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量子スタートアップ ソフトウェアの巻[*0]

Ⅰ 全体整理
 以下、各国・地域において量子コンピューター向けソフトウェアを開発しているスタートアップ等についてまとめた。基本的な情報ソースは、各社のWebサイトである。ハードウェア同様、イジングマシン・量子アニーラ等を対象としたスタートアップは(基本的に)含めない。
 ハードウェアと異なりソフトウェアのスタートアップは、本社所在地が新興国やイスラエルにあるなど、地理的多様性が見られる。また、(単純に)社数が多い。俯瞰で言うと、「目の付け所が面白いイスラエル」と「尖った英国」。日本にとって大いに参考になる。
 ほとんどの量子ソフトウェア企業(アプリケーション分野)は、hardware agnosticをアピールしている。量子アニーリング方式を含めて、全方式対応という意味である。その一方、基盤ソフトウェアでは、物理シミュレーション・化学シミュレーション分野が最初に立ち上がると考えて、中性原子方式・イオントラップ方式を最初のターゲットと考えるスタートアップもある。

‖Appendix‖ A 汎関数繰り込み群+ニューラルネットワークの衝撃 B キラーアプリと目されているケースでの量子コンピュータQCの利点
 C パリティベース量子計算 D ZX計算 E CCCによる量子コンピューティング・レポート

Ⅱ 個別整理

【0】日本 Go 2 米国 EU 英国 カナダ 豪州その他
(1) 勝ち筋 
1⃣ OSの制御部分 
 日本発でグローバルに使われているソフトウェアは、ほぼない。ビジネス分野(ERP、CRM、SFA、BIなどにおけるプロダクトを指している)、管理分野(アトラシアンのJIRAなどを指している)、解析分野(応用:NASTRAN、ANSYS、FLUENTなど。汎用:MATLAB、Mathematica、Mapleなど)、統計分野(SPSS、SAS、S-PLUSなど。加えて、R言語)等、幅広で眺めても、ほぼない。
 数少ない例外は、RUBY(言語)と組み込み系OSのトロン(ITRON)であろう。こういった事実は、示唆に富む。加えて、スパコンにおける日本の絶対的な強みである、低消費電力技術。この2つを鑑みると、量子ソフトウェアにおいて日本が担当すべき箇所は、OSの制御部分(の知的財産)であろう。例えば、「低レイテンシ&低オーバーヘッドで、古典コンピューターと量子コンピューターのリソースを最適ハンドリングして、十分なパフォーマンスを発揮させる制御技術」を提供することが、ターゲットになると推量する。FTQC時代になっても「計算タスク」、は古典コンピューターとの協同作業である。
2⃣ ベンチマーク 
 ベンチマークとして、(英国からフィンランドに本社を移転した)QuantrolOxが上げられる(ただし、当社は、量子モダリティとして超伝導を推しているわけではない。むしろ逆)。QuantrolOxは、(蘭QuTechのスピンオフで)量子ビット制御機器を開発しているQbloxとの提携を発表(23年8月)するとともに、Blueforsとも密に連携している。Blueforsは、フィンランドの極低温製品ベンダーで、日本の同業者ロックゲート社を買収している(23年5月)。戦略的打ち手を着実に積み上げている印象。
† シリーズAでUS$26milを調達したと発表(24年6月20日)[*53]。
❚参考❚
 情報通信研究機構・理研・東京理科大・東大は、「量子ビット数が大きくても、忠実度1の量子回路を探索可能な確率的手法」を実証したと発表(24年5月9日)[*50]。詳しくは、こちら

(2) 大阪大学発スタートアップのQunaSysは、量子化学計算を主戦場としており、出口としては、革新的な材料開発を掲げている。Qamuyというクラウドサービスでの利用が可能である。2022年3月、シリーズBで12.4億円(ざっくりUS$10mil)を調達している。23年5月には、IBM Venturesから資金調達したことを発表(調達額は非開示?)。

(3) 富士通は、24年1月25日「富士通$100,000量子シミュレータ・チャレンジ」コンテストの優勝4チームを発表した(@蘭デルフト)[*28]。同コンテストは、同社の39量子ビット・量子シミュレータを使って、各チームが個々の課題を解く。最優秀賞は、フィンランドのQuanscient Oyであった(EUの項を参照)。次点は、英国のRiverlane、(同率)3位(の一つ)はインドの新興企業であった(こちら参照)。

【1】米国 Go 2 日本 EU 英国 カナダ 豪州その他
(0) 大企業
1⃣ SandboxAQ(グーグルの親会社アルファベットからスピンオフした、量子技術開発企業)
❶ バイオファーマ分子シミュレーション部門AQBioSimが、ステルスから脱したと発表(23年6月)。カリフォルニア大学サンフランシスコ校「神経変性疾患研究所」との協業成果を基に(神経変性疾患を主対象として)、AIと量子技術を活用したインシリコ創薬を目指す。タンパク質ーリガンド結合親和性予測に有効である「自由エネルギー摂動法」を使って、ヒット化合物を探索する。計算コストが高い手法であるが、グーグルは独自の演算処理プロセッサTPUを使ったDMRG(密度行列繰り込み群法、≒テンソルネットワーク)やDFT(密度汎関数法)の高速化に知見・経験を有する。
❷ 創薬、二次電池設計、グリーンエネルギー等の化学反応を予測するため、NVIDIAとの協業を発表(23年11月)[*24]。NVIDIA量子プラットフォーム上で、テンソルネットワークを使用して、量子力学アルゴリズムを実行する。cuTENSOR、cuTensorNet等を使用する。
2⃣ マイクロソフトは、AI・量子技術を融合させて、化学や材料分野の研究を加速させるAzure Quantum Elementsを発表(23年6月)。特定分野の化学シミュレーションを 50 万倍高速化するなどと謳う。
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 全体傾向で言えば、ビジネスモデルとしてプラットフォーマー指向が強い。いわゆるプラットフォーム=H/W+S/W(言語・開発環境・ライブラリ)は、いくつかのH/Wベンダーが提供している。具体的には、IBM、Google、Rigetti、Xanaduである。マイクロソフト(アジュール・クアンタム)とアマゾン・ブラケットは、それら4つのプラットフォームよりも、Strangeworks Ecosystemに近いだろう。
(1) Strangeworksのアプローチで面白いところは、Strangeworks QCの協業者に、Qurecaや Stack Overflowが含まれているところ。H/WではAtom Computing、Cold QuantaやBleximoがカバーされていて面白い(メジャー処ではIonQ、Rigetti、Xanadu、IBM、Quantinuum、D-Wave)。S/Wでは、シンガポールの2社(Entropica LabsとHorizon Quantum Computing)がカバーされていて面白い。

(2) Quantum Computing(QCI)
1⃣ Qamplifyは、プラグマティズムの国、米国らしいアプローチ。QCIは、Entropy Quantum Computing(EQC)を利用して、自動運転車のBMWセンサー最適化問題を6分以内に解決した、と発表した(22年7月)。QCIは、「EQCは、計算結果に環境自体を考慮に入れることによって機能する。QPU自体の外部にあるすべての変数を制御する必要がないため、時間とコストが節約される」と主張している。EQCは、確率論的コンピュータと、同じアプローチを採用しているのかもしれない。あるいは量子散逸計算であろうか。
2⃣ リザバーコンピュータ(及び量子乱数生成器)を開発したと発表(23年10月)。該社リザバーコンピュータの消費電力は、従来のコンピュータ比で、80%~95%少ないと主張。24年には、量子リザバーコンピュータをリリース予定。

(3) QC Ware は、医薬品・化学品および材料の発見を(劇的に)加速するよう設計された、SaaS型量子化学プラットフォームPromethium のリリースを発表(23年4月、AWS Marketplaceにてプライベートベータ版が一般公開)。Promethiumのコア技術は、NVIDIAのGPU パワーを活用するため特別に設計された量子化学ツールセットであり、「他の商用プラットフォームで、数日~数週間かかる約 2,000 原子のシミュレーションを、数時間で提供できる」と主張している。
👉 Promethiumを使うと、インシリコ創薬向け深層学習モデルの「学習データ」を30倍高速に生成できると主張。また、Promethiumは高速なので(結果的に)、大きな分子の学習データを生成することができると主張(24年3月18日)[*40]。まとめると、Promethium(QCWare)は、インシリコ創薬に大きく貢献する、と主張。

(4) Zapata Computingは、ニューヨーク証券取引所にSPAC上場すると発表した(23年9月6日)。"買収企業"Andretti Acquisition Corp.のオーナーは、オートレーサーのマリオ・アンドレッティ(1978年F1ワールドチャンピオン)と息子のマイケル・アンドレッティ(91年CARTチャンピオン、93年F1参戦)。評価額は、US$200mil。Quantinuum(当時はHoneywell)は、ケンブリッジ・クォンタム・コンピューティングをUS$300milで買収している(21年6月)。

(5) POLARISqbは、DARPAと研究契約を結んだと発表(23年10月)。タンパク質間相互作用を阻害する小分子を特定する、新しい変分量子アルゴリズムを作成することが、ミッション。対象疾患は、感染症から癌まで幅広い。
 

