063)
*20 https://www.jst.go.jp/pr/announce/20211222-2/index.html
*21 https://aip.scitation.org/doi/10.1063/5.0094715
*22 https://www.nict.go.jp/press/2022/10/29-1.html
*23 Robust Preparation of Wigner-Negative States with Optimized SNAP-Displacement Sequences (https://journals.aps.org/prxquantum/pdf/10.1103/PRXQuantum.3.030301)
*24 Feng Bao et al.、Fluxonium: An Alternative Qubit Platform for High-Fidelity Operations (https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.129.010502)
*25 和名は、「輸出等に係る禁止措置の対象となるロシア連邦の特定団体」より (https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/01_seido/04_seisai/downloadCrimea/list_russia_tokutei.pdf)
*26 I.N.Moskalenko et al.、High fidelity two-qubit gates on fluxoniums using a tunable coupler (https://www.nature.com/articles/s41534-022-00644-x)
*27 E.Hyyppä et al.、Unimon qubit (https://www.nature.com/articles/s41467-022-34614-w)
*28 超伝導方式量子ビットはトランズモン以外に、多くの種類がある。ここであげたフラクソニウムとユニモン以外にも、plasmonium、blochnium、0ーπ量子ビット等がある。フラクソニウムに限っても、重いフラクソニウムと高コヒーレント・フラクソニウムがある。数多あるが、一長一短でトランズモンを凌駕していない。
*29 独シーメンスをスポンサーとして、デジタルツインをターゲットとした、非線形微分方程式を高速に解く量子アルゴリズムを開発。
*30 コンテストで優勝したオランダの量子ソフトウェア会社(Qu&Co)を買収し、「材料変形(数学的には、非線形偏微分方程式を高速で解く量子アルゴリズムの開発)」分野で、自動車会社(BMW)と密な関係を構築する。
*31 気候変動が農業に与える影響を予測するサ-ビスを、独BASFに提供(BASFは農薬含めて農業関連ビジネスも幅広く手掛けている)。尚、Pasqal(及びBASF)がイメージしている気象・気候解析の射程は相当野心的であり、Qlimateを立ち上げたPsi Quantumの取り組み(気候変動抑制のため、化学品等の開発を量子化学計算で支援する)とは全く異なる。
*32 仏電力公社EDF、仏クラウドサービスプロバイダーExaion(EDF子会社)と協力して、持続可能エネルギーソリューションを開発するオープンセンターQuaTERAを共同設立することを発表(22年11月15日)。デジタルツインの構築や、EVステーション配置の最適化などで、量子コンピューティング能力を活用する意向。QuaTERAの最初の拠点は、加ケベック州シャーブルックに置く。
*33 伊エネルギー会社Eniと、エネルギーセクター向けソリューションを開発する協業を発表(22年11月17日)。Eniは流域シミュレーション、(磁気閉じ込め式)核融合、再生可能エネルギーなどでスパコンを活用している。量子コンピュータをスパコンのアクセラレータとして使用する。
*34 QEL(モデル出力最適化量子学習としたが、QELに、公式和訳はないと思われる)→機械学習されたモデルのアウトプットを最適化するアルゴリズムを見つける手法。低分子化合物の創薬で言えば、リード化合物の発見と化学修飾の最適化を、連続的に行う手法に例えられる。低分子化合物であっても探索空間が膨大なため、古典コンピュータで全空間を対象に最適化することは難しかった。Pasqalはジョンソン&ジョンソンと協業してQELを開発した[Quantum Extremal Learning、https://arxiv.org/pdf/2205.02807.pdf]。
*35 PINN(PIはPhysics-Informed)→物理系の支配方程式を解くという問題を、「損失関数の最適化問題に変換する」ことによって、支配方程式の解を求める手法。支配方程式自身を損失関数とし、損失関数が最少となるようにニューラルネットワークを訓練する。PINNでは最適化フレームワークと自動微分が肝になる。Pasqalは、自動微分のメソッドに強いと主張している[例えば、Quantum Kernel Methods for Solving Differential Equations、https://arxiv.org/abs/2203.08884]。PINNについては、こちらを参照。
*36 QEK(直訳すれば、量子時間発展カーネルだが、量子グラフカーネルとした)→古典系のグラフカーネルは、グラフ間の距離などでグラフ間の類似度を測る。グラフカーネルは、化合物の毒性予測や自然言語処理で用いられている。一方QEKでは、観測値の測定によって得られる確率分布を各グラフに関連付け、グラフの確率分布間の距離で類似度を測る。[Quantum evolution kernel : Machine learning on graphs with programmable arrays of qubits、https://arxiv.org/pdf/2107.03247.pdf]
*37 シカゴ大学のHannes Bernien教授との共同作業を発表(22年11月30日)。高忠実度の量子ビット制御を可能にする新手法開発がゴール。
*38 https://www.jst.go.jp/pr/announce/20221222/pdf/20221222.pdf
*39 https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2023/01/press20230106-01-graphene.html
*40 Mark A. I. Johnson et al.、Beating the Thermal Limit of Qubit Initialization with a Bayesian Maxwell’s Demon、https://journals.aps.org/prx/abstract/10.1103/PhysRevX.12.041008
*41 https://www.nature.com/articles/s41563-022-01417-9
*42 マイクロエレクトロニクス・ドイツ研究所(FMD)は、フラウンホーファー・マイクロエレクトロニクスグループ所属の11研究所とライプニッツ研究所の計13パートナーが参加する、欧州最大の組織横断型の研究協力枠組み(http://sensait.jp/19873/)。
*43 https://www.ipm.fraunhofer.de/content/dam/ipm/en/PDFs/press-release/PR_Optically-integrated-light-sources-ionbased-quantum-computing.pdf