【2】EU Go 2 日本 米国 英国 カナダ 豪州その他
 米国にも存在しない金融機関に特化した企業が、相当数存在する。個別企業ではBeit(ポーランド)とJos QUANTUM(ドイツ)、Qruise(ドイツ)が面白い。
(1) スペイン
❶ マルチバース・コンピューティングは盛んに、量子"ユニバース"全体の実務的・商業的アピールを行っている[*1]並びに[*9]。
 24年3月、シリーズAでの資金調達を発表[*38]。オーバーサブスクライブ(Oversubscribed:目標金額を上回る金額を調達した、という意味)を強調している。スタートアップがオーバーサブスクライブを強調することは、通常行動。
㊀ 英オックスフォード・クォンタム・サーキッツ、米ムーディーズ・アナリティクスと共に、量子古典ハイブリッドPINNを使った、洪水予測モデルを開発すると発表した(23年10月31日)[*22]。洪水リスク評価と管理を、より正確かつ効率的にするために量子コンピューティングを利用する。計算対象は、2次元浅水流方程式。3社は、イノベートUKが支援するQuantum Catalyst Fundコンペティション第1フェーズへの参加権を獲得した。第1フェーズでは、£0.1milの資金提供を受けた。第2フェーズに移行すれば、予算は£1.2mil。
㊁ デジタル・ツインと量子インスパイアード・アルゴリズムを使用して、グリーン水素生産の効率を高めた、と発表(23年11月29日)[*26]。パートナーは、再生可能プロジェクトとデジタルツインを専門とするエンジニアリング会社IDEA Ingeniería(と、スペインのデジタル産業協会AMETIC)。デジタル・ツインは、プラントの動作パラメータを入力として使用して、グリーン水素製造プラントを数値的にシミュレートする。量子インスパイアード・アルゴリズム(→テンソルネットワーク)を使用して、グリーン水素生成に使用される電気分解プロセスを最適化することにより、水素生成とそれに伴う収益の5%増加を達成した。
㊂ 米ムーディーズ・アナリティクスと共に、(量子インスパイアード・アルゴリズムを含む)量子アルゴリズムを、開発並びに検証できるプラットフォームQFStudio™を立ち上げた、と発表(23年12月6日)。古典アルゴリズムとの比較機能が備わっておリ、量子>古典であれば、QFStudio™を通じて、量子アルゴリズムを実行できる。
㊃ 行列積状態(MPS)ベースのクラスタリング・アルゴリズムが、脅威インテリジェンスにおいて、優れた性能を発揮するという論文[*42]を発表した(24年1月5日@arXiv)。量子インスパイアード機械学習を適用した結果である。つまり、古典データを量子データで表現し直し(「量子特徴量を使用する」と述べた方が通りが良い?)、MPSを使って(量子特徴量から)情報を縮約した上で、(量子)機械学習モデルを構築する。"優れた"の意味は、「異常イベントの高識別率と、低誤検知率の両立」及び「高い説明可能性」である。高い説明可能性の根源は、⓵MPSベース・モデルは(量子特徴量を経由するので)特徴量に、確率が自然に紐付く、⓶(量子特徴量から、密度演算子を構築することで)エンタングルメント・エントロピー(EE)を算出できる、ことに求めることができる(EEを使うことで、特徴量の相互依存性を簡単に明示できる。またEEから相互情報量を、簡単に計算できる)。
 まとめると、「MPSベースの学習モデルは、学習モデル出力の根拠を提示し易い」。その理由は、追加のツールを使わず簡単に、特徴量から確率や相互情報量などを計算できるから。
† インシデント・レポート・イベントの平均83.5%が異常として正しく識別され、すべての攻撃タイプが検出された。平均誤検知率は1.39%であった。
㊄ 「AI-BOOSTによる大規模AIグランド・チャレンジにおいて、スパコンを使用する時間80万時間を獲得した」と発表した(24年6月27日)[*56]。マルチバースによる「テンソルネットワークを使ってLLMのサイズを大幅に削減できた」という研究成果を活用して、最低300億個のパラメータを持つ大規模LLMを開発する。

(2) オーストリア
❶ 墺Parity Quantum Computing(ParityQC)が面白い→当面は、量子アニーラを対象として、適宜、拡張するのであろう。
㊀ 量子アニーラで要求されるQUBOの軛から逃れて、組み合わせ最適化問題以外の最適化問題にも適用範囲を広げることに成功したようである。NECとパートナーシップを結んでいる。
㊁ 墺インスブルック大学の研究者は、元々、量子アニーリング用に設計されたLechner-Hauke-Zoller(LHZ)アーキテクチャに基づく、新しい万能量子計算手法を提案した(22年10月27日)。詳しくは、Appendix Cを参照。ParityQC≒インスブルック大学なので、同社サイトにも記事が掲載されている[*4]。
 LHZアーキテクチャに基づく量子誤り緩和技術を近似的量子最適化アルゴリズム(QAOA)に適用し、大幅に誤差を軽減できたと論文[*21]で発表した(23年1月12日@arXiv)。ParityQCとインスブルック大学の共同研究。
㊂ インスブルック大学は、23年6月、仏Pasqal、米QuEra(ともにモダリティは中性原子)との提携を発表。QuEraとは、大規模な最適化問題に取り組むことを目的としている。これは、「中性原子方式(の最適化マシン)は、量子ビットの幾何学的配置を利用することで、(他モダリティの)ゲートベース(の万能量子計算機)で実装するのが、非現実な多くの制約を符号化できる」という判断である。こちらを参照。
㊃ ドイツ航空宇宙センター(DLR)から、QuantiCoM Q2Hプロジェクトを受注した(23年11月)。QuantiCoM Q2Hは、QuantiCoM(Quantum Computing for Materials Science and Engineering)のサブプロジェクト。QuantiCoMは、量子コンピューティングを利用した材料科学と材料工学における高度なシミュレーション手法の開発を目指しており、QuantiCoM Q2Hは、対象を「水と水素」に限定している。プロジェクト期間は26年までの3年間。

(3) ドイツ
1⃣ スタータップ(企業)
❶ Kipu Quantumは、断熱ショートカットに関するフロントランナーである。
㊀ 22年12月27日、断熱ショートカットをタンパク質畳み込み問題に適用し、QAOAをアウトパフォームしたと発表(論文[*8]をarXivに投稿)した。こちらを参照。
㊁ 23年11月21日、航空宇宙センター(DLR)のプロジェクト「BASIQ」に参加した、と発表した[*25]。BASIQの目標は、ゲート方式量子コンピューター(現実的には、NISQマシン)用の電池材料シミュレーションを開発することである。同プロジェクトクトは、3年間継続され、独連邦経済・気候保護省から資金援助を受ける。
㊂ CINFOと協力して、スペイン・ガリシア州の通信ネットワーク事業者Rに対して、光ファイバー通信ネットワークにおけるサイバー攻撃からの回復力を向上させる量子アルゴリズムを開発した(24年1月23日)[*29]。「回復力を向上させる」ためには、まず、ネットワークに、切断または故障が発生した場合に、サービスに最も大きな影響を与える可能性のある最も機密性の高いノードを特定する。その情報からサイバー攻撃を予測することで、ネットワークの可用性とサービスの卓越性の最大の指標を達成することが可能になる(らしい)。量子アルゴリズムは、2フェーズで実行された。第1フェースはD-Waveのアニーリングマシンで、第2フェーズはQuEraの(中性原子方式)NISQマシンで実行された。
† 次のように説明されている:電気通信ネットワークおよびビデオと人工知能の交差点における高性能システムを専門とするガリシアのテクノロジー企業。
❷ ParTecは、イスラエルQuantum Machinesと協力してQBridgeを開発した。QBridgeは、スパコンと量子コンピューターのシームレスな統合を可能にするソフトウェア・ソリューション。さらに、量子コンピューターをモジュール式スパコンと統合する際のギャップを埋めることを目的とした、ソフトウェアParastation Modulo 2.0も開発している。
2⃣ 公的機関 
⓪ DLRが資金提供するプロジェクトBASIQにKIPUが参加している(↑❶㊁参照)。
① DLRが資金提供する「量子機械学習を活用して気候モデルを改善するプロジェクト」を、planqc及びd-fine[*31]が受託(23年9月)。
② DLRはplanqcとd-fineとの新たなプロジェクトを発表(24年1月)[*32]。プロジェクトの目標は、量子アルゴリズムとその実行を管理するための統合プラットフォームを確立すること。
③ DLRは、超伝導ナノワイヤー単一光子検出器(SNSPD)を改善するプロジェクトに対して、スペインMultiverse Computing及びSingle Quantumと契約した(24年1月)[*33]。量子シミュレーションを使用して、超伝導薄膜の屈折率を計算する。
3⃣ QUASIMプロジェクト
 QUASIMプロジェクトは、独連邦経済・気候保護省(BMWK)が資金提供している。
❶ 量子古典ハイブリッド機械学習モデルが、実アプリケーションにおいて、古典モデルよりも優れた性能を示したと(学会[*43]@24年1月3日~6日のプロシーディングにおける論文[*44]として)発表した ⇒ ❚結果❚に示す通り、量子機械学習の実用性は、未だ見えない!
❚概要❚
 モデル・アーキテクチャは、グラフ・ニューラルネットワーク[*46]。"量子特徴量"を使って、グラフに入力データを埋め込む。この部分(入力データの符号化)だけが、量子的であり他は古典モデル。実アプリケーションとは、レーザーを使った金属加工(切断)における熱シミュレーションの代理モデル構築である。
❚データセット❚
 データセットは、数値シミュレーションにより生成(グランドトルゥースも、シミュレーション出力)。
❚結果❚
①優→ 入力データ埋め込みに、(ノード埋め込み器として)多層パーセプトロン(MLP)を使ったモデルと比較し、優れた結果を示した。比較した計量指標は、MSE(平均自乗誤差)。つまりMSEが、より小さかった。
②劣→ 学習に要したトータル時間は、量子モデルが桁違いに長い(5万倍~6万倍)。従って、現時点での実用性は乏しいだろう(数値シミュレーションの方が速いのでは?)[*45]。
❚優れている理由❚
 「量子特徴量」埋め込みが優れている理由は、以下のように主張されている:㈠「量子特徴量」埋め込みを実行する量子回路のユニタリ行列が、フルランク(階数最大)†1、㈡該ユニタリ行列による写像が全単射†2
†1 MLPを使用する場合、フルランクでない「重み行列」が生成される(該ユニタリ行列の古典対応が、重み行列である)。フルランクでない=埋め込む特徴量に冗長性がある。従って、特徴量を埋め込む場合、重み行列は低ランクでないことが望ましい。
†2 全単射=入力特徴量に対して、埋め込みが一意。つまり、特徴量の情報損失や歪みが防止されて、忠実度の高い埋め込みが実現できる。
‖補 遺‖
 量子特徴量を使った機械学習は、注目を浴びている量子機械学習の3大トレンドの一つとして、解説記事[*47]に上げられている:3大トレンド→㊀量子生成モデル、㊁量子特徴量を用いた機械学習、㊂量子データに対する量子機械学習。㊁の実例として、スペイン・マルチバースのサイバーセキュリティ事例(参照:上記(1)❶㊃)。

(4) スイス(EUではなく、欧州として・・・)
❶ Terra Quantumが八面六臂の活躍を見せている(量子暗号分野は、ここでは触れない)(下表にTerra Quantumはない→通信を参照)。量子ソフトウェアの分野では、もはや英ケンブリッジ・クォンタム・コンピューティングと双璧だろう(マルチバースやザパタを超えた感じ・・・)。
⓪ NVIDIAとの協業を発表(23年11月14日)[*23]。Terraが開発している量子・古典ハイブリッド・アルゴリズムをNVIDIAのプラットフォーム(GPU+CUDA Quantum)で実行できるようにする。
㊀ HSBCとの提携を発表した(23年9月7日)[*18]。銀行業務における様々な最適化問題において、量子古典ハイブリッドアルゴリズムが古典アルゴリズムを凌駕する問題を探索する。候補の一つは、「担保の最適化」。
㊁ 英金融ブティックCirdan Capitalと協業して、マルチアセット(つまり高次元)のオートコーラブルを、"ベンチマークに比べて"75%速く(10分が2分になった!)プライシングできた、と発表した(23年7月6日)[*19]。
㊂ 独Honda Research Institute Europeと協業し、地震時における自動車の緊急避難計画最適化問題において、量子古典ハイブリッドアルゴリズムが古典アルゴリズムよりも7%高精度であると論文[*20]で発表した(23年7月28日@arXiv)。実は、ややこしい内容である。こちらを参照。

(5) フィンランド
 富士通が実施した「富士通10万ドル量子シミュレータ・チャレンジ」でQuanscient(下表参照)が『流体力学の量子アルゴリズム』で最優秀賞を獲得[*28]。具体的内容は、「量子技術を流体力学の分野に応用することによる複雑な流体シミュレーションの実行」、「車両/船舶/航空機の製造や生物医学で使用できる量子アルゴリズムの開発、および計算パフォーマンスの測定と評価」。

(6) フランス 
 WelinqとEDFが主導するパリ地域資金プロジェクトAQADOCは、分散量子アルゴリズムと量子ネットワーキングソリューションを開発して、エネルギーセクターの量子優位性を実現することを目指しているらしい[*52]。Pasqal(中性原子方式H/W)、Quendela(量子光方式H/W)、Le Lab Quantique†1とTeratec†2と協力している。
†1 グローバルな量子エコシステムの出現を支援するために設立されたフランスの非営利団体。
†2 よくわからない。

【3】英国 Go 2 日本 米国 EU カナダ 豪州その他
 ハードウェアでは尖った印象は無いが、ソフトウェアでは、ARMやディープマインドのような綺羅星が存在するように思われる。PhasecraftとRiverlaneが、異彩を放っている。
(1) Phasecraft
1⃣ 22年10月11日、「フェルミ・ハバード・モデルの実装に成功した、スケーラブルな(NISQを対象とした変分)アルゴリズムを開発した」と発表した[*3]。一般的なフェルミオン系で使用される技術を含めて、様々な誤り抑制技術を使用している。なお、量子スピン液体(カゴメ格子反強磁性体)のシミュレーションを提案するなど、相当先まで観ている。
2⃣ エネルギー・グリッド(送配電網)最適化を検討する£1.2milの契約を獲得したと報道された(24年2月6日)[*35]。資金は、英政府の量子技術促進基金から拠出される。この契約はフェーズ2で、24年1月1日から開始されている。フェーズ1は、エネルギー・グリッドにおける最適化問題を解決するために量子コンピューティングをどのように使用できるかを調査した[*36]。フェーズ2では、エネルギーネットワーク研究コンソーシアムSupergen Energy Networks Hubと協力し、量子ソリューションを使用して、最適化問題に優先順位を付けて対処することを試みる。エネルギー・グリッドの維持管理には、電線1kmあたり最大£1.5milのコストがかかるため、最適化のニーズは大きいという。

(2) Riverlane
 Riverlaneは、量子コンピューター用OSの開発等を行っている。
1⃣ アルゴリズム変更によって、量子化学計算に必要なリソースが激減するとの推測を発表した(22年11月10日)。分子軌道と電子がおよそ50の活性空間に対して、量子位相推定を使って基底エネルギーを求める計算を、①鈴木-トロッター公式を使った場合と、②(疎な)キュビタイゼーションを使った場合とで比較。①は千年以上、②は7.6日と推測した。なお、キュビタイゼーション(qubitization)で計算リソースが減少するという報告は他(例えば、[*5])にもあり、VWと加Xanadu(ザナドゥ)Quantum Technologiesによる新電池開発プロジェクトでもqubitizationにおける計算リソースの推定が行われている[*6]。
2⃣ リアルタイム復号器(decoder)をASICで製造することを発表した(23年9月13日、該社公式ブログ[*12]に投稿、論文[*13]を9月11日arXivにて公開)。24年にテープアウトされる予定。ASICはFPGAよりも高速・廉価・低消費電力。量子誤り訂正符号の文脈における復号器とは、シンドローム測定の結果から、元の量子情報を推定するデバイスである。復号のアルゴリズムには、Collision Clusteringデコーディング・アルゴリズムを使用。量子誤りのクラスターを成長させ、それらが衝突するかを評価することで機能する(らしい)。誤り訂正符号としては、(各種)表面符号が(当面の?)対象。復号器のIPもリリースする(Verilogが使われている)。なお、"半導体"の文脈におけるIPとは、回路設計データのことを言う。
👉 欧州イノベーション評議会(EIC)から「Transition」スキーム†1の助成金£2.1milを獲得したと発表(24年5月1日)[*48]。蘭Qbloxが提供する量子制御システムと統合される予定。
†1 2021年からEICでは、Pathfinder、Transition、Acceleratorという研究段階に応じた3スキームで公募を実施し、採択プロジェクトへの助成等を進めている。Transitionの対象は、「実環境での技術検証・実証、市場準備」である。出所:https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2021/OR/CRDS-FY2021-OR-02.pdf
[為参考1] なお、表面符号の復号器をComputation in memoryに実装し、深層学習(LSTM)で復号を実行するという研究が東大で行われている[*14]。なお、ニューラルネットワークを使った復号器の簡単なレビューとして、例えば[*15]がある。
[為参考2] 強化学習ベースのリアルタイム量子誤り訂正の実現を目指すプロジェクトとして、アルテミス計画(https://quantera.eu/artemis/)がある。
3⃣ 英ロールスロイス(及び英国立量子コンピューティング・センター)と提携して、「量子シミュレーションに要する量子ビット数を、大幅に削減する方法論を構築する」と、発表した(23年12月18日)[*27]。ジェットエンジンに使用する材料の新規開発を、当面の対象とする模様。本質的には、材料シミュレーションにおける価値の高いユースケースを特定することが目的。イノベートUKから資金提供を受けている。
7⃣ 英ロールスロイス、加ザナドゥとの共同チームが、「ジェットエンジンを通過する空気の流れを、量子古典ハイブリッドモデルで計算するアプリケーションの開発を加速させるため、イノベートUKから£0.4mil以上の助成金を獲得した。カナダ国立研究会議産業研究支援プログラムからも、CA$0.5milが提供された」[*39]。
4⃣ 「富士通10万ドル量子シミュレータ・チャレンジ」にて『量子安定性実験』で優秀賞(第2位)を獲得[*28]。具体的内容は、「リーケージ・エラー†2を伴う現実的なノイズモデルの下での、量子誤り訂正の重要なベンチマークである、量子安定性のシミュレーション」、「量子計算で誤差を引き起こすさまざまな種類のノイズに対する量子安定性の検証と、これまで観察されていない挙動の発見」。
†2 {0}あるいは{1}が、「{0}でも{1}でも(どちらでも)ない状態」に遷移してしまう量子誤りを、リーケージ(leakage)エラー、という。(遷移した状態が分かっている)ビット反転エラーや、位相反転エラーよりも、深刻な量子誤りである。※言わずもがな、「量子ビットは、{0}と{1}の(量子力学的)重ね合わせ状態」という通常セットアップ下での説明。
5⃣ マサチューセッツ工科大学プラズマ科学・核融合センターと共同で、プラズマ・ダイナミクス・シミュレーション向けの効率的な量子アルゴリズムの開発に取り組むことを発表(24年1月30日)[*30]。
6⃣ 米オークリッジ国立研究所(ORNL)が主導する「量子誤り訂正技術がスパコンに与える影響を調査する」プロジェクトに参加することを発表した(24年2月27日)[*37]。リバーレーンが量子誤り訂正技術を提供し、ORNLのスパコン(IBM製のサミット)とリゲッティ(モダリティは超伝導)の量子ハードウェアを"リモートで"繋いで検証する。具体的には、量子H/W+スパコンのパフォーマンスを測定するベンチマーク・スイートQStoneを構築する。
8⃣ 米国防高等研究計画局(DARPA)が資金提供する量子ベンチマーク・プログラムのフェーズ 2に選ばれた、と発表(24年4月17日)[*49]。現実的なアプリケーション実行に必要な、量子リソース及び古典リソースの推定を目的とする。現実的とは、「プラズマ物理、流体物理、凝縮系物理、高エネルギー物理」を指しており、必ずしも商業的という意味ではない。南カリフォルニア大学、シドニー大学、ロスアラモス国立研究所等と協力して実施する。"ただし"、リソース推定は、表面符号を前提としている。
9⃣ 仏アリス&ボブ(モダリティ:超伝導)が、該社の量子誤り訂正技術を導入する契約を締結したと発表(24年5月29日)[*51]。