*44 Xinxin Cai et al.、Coherent spin–valley oscillations in silicon https://www.nature.com/articles/s41567-022-01870-y
*45 M. Akhtar et al.、A high-fidelity quantum matter-link between ion-trap microchip modules https://www.nature.com/articles/s41467-022-35285-3
*46 https://www.jst.go.jp/pr/announce/20230306/index.html
*47 Aaron J. Weinstein et al.、Universal logic with encoded spin qubits in silicon https://www.nature.com/articles/s41586-023-05777-3
*48 Ludwik Kranz et al.、High-Fidelity CNOT Gate for Donor Electron Spin Qubits in Silicon https://journals.aps.org/prapplied/pdf/10.1103/PhysRevApplied.19.024068
*49 https://science.osti.gov/ascr/-/media/grants/pdf/foas/2023/SC_FOA_0003005.pdf
*50 Jia-Shiang Chen et al.、Long-lived electronic spin qubits in single-walled carbon nanotubes https://www.nature.com/articles/s41467-023-36031-z
*51 https://www.eurekalert.org/news-releases/981227
*52 https://www.reuters.com/technology/quantum-computer-startup-seeqc-unveils-digital-chip-that-operates-super-cold-2023-03-15/
*53 https://atc.mtk.nao.ac.jp/news/20230320/ (https://aip.scitation.org/doi/10.1063/5.0134595)
*54 Pavel Hrmo et al.、Native qudit entanglement in a trapped ion quantum processor https://www.nature.com/articles/s41467-023-37375-2
*55 ちなみに、「50個以上の光子を検出すれば、3次位相ゲートが実現できる」という記述がある(https://www.jlab.org/news/releases/counting-photons-quantum-computing)。米トーマス・ジェファーソン国立加速器機関のエンジニアは、約35個の光子を検出できたらしい(ibid、22年12月公開された論文は、https://www.nature.com/articles/s41566-022-01105-9)。
*56 L.Banszerus et al.、Particle–hole symmetry protects spin-valley blockade in graphene quantum dots https://www.nature.com/articles/s41586-023-05953-5 なお、本論文の著者には、物材研の研究者が含まれている。
*57 Zeheng Wang et al.、Jellybean Quantum Dots in Silicon for Qubit Coupling and On-Chip Quantum Chemistry https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adma.202208557 
*58 Simon Storz et al.、Loophole-free Bell inequality violation with superconducting circuits https://www.nature.com/articles/s41586-023-05885-0 
*59 Dolev Bluvstein et al.、A quantum processor based on coherent transport of entangled atom arrays https://www.nature.com/articles/s41586-022-04592-6 
*60 https://www.jst.go.jp/moonshot/sympo/20230328/pdf/01_20230328_tarucha.pdf
*61 「今日、量子コンピュータのコストは、約1億5000万デンマーク・クローネである」との記述がある(https://indiaeducationdiary.in/experts-opine-quantum-computer-exists-but-is-not-all-that-powerful/)。1デンマーク・クローネ≒20円なので、約30億円である。現状は、102量子ビットのオーダーである。前提が100量子ビットとすれば、3,000万円/量子ビットとなる。23年8月30日、フィンランドの量子コンピュータ開発スタートアップIQMは、フィンランドとドイツの大学・研究機関に、5量子ビットの量子コンピュータIQM Sparkを納入した(https://www.thestar.com.my/news/world/2023/08/31/finnish-german-startup-launches-quantum-computer-for-universities-research-labs)。価格は、€1mil未満。€1≒160円として、およそ3,000万円/量子ビットとなる。
*62 https://www.riken.jp/pr/news/2023/20230519_1/index.html
*63 https://research.ibm.com/blog/100k-qubit-supercomputer
*64 武田俊太郎、光量子コンピュータの新時代 ループ型を中心として、応用物理 第92巻 第4号(2023)、pp.214-219
*65 https://www.chinadaily.com.cn/a/202305/28/WS6472ef22a310b6054fad56fe.html
*66 国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター、調査報告書|論文・特許マップで見る量子技術の国際動向、https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2021/RR/CRDS-FY2021-RR-08.pdf
*67 Patrik I.Sund et al.、High-speed thin-film lithium niobate quantum processor driven by a solid-state quantum emitter、https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adg7268