(3) Cambridge Quantum Computing(米Quantinuumの子会社)
1⃣ 動的電子相関まで考慮して波動関数を求める方法論の一つ、多参照摂動論計算を、新たに開発したハイブリッド量子古典アルゴリズム(QRDM-NEVPT2)で実行することに成功した(arXiv投稿22年10月)[*7]。古典コンピュータで量子状態を表現する量子部分空間展開法を使うNEVPT2に対して、QRDM-NEVPT2は量子デバイス上で縮約密度行列(RDM)を使う。FTQC版への拡張を見据えている。
2⃣ 英国放送協会(BBC)と、過去100年間のテレビとラジオで収集されたコンテンツの発見とアーカイブの検索のために、量子自然言語処理の適用を模索することを目指して、(Quantinuumが)15年間の契約を結んだと発表(22年12月)。ロンドン大学ユニバーシティカレッジと協同する。
3⃣ 独自に開発した量子モンテカルロ積分エンジンの詳細を発表した(ニュースリリース[*16]は23年9月15日、論文[*17]はarXivにて8月11日公開)。このエンジンは以下の4モジュールで構成されている:㊀ローディング・モジュール→確率分布とランダム過程を量子回路としてロードする、㊁計算モジュール、㊂統計量計算モジュール、㊃量子振幅推定モジュール。また87ページ(真水でも71ページ)に及ぶ先の論文[*15]では『金融業界でよく使われる計算方法を量子回路で構築するためのツール”the enhanced P-builder”などが詳述されている』。
 

【4】カナダ Go 2 日本 米国 EU 英国 豪州その他
 カナダで量子ソフトウェアのスタートアップが多い理由は、世界初の'量子'コンピューター・ベンダー、D-Waveシステムズが存在したからだろう。
(1) 1QBitは、変分量子アルゴリズムによる、電子相関効果を考慮した分子シミュレーションの計算精度を、改善する手法を開発した。研究論文が、Nature Machine Intelligence に掲載された(22年7月20日)[*2]。ニューラルネットワークを使った、量子誤り軽減であり、2つのステップで構成される。〈ステップ1〉:Transformerを生成モデルとして、計算結果から、基底状態を再構成する→パラメータ付きの基底状態が作成される。ニューラルネットワーク量子状態トモグラフィと呼ばれる手法である。〈ステップ2〉:変分モンテカルロ法を使って、ステップ1の基底状態のパラメータを最適化する。

(2) Haiqu
0⃣ (潜在的・顕在的)競合企業は、独KIPU Quantum、フィンランドQuantastica、加softwareQ、イスラエルClassiq technologies、シンガポールHorizon Quantum Computingあたりであろう。
1⃣ 2022年秋にトロントで設立されたHaiquが、プレシード資金として$4milを調達したと発表した(23年6月)†0。Haiquは、英、加、ウクライナ(及び米、独、スイス)に分散したコラボレーション・チームという組織形態を採用している。量子コンパイラ(量子回路の最適化コード)の開発、量子機械学習を含む量子アルゴリズムの開発等を行っているもよう。創業者CEOのRichard Givhanは、三菱電機の客員起業家(EIR:Entrepreneur in Residence)だったとの報道あり。また、今回のラウンドには、トヨタ・ベンチャーズ(米カリフォルニア州ロスアルトスを拠点とする投資部門)が参加している。
2⃣ オープンソースのツールキットRivetのリリースを発表(24年6月)†4。既存のコンパイラ(量子回路の場合、しばしばトランスパイラと呼ばれる)に対する問題意識をもとに、Rivetは開発された。問題意識とは、既存トランスパイラは、パラメータ付き量子回路(いわゆるアンザッツ)のコンパイル(トランスパイル)を高速に実行できない、というもの。アンザッツは、変分量子アルゴリズムには欠かせない。Rivetは、効率的なトランスパイルも可能にするため、使用する量子ビット(量子ゲート)の量を抑制することができる。それは、デバッグの容易さにもつながる。リリース時点(つまり、24年6月)で、Qiskit†1、BQSKit†2、Pytket†3をサポートしている。
†0 Haiquのサイト(https://haiqu.ai/)から外部サイト(the Quantum Insider)に飛ぶので、[*#]を付けていない。
†1 言わずと知れた、IBM製。最もメジャーなツールキット。
†2 米エネルギー省傘下のローレンス・バークレー国立研究所が作製。
†3 これも有名。Quantinuum製。
†4 リリース日時点で、該社サイトに記載なし。

(3) softwareQ(下表も参照)は、分散型量子コンピュータ(=モジュラー・アプローチ)を実現するための「ネットワークの要件を定量化し、それらの要件を満たすシステムの実現可能性を証明することを目的」に英Nu Quantum(こちらを参照)と協業する(24年3月12日[*41])。これは、カナダ国立研究評議会(NRC)と英研究技術革新機構(UKRI)が資金提供するカナダと英国の共同量子技術プロジェクトの一つ。最大で、$0.5milの資金提供を受ける。softwareQは、量子回路のコンパイル(しばしばトランスパイルと呼ばれる)に関する高度な技術を有すると目されている。Nu Quantumは、量子ネットワーキングによって量子コンピュータをスケールアップさせること(分散量子コンピューティング)もミッションとしている。
 

【5】豪州、イスラエル及びその他地域 Go 2 日本 米国 EU 英国 カナダ
(1) イスラエル
1⃣ 日本では、Classiq及びQuantum Machines(ともにイスラエル)の知名度大。Quantum Machinesに関しては、イスラエル量子コンピューティングセンターの設立を主導することが発表された(22年7月18日)。同センターには、H/Wベンダーとして、QuantWare(蘭・超伝導)、ORCA(英・光量子)、ColdQuanta(米・中性原子、現Infleqtion)が参画。S/Wベンダーとしては、Classiq(イスラエル)とsuper.tech(ColdQuataが買収した)が参画する。※Super.techの主要製品は、次の2つ。①SuperstaQ:任意のソース言語(Cirq、Qiskit等)で量子プログラムを作成し、任意の量子コンピューター(IBM、Rigetti、IonQ、AQT)をターゲットにすることができる。量子スタック全体にわたって最適化されているので、一般的な量子プログラムのエラーを半減できる。高度なエラー軽減技術のライブラリが含まれている。②SupermarQ:アプリケーション・ベンチマーク・スイート。
2⃣ Classiq
❶ 東芝デジタルソリューションズ㈱と提携したと発表した(23年6月)[*10]。ゲート型量子コンピューティングのユースケースを探索すること、が提携目的(目標?)のようである。
❷ BMWグループ(及びNVIDIA)と提携して、メカトロニクス・システムを最適化することを発表(24年6月20日)[*54]。具体的には→Classiqの技術を使って、課題†1に応じた量子回路を設計。当該量子回路の実装を、NVIDIA GPU+NVIDIA CUDA-Q プラットフォームでシミュレート。課題の解決を高速化する。
 (下記表にもある通り)製造業に対するソリューションとしては、既に、英ロールスロイスと協力して、計算流体力学シミュレーションの量子アルゴリズムを実装することを発表している(22年10月)[*55]。
†1 自動車における各種電装品の最適な組み合わせ問題。量子アルゴリズムとしては、QAOAやHHLを使う。

(2) シンガポール
 Entropica Labsは、再帰的QAOAの適応版という「Ada-RQAOA」を開発し、計算コストを比較指標として、QAOAを凌駕したと主張している。具体的には、❶最小頂点被覆問題、❷最大独立集合問題、❸最大クリーク問題、の3つのNP困難問題にAda-RQAOAを適用した。「Ada-RQAOAは、複数回の再帰的実行の中で最も信頼できると思われる情報のみを用いて解を構成するため」QAOAを凌駕する、としている。
 また、中性原子方式の米Atom Computingとの協業を発表している(23年6月)。これは中性原子方式が、❶~❸を解くのに有利[*11]であるためであろう。

(3) インド 
 「富士通10万ドル量子シミュレータ・チャレンジ」にてQkrishi Quantum PrivateとBloq Quantum Privateが『クレカ不正使用検知に対する量子カーネル法』で第3位を獲得[*28]。

(4) 豪州
1⃣ Q-CTRLは、英国の中小企業研究イニシアチブ(SBRI)量子触媒ファンド・コンペティションの優勝者として、£1milを獲得した(24年2月5日)[*34]。列車スケジュールの最適化ソリューションを、英運輸省に提供する。ソリューションは、英オックスフォード・クォンタム・サーキット(超伝導方式)のハードウェア上で検証される。
2⃣ Q-CTRLは、「ゲート方式量子コンピュータが、離散最適化問題で、量子アニーラよりも優れた性能を発揮した例を初めて示した」論文を発表した(24年6月3日)。詳しくは、こちら

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Appendix A 汎関数繰り込み群+ニューラルネットワークの衝撃
 伊ボローニャ大准教授・米フラットアイアン研究所[*A-1]計算量子物理学センター客員研究員ドメニコ・ディ・サンテ他は、22年9月21日、次の内容を発表した[*A-2]、[*A-3]:t-t'ハバードモデルに汎関数繰り込み群(FRG)を適用して得られる、10万個の方程式をニューラルネットワークを用いて、4つの方程式に圧縮することに成功した。遠くない将来、この発表のような(内容を把握することが難しい)トピックスであっても、人工知能が解説記事を書いてくれるだろうか?という疑問に答えるために、解説記事を作成した。ネット上で情報収集し"特徴量"を抽出。特徴量を基に、敵対的生成ネットワークを使って解説記事を作成というスタイルで、遠くない将来可能だと感じた。
 繰り込み群は、元々場の量子論から発生した概念である。ウィルソンによって物性物理において導入された後、物理学の幅広い分野において、階層構造を説明する重要な概念となった。高エネルギー領域からスタートし、低エネルギー領域の物理を記述する”有効モデル”を導くことが、繰り込み群の行動指針である。
 ここで、数学的な定義を行う。「粗視化」と「スケール変換」という二つの操作を、繰り込み変換という。繰り込み変換の成す群(正確には、半群)を、繰り込み群という。尚、ややこしいことに、繰り込み群(RG)には、摂動論におけるRGと非摂動論におけるRGがある。さらに、ややこしいことに、後者の呼び名は様々である:ウィルソン繰り込み群、非摂動繰り込み群、厳密繰り込み群、実空間繰り込み群、そして汎関数繰り込み群。
 繰り込み群は「粗視化」を行うことで、低エネルギー領域の有効モデルを得るのであった。粗視化の過程における有効作用の変化は、汎関数微分方程式で記述される。この汎関数微分方程式は、繰り込み群方程式と呼ばれる。繰り込み群方程式の定式化は、3種類が知られている:Wegner-Houghton方程式、Polchinski方程式、そしてWetterich方程式である。前2者は、有効作用にウィルソン有効作用を用いる。一方、Wetterich方程式は、ルジャンドル有効作用(平均有効作用)を用いる。無限小生成子のルジャンドル変換によって作られるためルジャンドル有効作用と呼ばれる。低エネルギー領域では、二つの有効作用は、ニアリーイコールである。
 繰り込み群方程式は汎関数微分方程式であるから、そのままでは厳密に解けない。そこで、まずテイラー展開を行って、無限個の結合した方程式「フロー方程式」の形に変換する。その後で、truncationを行って有限個の方程式に縮小させる。(繰り込み群方程式の文脈で言う)truncationとは、a)有効ポテンシャルを低次で打ち切る、b)高次の頂点関数を無視する、c)頂点関数の運動量依存性を無視する、等を一括りにした近似である。フロー方程式を偏微分方程式系ではなく、常微分方程式系に帰着させることを考えると、Wetterich方程式を繰り込み群方程式の定式化として用いると楽である。汎関数繰り込み群は、1993年Wetterichによって導入された解析手法であり、Wetterich方程式を出発点にする。
 ここでも、若干ややこしいが、繰り込み群方程式をフロー方程式と呼ぶこともある。テイラー展開した結果をフロー方程式と呼ぶほうが、混乱を避けられるだろう。
 冒頭の話題に戻る。ハバードモデルとは、強相関電子系を記述するミニマムモデルである。具体的には、①フェルミ準位近傍(=低エネルギー)にあるd軌道(バンド)のみを取り出して、他のバンドを無視した上で、②本来は長距離である電子間のクーロン相互作用を、短距離に制限して加えた、有効模型である。強相関電子系では、電子間のクーロン斥力が重要であり、最も強く効きそうな最短距離での反発力のみを考慮しているから、ミニマムモデルである。強相関電子系でも、f電子を扱う場合は、周期(的)アンダーソンモデル(アンダーソン格子モデルとも言う)を用いる。不純物模型=アンダーソンモデルにおいて、f電子を周期的に配置した模型が、周期(的)アンダーソンモデルである。
 もっともt-t'ハバードモデルは、正確には最近接格子に加えて、第二近接格子からの相互作用も考慮したハバードモデルである。このt-t'ハバードモデルにFRGを適用し、適当なtruncationを施すと、有限個のフロー方程式(常微分方程式系)が得られる。
 先にあげた論文[*A-2]は、精度を犠牲にしないt-t'ハバードモデルでは、10万個ほどのフロー方程式が必要と考えられていたが、それを4つに激減したという衝撃的な結果を示した。別の意味で10万個も衝撃的であるが、頂点関数の運動量依存性をフルに取り込むと、計算量が10億倍から1兆倍程度増えるという。10万個でも十分マイルドな動的近似である。今後、このNNでフロー方程式の数を減らすというアプローチが、相互作用を長距離にしても成立するかにチャレンジするようである。
 10万が4つに激減したことの、物理的な意味付けは、どのようなものだろうか?・・・AIは、その問題提起まで可能であろう。遠くない将来という時間軸では、物理的な意味まで答えることは、さすがに難しいだろう。

Appendix B キラーアプリと目されているケースでの量子コンピュータQCの利点
【気象・気候分野1】[*A-4]
(1) 気候モデリングと天気予報
 ①課題・・・シミュレーションと予測モデルの複雑さと解像度の増大に、計算ニーズを合致させる。
 ②QCの利点・・・シミュレーションベースで流体力学を解決するより大きな機能は、モデルの改善を促進し、予想される将来の条件をより明確に理解し、緩和と適応計画を改善することができる。
(2) グリッドの安全性と回復力
 ①課題・・・未来の発電設備が堅牢で信頼できることを確実にする。
 ②QCの利点・・・気象モデルと気候モデルの強化により、インフラストラクチャをより安全に配置できる。また、風力発電所などの新しい発電施設の設計を改善するために量子最適化を適用できる。
(3) グリッド管理
 ①課題・・・需要と供給が一致するように、リソースをスケジュールして、ディスパッチ(給電指令による各発電所の出力制御)を実施する。特に、風力発電と太陽光発電等の再生エネルギー由来の配電が増加するにつれて、重要になっている。
 ②QCの利点・・・量子最適化は、費用対効果の高い管理ソリューションの作成に役立つ。また、運転条件を改善する(例えば、交流の最適潮流計算問題を解く)ことにより、消費者価格を下げることができる。
‖参考‖ 
㊀ 独でQugridsプロジェクト(23年11月1日~)が立ち上がった[*A-15]。再生可能エネルギーの供給を完全にサポートできるように(ディスパッチ)することが目的。ユーリッヒ研究センター、アーヘン工科大学、フラウンホーファー応用情報技術研究所、ミュンスター大学が参加し、ノルトライン=ヴェストファーレン州文化科学省から€3milの資金援助を受ける。
㊁ 英では、リバーレーンが主導するエネルギー・グリッド最適化プロジェクトが行われている(フェーズ1:23年10月~12月、フェーズ2:24年1月~)。フェーズ2の契約金額は、£1.2mil。[*35]及び[*36]参照
㊂ 米では、「量子技術が、エネルギー・グリッド近代化に、どのように使用できるか?」を調査するため、オークリッジ国立研究所とIonQが協力することが発表された(24年4月16日)[*S-20]。ここで言う近代化とは、主に、最適化とセキュリティの強化を指している。
(4) 量子化学
 ①課題・・・テクノロジーの革新を促進するために、膨大な材料の配列に対する分子スケールの特性とプロセスを評価する。
 ②QCの利点・・・量子コンピューティングは、新エネルギー生産(太陽光電池)、ストレージ(バッテリー)技術の発見と開発を加速し、(例えば、炭素回収で)気候変動緩和のための戦略を改善することができる。

【気象・気候分野2】[*A-9]
 マッキンゼーのイノベーション部門シニアエキスパートであるフィリップ・エルンスト(註:現在は量子光方式量子コンピュータ・スタートアップ、米Psi Quantumの事業開発責任者)[*A-10]とマッキンゼー・デュッセルドルフのパートナーであるニコ・モアは、量子コンピュータが地球温暖化に貢献できると主張する。具体的には、以下5つのリューションによって「2035年までに、7ギガトンの二酸化炭素排出量を削減することができる。そして、それは、1.5℃の気温上昇を維持するのに貢献することができる」、と主張する。5は、相当怪しい。
(1) 太陽電池
 ①課題・・・既存の太陽電池は、コストが高く、変換効率も低い(高めたい)。
 ②QCの利点・・・低コストのペロブスカイト太陽電池は、変換効率が低い。量子コンピュータを使うことで、ペロブスカイト太陽電池の変換効率を、理論限界である40%にまで高めることができる(フィリップ・エルンスト)。
|補遺|
 米オークリッジ国立研究所(ORNL)は、一重項励起子分裂(英語では、Singlet Fission※)を示す効果的な量子シミュレーション方法を考案した[*A-12]と発表した(23年7月28日)[*A-13]。一重項励起子分裂(以下、SF)は、特定の有機分子集合体で生じる、一重項励起子から2 つの三重項励起子が生じる特殊な超高速過程である。励起子増幅過程をうまく応用することで、高効率光電変換セルなどが達成できると提案されている[*A-14]。ORNLの動機も太陽電池の変換効率向上である。
 ※科学の世界では、Fissionは核分裂を意味することが多いが、ここでは異なる。
(2) グリーン水素及びグリーン・アンモニア
 ①課題・・・グリーン水素及びグリーン・アンモニアは、製造コストが高い。
 ②QCの利点・・・量子コンピュータで製造方法を最適化することにより、プロセスを大幅に効率化し、排出ガス以下のコストに抑えることができる。
(3) 二次電池
 ①課題・・・電池内部の物理及び化学を正確にモデリングできないため、容量増加等の機能向上が難しい(膨大な時間がかかる)。
 ②QCの利点・・・量子コンピュータを使うと詳細なモデリングを行うことができるため、電池内部の化学反応をより詳細に理解することができる。より詳細な理解は、化学的なブレークスルーを通じて、エネルギー密度を高め、バッテリーで貨物自動車を駆動させ、輸送による排出を削減し、電力網で再生可能エネルギーをサポートすることができるようになる。
(4) 低炭素セメント
 ①課題・・・セメントは製造時に大量のCO2を排出する。セメントの主原料である石灰石は焼成する際に熱分解し、全体の60%に相当するCO2を排出する。残りの40%は、クリンカの焼成や粉砕に使われるエネルギーに由来する。
 ②QCの利点・・・低炭素セメントの材料製造のシミュレーションを行うことで、膨大な量の排出源を解決することができる。また、試行錯誤ではなく、正確なモデリングによって、炭素回収のクラッキングが可能になる可能性がある。
(5) メタン
 ①課題・・・牛のげっぷが主要源であるメタンは、強い温室効果を持つ。100年間で比較したときの温暖化係数で28倍、20年間では約84倍の効果をもつ[*A-11]。
 ②QCの利点・・・牛から排出されるメタンをワクチンで減らすことができるという研究結果がある。量子コンピューターがあれば、このワクチンに最適な分子を、解明することができるかもしれない。
‖参考‖ 二酸化炭素の分離・回収
 PsiQuantumと三菱UFJフィナンシャル・グループは三菱化学グループと共同で、フォトクロミック分子の励起状態をシミュレートする共同プロジェクトを開始すると発表した(24年1月25日)[*A-16]。特に、ジアリールエテンに焦点を当て、励起状態特性の高精度推定が、初期世代の誤り耐性量子コンピューターで実現可能かどうかを判断する。