*68 K.Singh et al.、Mid-circuit correction of correlated phase errors using an array of spectator qubits、https://www.science.org/doi/10.1126/science.ade5337
*69 https://www.ibm.com/blogs/think/jp-ja/qv32-performance/
*70 C. Ryan-Anderson et al.、Implementing Fault-tolerant Entangling Gates on the Five-qubit Code and the Color Code、https://arxiv.org/pdf/2208.01863.pdf
*71 https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2022/4/1/220401-1.pdf
*72 アルテミス・プロジェクトは、ニューラルネットワーク(強化学習)ベースの量子制御アプローチを確立し、商業化することを目的としている。量子回路実行時の測定結果に基づいて制御を生成できる(リアルタイム量子誤り訂正を可能とする)リアルタイム・ニューラルネットワークを組み込んだ量子コントローラーを開発する(https://quantera.eu/artemis/)。仏Alice&Bob(H/Wベンダー)、イスラエルのQuantum Machines(S/Wベンダー)及び学術機関が主導する。👉同名かつ有名な「米国が主導する有人月面着陸計画」とは異なる。
*73 https://www.riken.jp/press/2023/20230601_1/index.html
*74 Malte Schlosser et al.、Scalable Multilayer Architecture of Assembled Single-Atom Qubit Arrays in a Three-Dimensional Talbot Tweezer Lattice、https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.130.180601
*75 https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2023/8465/
*76 https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2023/06/0612.html
*77 Takeru Utsugi et al.、Single-electron pump in a quantum dot array for silicon quantum computers、https://iopscience.iop.org/article/10.35848/1347-4065/acac36
*78 「決まったタイミングで電子を一粒ずつ流すことのできる電子回路(固体素子)のことを、単電子ポンプと呼ぶ」、そうである(出典:https://meso.phys.s.u-tokyo.ac.jp/archives/589)。
*79 https://www.riken.jp/press/2023/20230712_2/index.html
*80 論文は、https://ieeexplore.ieee.org/document/10108354
*81 Patrik I. Sund et al.、High-speed thin-film lithium niobate quantum processor driven by a solid-state quantum emitter、https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adg7268
なお、同じタイトルの論文が、arXivには22年11月に投稿されている。
*82 https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2023-07-26-001
 ループ型光量子コンピュータについては、例えば、以下を参照:武田俊太郎、|解説|光量子コンピュータの新時代 ループ型を中心として、応用物理 第92巻 第4号(2023)、pp.214-219。
*83 独・工作機械メーカーTRUMPFの完全子会社で、量子スタートアップ。量子センサー、導波路、量子光方式の量子チップを開発している。該社の量子チップは、シリコンチップ上に特殊な光チャネルを作成して、製造する。PlanQK(量子アプリケーション向けのプラットフォームとエコシステムを開発している)と提携した(23年8月1日)。量子アプリケーションを備えた、簡単にアクセスできるアプリストアを提供する。
*84 最初の解決課題は「予期せぬ遅延が発生した場合の空港でのスケジュールのリアルタイムの最適化」。プロジェクト期間は、2021~2026年。ドイツ連邦教育研究省からの提供資金額は€42mil。詳細は、https://qant.de/en/phoquant-article/あるいは、https://www.ipms.fraunhofer.de/en/Strategic-Research-Areas/Quantum-Computing/PhoQuant.html
*85 https://www.jst.go.jp/pr/announce/20230808-2/index.html 論文は、https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.131.063801
*86 Fumiya Hori et al.、Gapless fermionic excitation in the antiferromagnetic state of ytterbium zigzag chain、https://www.nature.com/articles/s43246-023-00381-4
*87 Mark Field et al.、Modular Superconducting Qubit Architecture with a Multi-chip Tunable Coupler、https://arxiv.org/pdf/2308.09240.pdf
*88 ランダム化ベンチマーク法において、ランダム化したクリフォードゲートと忠実度を調べたい特定の量子ゲートを交互に作用(インターリーブ)させることによって、特定の量子ゲートの操作忠実度を求める方法を、インターリーブ・ランダム化ベンチマーク法、と呼ぶ。出典:樽茶清悟、|総合報告|量子ドットを用いた量子情報デバイス、応用物理 第87巻 第2号(2018)、pp.88-99、https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu/87/2/87_88/_pdf
*89 Nicolas Maring et al.、A general-purpose single-photon-based quantum computing platform、https://arxiv.org/pdf/2306.00874.pdf
*90 例えば、以下:石垣克明、|日本銀行金融研究所ディスカッション・ペーパー| 量子計算の概要:ファイナンスへの応用を例に、2023年8月、https://www.imes.boj.or.jp/research/papers/japanese/23-J-10.pdf、p.51