Appendix C パリティベース量子計算
(1)全体整理
 墺インスブルック大学の研究者は、量子コンピュータの規模拡張性問題を解決する新しい手法を提案した(22年10月27日)。(米物理学会発行の)フィジカルレビューA(及びレビューレターズ)にて発表[*A-5]された論文に基づいて、内容をまとめた。
 量子CPU(QPU)はメモリと計算ユニットとして同時に機能するため、チップ上の任意のqubit間の接続が必要となる。ゲート方式量子コンピューターでは、この「任意のqubit間の接続(≒qubitの全接続)」が、規模拡張性を制限している。物理的に接続する場合(代表的には超伝導方式)、高密度配線が必要であるから、コスト的・エンジニアリング的に負荷が高い。加えて、配線自体ノイズ源となる。そして量子情報は、SWAP操作を介してチップ上=qubit間、を移動していく。これは、大きなオーバーヘッドである。
 提案された手法とは、量子アニーリング用に設計されたLechner-Hauke-Zoller(LHZ)アーキテクチャに基づいた「パリティベースの量子計算」である。つまり、量子インスパイアード技術とも考えられる。パリティベースの量子計算では、各物理qubitは、複数の論理qubitのパリティを表す。このため、パリティベース量子計算のアーキテクチャでは、物理qubitをパリティqubitと呼称している。パリティベース量子計算では、最近隣qubit間の相互作用のみが必要で、SWAPゲートが不要になる。トポロジカル表面符号が、最近隣のqubitのパリティ・チェック(シンドローム測定)のみで、誤りを判別できることのアナロジーと考えれば、腹に落ち易いかもしれない。

(2)①パリティ・マッピング、②ゲート・シーケンス
 ①パリティベース量子計算では、n 個の論理qubitのヒルベルト空間を、K=n(n-1)/2個のパリティqubitのヒルベルト空間に拡張し、論理qubitペアのパリティを符号化する。n個の全結合論理qubitは、K=n(n+1)/2 個のパリティqubitと、K −n個のパリティ制約で表される。パリティ制約は、符号空間のスタビライザーを生成する。ゆえにパリティ制約は、ビット反転エラーの検出が使用することが可能である。
 ②パリティベース量子計算では、ゲート・シーケンスも当然変わる。例えば、Rzはそのままだが、Rxは1量子ゲート操作に加えてCNOTゲート操作が必要になる。これは、デメリットになりそうだが、そうてはないという。CZシーケンスが、並列化した1量子ゲート操作3回で事足りるからである。つまり量子フーリエ変換(QFT)計算が軽くなる。故に、量子位相推定、HHLアルゴリズム、さらにショアのアルゴリズムを実行する場合に有利であると主張している。

(3)量子誤り訂正
 トポロジカル表面符号を使うスタイルとは、異なる。猫符号によるボゾニックコードで量子誤り訂正を実施する、仏Alice&Bobのスタイルと似ている。Alice&Bobは、2階建て方式である。そもそもビット反転エラーが抑制されるようにして、位相反転エラーのみを訂正する。そして魔法状態蒸留が不要なため、計算リソース効率が高い。パリティベース量子計算では、位相反転エラーに対してロバストな「物理」qubitを使うという建付けにする(実際、どうするかは不明)。ビット反転エラーは、スタビライザを生成するパリティ制約を測定することで判別するが、一度に複数のエラーを修正することができるため、効率的ということらしい。魔法状態蒸留も不要と思われる(全操作は、単体回転操作とCNOT操作で行い、Tゲートは使用しないため)。

(4)パリティベース量子計算のまとめ
 メリット・・・高密度の配線不要。SWAPゲート不要。QFT計算が軽い。複数のビット反転エラーの同時訂正可能。魔法状態蒸留は不要(そもそも魔法状態が不要)。測定型量子計算に必要なリソース状態を容易に準備できる。
 デメリット・・・パリティベースでない場合に比べて、初期状態の準備に手間を要する(ただし、過大な手間ではないと思われる)。
 不明点・・・位相反転エラーに対するロバストな物理qubitを用意できるのか。一般に頻出するのは位相反転エラーなので、その対処法は重要であろう。

Appendix D ZX計算
 米シカゴ大学のロバート・ランド准教授は、空軍科学研究所から、3年間で45万ドルの助成金を受けた[*A-6]。その対象は、量子プログラムを表現するためのグラフィカルなシステムであるZX-calculus(ZX計算)の形式的検証に関する研究である。形式的検証とは、あるアルゴリズムが意図したとおりに間違いなく実行されることを数学的に証明するプロセスである。量子コンピューティングのソフトウェア開発者は、すでにPythonベースのZX計算ツールであるPyZXを使っているが、このツールの有効性に、数学的証明は行われていない。
(1) ZX図とZX計算[*A-7]
 ZX計算を説明する前に、ZX-diagram(ZX図)を説明する。ZX-図は、量子回路をグラフィカルに表現したもので、テンソルネットワークの一種である。ZX-図は、量子回路ではなく、任意の線形写像を表現することができ、有用な書き換え規則が備わっている。これらの書き換え規則を総称してZX計算と呼ぶ。
(2) ZX計算の利点
 先に述べた「書き換え」を上手く行うことで、量子回路の最適化を行えることが、ZX計算の(最大の)利点である。つまり一言で言えば、ZX計算ツールは、量子計算の最適化を支援することができる(そして、それは計算規模の拡大につながる)。
  さらには、測定型量子計算や格子手術(表面符号で保護された論理量子ビットを用いて、量子計算を行う枠組み)のような非ユニタリー計算モデルについても、扱うことが可能である。
(3) VyZX
 ランド准教授は、既に、定理証明支援系(Coq)で証明可能なZX計算ツール、VyZXを開発している[*A-8]。LEAN(別の定理証明支援系)とCoqに、ZX計算の基礎となる圏論的量子力学とを結びつける形式化した証明を追加する予定。そうすることで、「より信頼性が高く、エレガントで、効率的な量子ソフトウェアを書くことを可能にする検証済み最適化が実現できる」とランド准教授は考えている。

Appendix E CCCによる量子コンピューティング・レポート
(0) はじめに
 コンピューティング・コミュニティ・コンソーシアム(CCC)は2018年11月に、量子コンピューティングに関するレポート[*A-17]を発表した。それから5年が経過したため、同レポートは、2023年5月にアップデートされ、24年1月に新レポート[*A-18]が公開された。
 CCCは、米国国立科学財団(NSF)が、2006年9月、コンピューティング研究協会(CRA)に設立を発注した組織である。CCCは、「(コンピューティング分野における)潜在的に大きな機会の特定、優先事項の設定、そしてコンピューティング分野の大きな課題の設定を念頭に設計されるビジョニング活動をサポートする」ことを目的に設立された[*A-19]。

(1) 構成 
 [*A-18]の構成(目次)は、1緒言、2アプリケーションとアルゴリズム、3誤り耐性と誤り緩和、4ハイブリッド量子古典システム、5ツールとプログラミング言語、6結言、である。
 2は方針を示している(に過ぎない)。3では、誤り訂正について現在地を知らせる内容となっている。タイトルとは対照的に誤り緩和について、特に技術的な情報はない(誤り訂正と組み合わせることの意義などは有り)。LDPC(低密度パリティ検査)符号や、消失量子誤り訂正符号、について言及がある(詳しくは、触れていない)。
 4では、様々なトピックスが議論されているが、「古典的処理に指数関数的な投資をしても、全体コストが下がるのならば、不毛な台地は問題にならないのでは」という”開き直り”は、斬新な感じ。また、量子誤り訂正符号の復号に関して、注意喚起しているところも、5年間の進歩を感じさせる。