*91 https://pennylane.ai/blog/2023/09/distributing-quantum-simulations-using-lightning-gpu-with-NVIDIA-cuQuantum/
*92 https://blogs.nvidia.com/blog/2023/09/12/quantum-supercomputers-pennylane/
*93 Angus Lowe et al.、Fast quantum circuit cutting with randomized measurements、https://arxiv.org/pdf/2207.14734.pdf
*94 https://www.dwavesys.com/company/newsroom/press-release/d-wave-demonstrates-state-of-the-art-coherence-results-with-fluxonium-qubits/
*95 Wei-Yong Zhang et al.、Scalable Multipartite Entanglement Created by Spin Exchange in an Optical Lattice、https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.131.073401
*96 Radoslaw Kolkowski & Andriy Shevchenko、Enabling infinite Q factors in absorbing optical systems、https://www.degruyter.com/document/doi/10.1515/nanoph-2023-0281/html
*97 欠番
*98 日立製作所は、量子オペレーティングシステムについて、大学共同利用機関法人自然科学研究機構分子科学研究所・大森賢治教授らの研究グループとの共同研究を開始したことを発表(23年6月)。
*99 https://www.titech.ac.jp/news/2023/067627
*100 V. Bharti et al.、Picosecond-Scale Ultrafast Many-Body Dynamics in an Ultracold Rydberg-Excited Atomic Mott Insulator、https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.131.123201
*101 https://www.pasqal.com/articles/pasqal-announces-partnership-to-develop-the-foundations-of-a-photonic-quantum-processor-powered-by-neutral-atom-technology
*102 William Huie et al.、Repetitive Readout and Real-Time Control of Nuclear Spin Qubits in 171Yb Atoms、https://journals.aps.org/prxquantum/pdf/10.1103/PRXQuantum.4.030337
*103 Google Quantum AI and Collaborators、Measurement-induced entanglement and teleportation on a noisy quantum processor、https://www.nature.com/articles/s41586-023-06505-7
*104 https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2023/pr20231031/pr20231031.html
*105 https://www.iarpa.gov/research-programs/elq
*106 https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2022/4/1/220401-1.pdf
*107 米トーマス・ジェファーソン国立加速器機関及びヴァージニア大学の研究チームは、50個以上(実際は100個以上)の光子を検出した、と発表した(23年11月15日)。出典:https://www.newswise.com/articles/engineers-develop-a-new-detector-system-for-quantum-computing
 従って、3次位相ゲートが実現したことを意味する(はず)。つまり、連続量の量子光を使った万能型量子計算に必要な要素が全て揃ったことになる。*55も参照。
*108 https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2023/12/11/231211-1.pdf
*109 https://www.linkedin.com/posts/qubit-pharmaceuticals_press-release-hyperion-1-activity-7138176101075296258-kK65
*110 https://twitter.com/Extropic_AI/status/1731675230513639757
*111 https://www.infleqtion.com/news/infleqtion-selected-to-join-japans-quantum-moonshot-program-with-leading-neutral-atom-quantum-computing-platform
*112 https://www.hrl.com/news/2024/01/10/hrl-laboratories-and-ucla-researcher-awarded-grant-to-advance-quantum-computing
*113 https://www.quantinuum.com/news/honeywell-announces-the-closing-of-300-million-equity-investment-round-for-quantinuum-at-5b-pre-money-valuation
*114 https://www.infleqtion.com/news/infleqtion-accelerates-commercialization-of-quantum-products-at-scale-with-silicon-photonics-acquisitions
*115 欠番
*116 https://www.businessweekly.co.uk/news/hi-tech/nu-quantum-and-cisco-join-forces-world-first-advance-after-%C2%A323m-contract-win
*117 https://pr.fujitsu.com/jp/news/2024/01/25-1.html
*118 SHUNYA KONNOet al.、Logical states for fault-tolerant quantum computation with propagating light、https://www.science.org/doi/10.1126/science.adk7560
*119 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/24/00073/