(2) ツールとプログラミング言語
 本稿では、 5ツールとプログラミング言語に焦点を当てたい。いくつかのトピックスが議論されている(例えば、5.1は、高級言語の必要性というタイトルであり、誤り耐性量子コンピューター向けの言語のみならず、NISQ用の言語も必要である、と主張されている)が、以下の3点について、主張を整理した。
1⃣  マルチレベル量子中間表現(Intermediate Representation:IR) 
 5.2では、マルチレベルIRが、量子プログラミング言語のコンパイラ(トランスパイラ)でも必要である、と主張されている。そして、マルチレベル量子IR(MLQIR)を活用するための設計哲学が紹介されている。
㊀ 表現力・・・まず、表現力が重要である。IR は、冗長な行列を明示的に記述する必要なく、量子コンピューティング用の大規模な計算ブロックを、効率的に符号化できなければならない。
㊁ 柔軟性・・・IR は汎用性があり、あらゆる量子プログラムをサポートでき、表現できる計算の種類に柔軟性を持たせる必要がある。
㊂ シームレスなコンパイルを容易にするために、高レベルの IR から低レベルの IR への簡単な低レベル化(lowering)プロセスが必要である。  そして、古典的なコンパイラ・フレームワークであるLLVM(Low Level Virtual Machine)の成功を再現することを期待している。LLVMの成功は、学術開発と産業開発の間の相互協力と整理されており、「MLQIRフレームワークは研究を同様にサポートし、産業用途向けに強化されたフォークまたはブランチ(※)を持たなければならない」と主張している。
※ ソフトウェア開発における「フォーク」とは、あるプロジェクトの成果やソフトウェア・パッケージのソースコードから分岐して、別の独立したプロジェクトやソフトウェアを開発することを指す。ブランチは、フォークの1種で、「バグ修正版と、新機能開発版とを分けて開発する」ことを指す。
2⃣ 検証 
 量子コンパイラとツールは、量子プログラムにバグを引き起こす可能性があるとして、バグ回避に形式的検証の実施を提案している。
 証明支援系から SMT(Satisfiable Modulo Theories)ソルバー([*A-17]では、背景理論付きSATと訳されている)までのツールを使用して、プログラムが特定の仕様に一致することを数学的に(形式化数学に基づいて)証明できる。これを、形式的検証と呼んでいる。
 さらに、「現状、量子コンピューティングに形式的検証を適用するアプローチは、主に、回路レベルのツールに焦点を当てている」が、他にも重要な検証対象があると問題提起する。それは、量子パルスを制御する制御ソフトウェアである。当該制御システムは、量子デバイスごとにゼロから設計される傾向があり、バグ、特に同時実行性のバグが頻繁に発生する(ので、検証はより重要である)。
3⃣ ツール設計の重要原則 
 量子コンピューティングの分野に利益をもたらすための長期使用可能なツールの設計を導くための、重要な原則が提示されている。
❶ 階層的多粒度 
 階層的な多粒度とは、量子コンピューティング・システムのさまざまなレベルの抽象化をモデル化し、シミュレートする機能を指す。たとえば、より低い粒度レベルでは、量子ビット エンジニアリングをガイドするために電子設計自動化(EDA)ツールが必要になる場合がある。より高い粒度では、(シミュレーション)ツールは、ハードウェアの結合グラフとノイズ モデルを考慮して、量子回路全体のハードウェアへのマッピングと実行をモデル化できる必要がある。
❷ モジュール性 
 モジュール性とは、さまざまな量子ハードウェアおよびテクノロジ間でコンポーネントを再利用できる性質を指している。 現状の量子コンピューティングは、さまざまな符号化(例: qubit、qudit、qumodeなど)、モダリティ(例: 超伝導、イオントラップ、中性原子)、プログラミング・パラダイム (例: ゲートベース、測定ベース)を含む多様なハードウェア・タイプによって特徴付けられる。この多様性により、この幅広い可能性に対応して最適化できる、モジュール式で柔軟なシミュレーション ツールの開発が必要となる。モジュール性は、量子コンピューティングを実用化に向けて前進させるために不可欠である。

【尾 注】
*0 矢のパートナー、弓に張る弦のストレージである弦巻を意味している。弦巻は、箙に隣接している。
*1 ①量子アニーリング法とQAOA(近似的量子最適化アルゴリズム)とで、ポートフォリオ最適化の比較をBBVA(ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行)と共同で行ったところ、QAOAが勝ったと報告している。BBVAはスペインの大手商業銀行で、競合他社と比べて、量子技術への関心は高い。②自動車部品メーカー最大手である独ボッシュの工場で、量子ベースの最適化アルゴリズムを実装し、エネルギー管理・廃棄物管理を含む、全体効率を向上させるPoC(Proof of Concept)を22年7月に終了させたと発表。③自動車部品の良品・不良品を画像判別するケースで、量子アルゴリズムが古典アルゴリズムを上回ったと発表(22年8月9日)。量子アルゴリズムは、量子サポートベクターマシン(QSVM)とQBoost。比較対象とした古典アルゴリズムは、サポートベクターマシンとAdaBoost。指標は適合率(Precision)、再現率(Recall)、F1スコア。スペインIKERLANとの共同研究。なお、QSVMはIBMのNISQマシンを、QBoostはD-Waveのマシンを使用。参照:https://arxiv.org/pdf/2208.04988.pdf ④フィンランドの量子コンピュータ・ベンダーIQMと「金融、エネルギー、化学、物流における量子ベース・アプリケーション向けの統合ソリューションを開発する」ためにパートナーシップを締結したことを発表(22年8月18日)。⑤総合化学メーカーBASF(独)の外国為替取引最適化プロジェクトのパートナーに選ばれたと発表(22年8月23日)。 ⑥ルノーが主導するスペインの自動車産業コンソーシアムに参加すると発表(22年9月6日)。⑦投資資産数の上限制約(基数制約,Cardinality Constraint)を課した、(インデックス追従)ポートフォリオ最適化問題を量子アニーラで解くハイブリッド量子古典的アプローチを開発したと発表した(22年8月24日)[参照:https://arxiv.org/abs/2208.11380]。インデックスは、Nasdaq100とS&P500である。Nasdaq100は、従来の1/4の株式数で、S&P500は従来の1/10で、同じリターンを得られたとする。⑧加モントリオールに拠点を置く人工知能研究機関Milaと量子機械学習分野でパートナーシップを開始(22年10月25日)。対象セクターは、バイオテクノロジーと製薬からスタートする。⑨印テック・マヒンドラ(DXやビジネス・エンジニアリング・サービスのプロバイダー)と「最先端の量子コンピューティング・ソフトウェアを、テック・マヒンドラの顧客に提供する」ため、パートナーシップを締結したと発表(23年8月8日)。
*2 https://www.nature.com/articles/s42256-022-00509-0 
*3 Observing ground-state properties of the Fermi-Hubbard model using a scalable algorithm on a quantum computer https://www.nature.com/articles/s41467-022-33335-4
*4 https://parityqc.com/universal-parity-quantum-computing
*5 Qubitization of Arbitrary Basis Quantum Chemistry Leveraging Sparsity and Low Rank Factorization https://quantum-journal.org/papers/q-2019-12-02-208/
*6 Simulating key properties of lithium-ion batteries with a fault-tolerant quantum computer https://journals.aps.org/pra/abstract/10.1103/PhysRevA.106.032428
*7 Strongly Contracted N-Electron Valence State Perturbation Theory Using Reduced Density Matrices from a Quantum Computer https://arxiv.org/pdf/2210.05702.pdf
*8 Pranav Chandarana et al.、Digitized-Counterdiabatic Quantum Algorithm for Protein Folding、https://arxiv.org/pdf/2212.13511.pdf
*9 arXivにて22年10月公開された論文(Pablo Bermejo et al.、Variational Quantum Continuous Optimization:a Cornerstone of Quantum Mathematical Analysis https://arxiv.org/pdf/2210.03136.pdf)では「NISQで有用な問題を探索した結果、連続変数の関数を最適化するというタスクが見つかった」と主張。該タスクは、有限個で打ち切った場合の級数展開近似誤差を最小化するというタスクに転用できる。近似誤差が最小である級数展開を行えば、積分計算や微分方程式の求解を、単純な計算で実行することが可能となる。なお計算性能は「標準的な古典的計算ソフトに匹敵する」とのこと。量子状態トモグラフィーを適用して、量子ビットのパラメータを推定する点が面白い。
*10 https://www.global.toshiba/jp/company/digitalsolution/news/2023/0612.html
*11 Jonathan Wurtz et al.、Industry applications of neutral-atom quantum computing solving independent set problems、https://arxiv.org/pdf/2205.08500.pdf
*12 https://www.riverlane.com/blog/introducing-the-riverlane-roadmap-three-basic-steps-to-decoder-success
*13 Ben Barber et al.、A real-time, scalable, fast and highly resource efficient decoder for a quantum computer、https://arxiv.org/pdf/2309.05558.pdf
*14 https://co-design.t.u-tokyo.ac.jp/research/quantum-error-correction/
*15 濵村一航、ニューラルネットワークを用いた量子誤り訂正の復号器の開発、https://www.cc.u-tokyo.ac.jp/public/VOL20/No3/15.201805wakate-hamamura.pdf
*16 https://quantinuum.co.jp/n20230914/
*17 ISMAIL YUNUS AKHALWAYA et al.、A MODULAR ENGINE FOR QUANTUM MONTE CARLO INTEGRATION、https://arxiv.org/pdf/2308.06081.pdf
*18 https://terraquantum.swiss/news/hsbc-and-terra-quantum-explore-real-world-applications-of-hybrid-quantum-technologies-in-financial-services
*19 https://terraquantum.swiss/news/terra-quantum-and-cirdan-capital
*20 Nathan Haboury et al.、A supervised hybrid quantum machine learning solution to the emergency escape routing problem、https://arxiv.org/pdf/2307.15682.pdf
*21 Anita Weidinger et al.、Error Mitigation for Quantum Approximate Optimization、https://arxiv.org/pdf/2301.05042.pdf
*22 https://www.hpcwire.com/off-the-wire/multiverse-computing-wins-uk-funding-to-improve-flood-risk-assessment-with-quantum-algorithms/及びhttps://thenextweb.com/news/quantum-startup-multiverse-computing-predict-floods
*23 https://terraquantum.swiss/news/terra-quantum-nvidia-collaborate-to-unlock-unprecedented-business-performance-with-hybrid-quantum-computing
*24 例えば、https://intelligencecommunitynews.com/sandboxaq-unveils-ai-simulation-collaboration-with-nvidia/
*25 https://kipu-quantum.com/kipu-quantum-joins-the-dlr-qci-project-basiq/
*26 https://multiversecomputing.com/resources/multiverse-computing-pioneers-quantum-digital-twin-project-to-boost-green-hydrogen-production
*27 https://www.riverlane.com/press-release/nqcc-rolls-royce-and-riverlane-partner-to-accelerate-materials-discovery
*28 https://www.fujitsu.com/global/about/resources/news/press-releases/2024/0125-01.html
*29 https://kipu-quantum.com/r-cinfo-and-kipu-quantum-design-an-algorithm-for-optimizing-telecommunication-networks-on-quantum-computers/
*30 https://www.riverlane.com/news/riverlane-and-mit-collaborate-for-u-s-department-of-energy-program
*31 ドイツのコンサルティング・ファーム。従業員の90%が、物理学・数学・コンピュータ サイエンス分野(いわゆるSTEM)出身で、50%が博士号を取得している。
*32 https://www.planqc.eu/news/20240129-planqc_and_dfine_remote_access_platform/
*33 https://qci.dlr.de/en/multiverse-computing-and-single-quantum-support-alqu-quantum-sensor-technology/
*34 https://q-ctrl.com/blog/q-ctrl-awarded-ps1-million-funding-in-uk-quantum-catalyst-competition
*35 例えば、https://industrialnews.co.uk/phasecraft-to-develop-quantum-algorithms-to-optimise-energy-grids/
*36 https://www.phasecraft.io/news/phasecraft-quantum-catalyst
*37 https://www.riverlane.com/news/riverlane-and-rigetti-computing-partner-with-oak-ridge-national-laboratory-to-work-to-improve-hpc-quantum-integration
*38 https://multiversecomputing.com/resources/multiverse-computing-raises-oversubscribed-eur25-million-series-a-investment-round-to-advance
*39 https://www.riverlane.com/news/rolls-royce-riverlane-and-xanadu-partner-to-win-canada-uk-quantum-computing-bid
*40 QC Ware社のPromethium用ニュース等サイトhttps://www.promethium.qcware.com/blogから、外部サイトhttps://www.prnewswire.com/news-releases/accelerating-the-development-of-new-molecules---promethium-to-empower-ml-models-for-drug-discovery-using-nvidia-quantum-cloud-302090961.htmlに移動する
*41 https://www.softwareq.ca/news
*42 Borja Aizpurua et al.、Tensor Networks for Explainable Machine Learning in Cybersecurity、https://arxiv.org/pdf/2401.00867.pdf
*43 the 57th Hawaii International Conference on System Sciences 2024
*44 Sascha Xu et al.、Quantum Feature Embeddings for Graph Neural Networks、https://www.quasim-project.de/wp-content/uploads/2023/09/Quantum-Feature-Embeddings-for-Graph-Neural-Networks_HICSS2024.pdf
*45 遅すぎて実用性がないという結論は、量子コンピュータに対する「超高速性の期待」に反している。尤もらしい反論は、「量子コンピュータの高速性は漸近的、つまり、問題のサイズが大きくならないと発揮されない」であるが、それが、どのレベルなのか(そして、本当に古典コンピュータが勝てないのか)不明である。機械学習・深層学習の範疇に、存在する保証は無い。
*46 正確には、Physics-Informed量子グラフ・ニューラルネットワークを使用する(らしい)。Zurana Mehrin Ruhi et al.、A Proposal for Physics-Informed Quantum Graph Neural Networks for Simulating Laser Cutting Processes、https://www.quasim-project.de/wp-content/uploads/2023/09/A-Proposal-for-Physics-Informed-Quantum-Graph-Neural-Networks-for-Simulating-Laser-Cutting-Processes_INFORMATIK-2023.pdf
*47 御手洗光祐、最近の展望|量子コンピュータを用いた機械学習、応用物理 第93巻 第1号(2024)、pp.19-23、https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu/93/1/93_19/_pdf
*48 https://www.riverlane.com/news/riverlane-awarded-2-1m-by-horizon-europe-to-develop-the-next-generation-of-its-quantum-error-correction-decoder
*49 https://www.riverlane.com/news/riverlane-awarded-darpa-quantum-benchmarking-program-grant
*50 https://www.nict.go.jp/press/2024/05/09-1.html
*51 https://www.riverlane.com/news/riverlane-and-alice-bob-join-forces-to-accelerate-quantum-error-correction
*52 https://www.francequantum.fr/session/49e02406-4909-ef11-96f5-000d3a29980a/aqadoc-distributed-quantum-algorithms-for-the-energy-sector
*53 https://www.quantumherald.com/news/qblox-funding
*54 https://ja.classiq.io/insights/classiq-collaborates-with-bmw-and-nvidia
*55 https://ja.classiq.io/insights/nvidia-rolls-royce-and-classiq-announce-quantum-computing-breakthrough-for-computational-fluid-dynamics-in-jet-engines
*56 https://multiversecomputing.com/resources/eu-funded-ai-boost-project-selects-multiverse-computing-to-develop-and-train-large-scale-ai