*120 https://www.quera.com/press-releases/quera-and-pawsey-partner-to-drive-innovation-in-quantum-computing-and-supercomputing-in-the-united-states-australia-and-around-the-world
*121 https://www.quera.com/press-releases/quera-to-build-worlds-most-advanced-quantum-computing-testbed-in-the-uk
*122 https://orcacomputing.com/orca-computing-to-deploy-quantum-photonics-testbed-to-uk-national-quantum-computing-centre/
*123 https://quantummotion.tech/quantum-motion-wins-bid-to-deliver-first-silicon-quantum-computing-prototype-to-nqcc/
*124 https://www.riken.jp/press/2024/20240213_2/index.html
*125 https://www.technologyreview.jp/n/2024/02/22/330015/
*126 https://www.hpcwire.com/off-the-wire/government-of-canada-supports-xanadu-to-accelerate-quantum-computing-research-and-education/
*127 https://www.tpsgc-pwgsc.gc.ca/recgen/cpc-pac/2023/vol1/s9/appa-olia-eng.html
*128 独マックス・プランク研究所(固体化学物理学研究所)、伊フェデリコ2世・ナポリ大学、ニューヨーク市立大学シティカレッジ、独ライプニッツ研究所(固体・材料研究所)。
*129 Valentina Brosco et al.、Superconducting qubit based on twisted cuprate van der Waals heterostructures、https://arxiv.org/pdf/2308.00839.pdf
*130 https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.132.017003
*131 LARS PAUSE et al.、Supercharged two-dimensional tweezer array with more than 1000 atomic qubits、https://arxiv.org/pdf/2310.09191.pdf
*132 他は、ミュンヘン量子科学技術センター(MCQST)とルートヴィヒ・マクシミリアン大学。MCQSTは、ミュンヘン工科大学、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学並びにマックス・プランク研究所が中心となって、2019年1月に設立された量子コンピューティング専門の研究機関(出典:https://www.invest-in-bavaria.com/ja/blog/post/躍進するヨーロッパの量子コンピューティング)。
*133 Flavien Gyger et al.、Continuous operation of large-scale atom arrays in optical lattices、https://arxiv.org/pdf/2402.04994.pdf
*134 Robert D. Delaney et al.、Scalable Multispecies Ion Transport in a Grid Based Surface-Electrode Trap、https://arxiv.org/pdf/2403.00756.pdf
*135 https://www.tus.ac.jp/today/archive/20240321_9493.html
*136 https://www.gouvernement.fr/actualite/france-2030-point-detapes-trois-ans-apres-le-lancement-de-la-strategie-nationale-des-technologiques-quantiques-et-lancement-du-programme-proqcima
*137 https://alice-bob.com/newsroom/nvidia-cuda-quantum-dgx-alice-bob-dynamiqs-cat-qubits/
*138 https://www.fz-juelich.de/en/news/archive/press-release/2024/epiq-a-quantum-supercomputer-made-in-nrw
*139 https://www.meetiqm.com/newsroom/press-releases/julich-to-install-iqm-spark
*140 https://alice-bob.com/blog/more-quantum-computing-with-fewer-qubits-meet-our-new-error-correction-code/
*141 https://www.pasqal.com/news/pasqal-and-welinq-partnership/
*142 https://www.quera.com/press-releases/aist-selects-quera
*143 https://www.pccluster.org/ja/event/data/240205_pccc_wsAI-HPC-OSS_05_takano.pdf
*144 Hannah J. Manetsch et al.、A tweezer array with 6100 highly coherent atomic qubits、https://arxiv.org/pdf/2403.12021
*145 https://community.intel.com/t5/Blogs/Tech-Innovation/Data-Center/Intel-Demonstrates-High-Spin-Qubit-Wafer-Fidelity-and-Uniformity/post/1593938?wapkw=AEM%20Afore
*146 Ravi Acharya et al.、Highly 28Si enriched silicon by localised focused ion beam implantation、https://www.nature.com/articles/s43246-024-00498-0
*147 https://orcacomputing.com/psnc-and-orca-computing-announce-collaboration-with-nvidia-to-accelerate-the-development-of-hybrid-quantum-classical-high-performance-computing/
*148 https://www.pasqal.com/news/pasqal-and-thales-tackles-satellite-planning-challenges/
*149 https://www.aramco.com/en/news-media/news/2024/aramco-signs-agreement-with-pasqal-to-deploy-first-quantum-computer-in-the-kingdom-of-saudi-arabia
*150 U. Réglade et al.、Quantum control of a cat qubit with bit-flip times exceeding ten seconds、https://www.nature.com/articles/s41586-024-07294-3
*151 https://arxiv.org/pdf/2307.06617
*152 https://alice-bob.com/newsroom/alice-bob-wins-16-million-grant/
*153 https://alice-bob.com/newsroom/riverlane-and-alice-bob-quantum-error-correction/
*154 https://www.pasqal.com/news/pasqal-and-tech-mahindra-join-forces-to-advance-quantum-computing-applications-globally/
*155 https://parityqc.com/nxp-eleqtron-and-parityqc-reveal-quantum-computing-demonstrator-for-dlr-qci
*156 https://www.quera.com/press-releases/qperfect-and-quera-announce-collaboration-to-propel-simulations-of-quantum-error-correction-and-logical-quantum-algorithms
*157 https://www.pasqal.com/news/ibm-and-pasqal-initiate-collaboration/
*158 https://microalign.nl/microalign-closes-seed-funding-round/
*159 https://photonic.com/news/photonic-demonstrates-distributed-entanglement-between-modules/
 Photonicは、2023年11月からマイクロソフトと協業しており、マイクロソフトも同じ内容を該社ブログに投稿している🛡1(こちらの方が、やや分かり易い)。Photonics自身の、やや詳しい資料🛡2及び論文🛡3もある。
🛡1 https://cloudblogs.microsoft.com/quantum/2024/05/30/in-collaboration-with-microsoft-photonic-demonstrates-quantum-entanglement-at-telecom-wavelengths/
🛡2 https://photonic.com/wp-content/uploads/2024/05/Photonic-Distributed-Entanglement-Whitepaper.pdf
🛡3 Photonic Inc.、Distributed Quantum Computing in Silicon、https://photonic.com/wp-content/uploads/2024/05/DQC-in-Si-May-Final.pdf
*160 K.S.Chou et al.、Deterministic teleportation of a quantum gate between two logical qubits、https://arxiv.org/pdf/1801.05283
*161 Jonathan Y. Huang et al.、High-fidelity spin qubit operation and algorithmic initialization above 1 K、https://www.nature.com/articles/s41586-024-07160-2
*162 T.F.Watson et al.、A programmable two-qubit quantum processor in silicon、https://www.nature.com/articles/nature25766
👉上記nature論文はオープンアクセスではないが、以下はオープン:https://pure.tudelft.nl/ws/portalfiles/portal/73616889/nature25766taverne.pdf
*163 Matthias Rosenkranz et al.、Quantum state preparation for multivariate functions、https://arxiv.org/pdf/2405.21058v1あるいはhttps://arxiv.org/html/2405.21058v1
*164 https://www.quantinuum.com/news/weve-just-found-a-new-resource-efficient-way-to-set-up-calculations
*165 https://www.aist.go.jp/aist_j/news/au20240617.html
*166 https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2024/06/0617.html
*167 https://www.moodys.com/web/en/us/insights/climate-risk/exploring-the-potential-of-quantum-reservoir-computing.html
*168 https://pr.fujitsu.com/jp/news/2024/06/18.html
*169 https://orcacomputing.com/orca-computing-leads-rd-consortium-to-pioneer-quantum-networking-multiplexing-technologies/
*170 Grégoire Pichard et al.、Rearrangement of single atoms in a 2000-site optical tweezers array at cryogenic temperatures、https://arxiv.org/pdf/2405.19503

*a クランチベース等の2次情報には、誤りが散見されるので、該当組織のWebサイト等で可能な限り確認した。As of 24年7月(適宜アップデートする)
*b 2021年5月のラウンドは、正確にはシリーズBの一部であり、かつコンバーティブル・ノートでの資金調達。
*c 出所:2022年7月13日付、日本経済新聞朝刊。住友商事のWebサイトにも出資したとの記述あり。
*d Improved Readout of Spin Qubits https://physics.aps.org/articles/v16/s27