*a クランチベース等の2次情報には、誤りが散見されるので、該当組織のWebサイト等で可能な限り確認した。As of 24年7月(適宜アップデートする)
*b フランス国立工芸院, フランス国立科学研究センター, テキサス大オ-スチン校, ソルボンヌ大、ワシントン大
*c https://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/2204/05/news02.html
*d 格子ボルツマン法は、ボルツマン方程式を粗視化したナヴィエ・ストークス方程式ではなく、ボルツマン方程式を直接、離散的に解く手法。ボルツマン・マシンと直接の関係はない。
*e https://arstechnica.com/science/2023/01/companies-are-relying-on-quantum-annealers-for-useful-computations/
*f https://www.entropicalabs.com/post/implementing-real-world-optimisation-use-cases-in-state-of-the-art-quantum-devices
*g https://www.extremetech.com/computing/nvidia-gpus-are-now-running-quantum-jet-engine-simulations

*A-1 "最も賢い億万長者"チャールズ・サイモン(と妻)が設立したサイモンズ財団が設立した研究所。
*A-2 Domenico Di Sante et al.、Deep Learning the Functional Renormalization Group、Phys.Rev.Lett.129,136402 –Published 21 September 2022 (https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.129.136402)
*A-3 https://www.simonsfoundation.org/2022/09/26/artificial-intelligence-reduces-a-100000-equation-quantum-physics-problem-to-only-four-equations/
*A-4 https://eos.org/features/how-quantum-computing-can-tackle-climate-and-energy-challenges
*A-5 M.Fellner et al.、Universal Parity Quantum Computing、PHYSICAL REVIEW LETTERS 129,180503(2022) https://journals.aps.org/prl/pdf/10.1103/PhysRevLett.129.180503
*A-6 https://www.eurekalert.org/news-releases/975028
*A-7 https://pyzx.readthedocs.io/en/latest/faq.html
*A-8 https://arxiv.org/abs/2205.05781
*A-9 https://www.itpro.co.uk/technology/369845/how-quantum-computing-can-fight-climate-change
*A-10 リンクトインのプロフィールを見ると、日本が大好きらしい。独ハンブルク大学で博士号取得(実験物理学)。Psi Quantumは、Qlimateという気候変動に特化した量子ソリューションを提供する子会社を設立しているから、プロモーション臭が、やや漂うか。
*A-11 https://www.nies.go.jp/whatsnew/20200806/20200806.html
*A-12 Daniel Claudino et al.、Modeling Singlet Fission on a Quantum Computer、https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jpclett.3c01106?ref=pdf
 なお、上記論文で重要な役割を果たしているPeeters–Devreese–Soldatovエネルギー汎関数については、Daniel Claudino et al.、Improving the accuracy and efficiency of quantum connected moments expansions、https://iopscience.iop.org/article/10.1088/2058-9565/ac0292/ampdfを参照。
*A-13 https://www.ornl.gov/news/researchers-use-commercial-quantum-computer-identify-molecular-candidate-development-more
*A-14 宮田潔志、特集|支部発 話題欄 7| 一重項励起子分裂研究の現状と課題 基礎分子科学と応用可能性の観点から、化学と工業 Vol.75-4 April 2022、https://www.chemistry.or.jp/journal/ci22p274.pdf
*A-15 https://www.fz-juelich.de/en/news/archive/announcements/2023/nrw-researchers-to-exploit-quantum-technologies-for-energy-grids
*A-16 https://www.hpcwire.com/off-the-wire/psiquantum-leads-the-way-in-quantum-computing-for-climate-tech-with-new-partnership-with-mitsubishi-groups/
*A-17 ”公式”和訳版が公開されている。https://www.qmedia.jp/next-step-of-qc/ 
*A-18 5 Year Update to the Next Steps in Quantum Computing Report、https://cccblog.org/wp-content/uploads/2024/01/5-Year-Update-to-the-Next-Steps-in-Quantum-Computing.pdf 
*A-19 NICT(情報通信研究機構)ワシントン事務所、アメリカ合衆国における新世代ネットワークに関する研究開発動向および連邦政府におけるICT 研究開発動向に関する調査、2010年3月、https://www.nict.go.jp/global/lde9n2000000bmhf-att/re1003_2.pdf
*A-20 https://ionq.com/news/oak-ridge-national-laboratory-collaborates-with-ionq-to-drive-critical

◆参考資料◆
高島宏和、静的近似を超えた汎関数くりこみ群法と2次元ハバード模型への応用 
奥西巧一、Wilson の数値くりこみ群とエネルギースケールの選択性、数理解析研究所講究録第1705巻 2010年 203-211
青木健一、場の理論における非摂動くりこみ群、数理解析研究所講究録1134巻2000年61-69
住淳一、「量子場の理論の新しい展開」 非摂動くりこみ群の異なる定式化の間の関係について
田崎晴明、くりこみ群とはなにか 


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