*e 英国家安全保障戦略投資基金(NSSIF)は、英国政府とブリティッシュ・ビジネス・バンクの共同イニシアチブ。NSSIFは、国家及び国防上の利益となる軍民両用技術への投資に、長期資本を活用することを目的としている。他には、極超音速技術開発などに投資している(https://www.rolls-royce.com/country-sites/japan/discover/2022/delivering-the-future-of-uk-hypersonic-capabilities.aspx)。
†2013年に設立されたブリティッシュ・ビジネス・バンク自体は、「中小企業による資金調達のリクエストを受けて、それを民間金融機関などのパートナー金融業者に繋げ、当該パートナー金融業者に対するファイナンスや、彼らが提供するローンに対する保証等の方法で支援を行っている」(出所:https://www.camri.or.jp/files/libs/356/201703271125011626.pdf)。
*f AFWERXから125万ドルの直接フェーズ2に選定されたと発表した。AFWERXは、米空軍省と空軍研究所のいわばコーポレートベンチャーキャピタル。直接フェーズ2は、フェーズ1(Proof of Conceptのフェーズ)を経ずに、フェーズ2(R&Dフェーズ)に採択されること。SBIR(Small Business Innovation Research)では国立衛生研究所、国防総省及び教育省で、2011年から直接フェーズ2が可能となった。出典:https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000414.pdf

*A-1 https://chuo-u.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=16453&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1
*A-2 S.Bravyi et al.、The Future of Quantum Computing with Superconducting Qubits (https://arxiv.org/pdf/2209.06841.pdf)
*A-3 川畑史郎、量子コンピュータ技術の最前線と未来、JRCM NEWS No.414、pp.3-6 (http://www.jrcm.or.jp/jrcmnews/2104jn414.pdf)
*A-4 https://www.jst.go.jp/pr/announce/20220930-2/index.html
*A-5 Z.ナザリオ、最大の難関「エラー訂正」を実行する新手法、日経サイエンス、2022年08月号
*A-6 https://www.nature.com/articles/s41928-022-00823-w
*A-7 https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/04/01/220401a.html
*A-8 https://www.maybellquantum.com/
*A-9 2020年に設立された Q-NEXTは、米国エネルギー省(DOE)のアルゴンヌ国立研究所が主導しており、3つの国立研究所・10大学・14企業から約100名の専門家が集結している。Q-NEXTの使命は、量子情報の制御と配信のための科学技術を開発し、量子科学・工学における重要な発見と米国の競争力を実現すること、とされている。https://q-next.org/
 DOE傘下の国立研究所が主導する量子イニシアチブには、他にも、①ブルックヘブン国立研究所が率いる量子アドバンテージ共同設計センター(C2QA)、②オークリッジ国立研究所が率いる量子科学センター(QSC)、③ローレンス・バークレー国立研究所が率いる量子システム加速器(QSA)、④フェルミ国立加速器研究所が率いる超伝導量子材料・システムセンター(SQMS)などがある。
*A-10 A Roadmap for Quantum Interconnects(2022年7月)、 https://publications.anl.gov/anlpubs/2022/12/179439.pdf
*A-11 これは、ほぼ呪文として定着している。例えばアーサーDリトルのレポート(UNLEASHING THE BUSINESS POTENTIAL OF QUANTUM COMPUTING、22年9月、https://www.adlittle.com/en/insights/report/unleashing-business-potential-quantum-computing)でも、「一般的にアプリケーションは、次の4つに分別される」と書いている:❶シミュレーション、❷最適化、❸機械学習、❹暗号。(IDCの高性能コンピュータ(HPC)部門であった)ハイペリオン・リサーチの調査(https://hyperionresearch.com/hpc-market-update-webinar-pre-sc22/)では、㊀機械学習、㊁シミュレーション・モデリング、並びに最適化(同率2位)、㊃サイバーセキュリティである(定量的な順序あり)。Zapata Computingのレポート(https://www.zapatacomputing.com/enterprise-quantum-adoption-2022/)でも、㊀機械学習、㊁シミュレーション・モデリング、並びに最適化である(定量的な順序あり)。
 日本でも、呪文の復唱が行われている。例えば、藤吉栄二氏(野村総合研究所IT基盤技術戦略室エキスパート研究員)は、「量子コンピュータが適用できる領域は主に4つある」と述べている:①最適化計算、②機械学習、③シミュレーション、④暗号(日経ビジネス、22年11月14日号、p.58。9月13日に行われたセミナーの誌上再現)。実は、順番に注目すると、面白い。
*A-12 ハバードモデルとは、強相関電子系を記述するミニマムモデルである。具体的には、①フェルミ準位近傍(=低エネルギー)にあるd軌道(バンド)のみを取り出して、他のバンドを無視した上で、②本来は長距離である電子間のクーロン相互作用を、短距離に制限して加えた、有効模型である。強相関電子系では、電子間のクーロン斥力が重要であり、最も強く効きそうな最短距離での反発力のみを考慮しているから、ミニマムモデルである。強相関電子系でも、f電子を扱う場合は、周期(的)アンダーソンモデル(アンダーソン格子モデルとも言う)を用いる。不純物模型=アンダーソンモデルにおいて、f電子を周期的に配置した模型が、周期(的)アンダーソンモデルである。
*A-13 David A. Rower et al.、Evolution of 1/f Flux Noise in Superconducting Qubits with Weak Magnetic Fields https://arxiv.org/pdf/2301.07804.pdf
*A-14 https://www.quantum-machines.co/blog/quantum-machines-releases-quantum-chip-carrier-for-seamless-high-fidelity-integration/
*A-15 S. EBADI et al.、Quantum optimization of maximum independent set using Rydberg atom arrays https://www.science.org/doi/10.1126/science.abo6587
*A-16 Minh-Thi Nguyen et al.、Quantum Optimization with Arbitrary Connectivity Using Rydberg Atom Arrays https://journals.aps.org/prxquantum/pdf/10.1103/PRXQuantum.4.010316
*A-17 Jingjing Niu et al.、Low-loss interconnects for modular superconducting quantum processors https://www.nature.com/articles/s41928-023-00925-z
*A-18 https://www.riken.jp/pr/news/2023/20230324_1/index.html
*A-19 Aishwarya Kumar et al.、Quantum-enabled millimetre wave to optical transduction using neutral atoms https://www.nature.com/articles/s41586-023-05740-2
*A-20 An Assessment of the U.S. and Chinese Industrial Bases in Quantum Technology、https://www.rand.org/pubs/research_reports/RRA869-1.html
*A-21 https://phys.org/news/2023-05-quantum-scientists-accurately-power-trillion.html
*A-22 https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2023/pr20230612/pr20230612.html
*A-23 https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/news/topics/20230630100000.html
及びhttps://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.130.260601
*A-24 https://www.nao.ac.jp/news/science/2023/20230704-atc.html
*A-25 https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2023/pr20230921/pr20230921.html
*A-26 https://quantumcomputingreport.com/a-deeper-dive-into-microsofts-topological-quantum-computer-roadmap/
*A-27 https://technewsspace.com/a-thermionic-cooler-for-chips-has-been-developed-it-will-help-in-the-development-of-quantum-computers-of-the-future/
*A-28 T.C. van Thiel et al.、High-fidelity optical readout of a superconducting qubit using a scalable piezo-optomechanical transducer、https://arxiv.org/pdf/2310.06026.pdf
*A-29 https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2023/pr20231210/pr20231210.html
*A-30 https://www.agileanalog.com/press-posts/agile-analog-partners-with-surecore-on-cryocmos-project
*A-31 https://www.riverlane.com/blog/engineering-quantum-error-correction-how-our-no-code-low-power-compression-unlocks-fault-tolerant-operations
*A-32 https://www.quantware.com/press/launch-quantum-amplifier
*A-33 https://www.maybellquantum.com/articles/maybell-quantum-announces-25m-series-a-funding-led-by-cerberus
*A-34 https://bluefors.com/press-releases/bluefors-reveals-ultra-compact-dilution-refrigerator-system/
*A-35 Kazuki Koshino & Kunihiro Inomata、Bidirectional state transfer between superconducting and microwave-photon qubits by single reflection、https://journals.aps.org/prapplied/pdf/10.1103/PhysRevApplied.21.054049
*A-36 猪股邦宏、研究終了報告書「量子プロセッサーの大規模化へ向けた量子インターコネクションの基盤技術の創成」、https://www.jst.go.jp/kisoken/presto/evaluation/s-houkoku/sh-r02/JST_1112078_17939688_2020_PER.pdf
*A-37 https://www.ynu.ac.jp/hus/koho/31908/34_31908_1_1_240603054220.pdf
*A-38 https://community.intel.com/t5/Blogs/Tech-Innovation/Data-Center/Intel-s-Millikelvin-Quantum-Research-Control-Chip-Provides/post/1608558

【参考資料】
中村泰信、超伝導量子ビット研究の進展と応用、応用物理 第90巻 第4号(2021)
阿部英介・伊藤公平、固体量子情報デバイスの現状と将来展望 万能ディジタル量子コンピュータの実現に向けて、応用物理 第86巻 第6号(2017)
占部伸二、イオントラップを用いた量子情報処理、生産と技術 第66巻 第4号(2014)
中川賢一、レーザー励起リドベルグ原子を用いた量子もつれ状態の生成とその量子情報への応用、レーザー研究 2011年12月
Daichi Okuno et al.、High-resolution Spectroscopy and Single-photon Rydberg Excitation of Reconfigurable Ytterbium Atom Tweezer Arrays Utilizing a Metastable State、J. Phys.Soc.Jpn.91,084301(2022)(https://journals.jps.jp/doi/abs/10.7566/JPSJ.91.084301)
設楽智洋・越野和樹、超強結合~深強結合領域における共振器量子電磁力学、日本物理学会誌 Vol.78, No.3, 2023


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