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(主に銀行を念頭に置いた、気候変動リスクの)シナリオ及びシナリオ分析


【1】 用語等の整理とシナリオの全体整理
(1) シナリオとシナリオ分析~一般的ケースと金融機関のケース
 一般的なリスクマネジメントの文脈において、シナリオは、次のように定義できる:シナリオとは、妥当性を有する・将来を記述する・一貫性のある仮定である。また、シナリオ分析は、次のようなプロセスを辿ると認識すべきである:①シナリオで想定したリスクイベントが発生した場合に、どの程度のインパクトが発生するのかを把握する。②次に、(一般的には)発生したインパクトの最小化をゴールとして、アクションの選択・実行あるいはアクションプランの策定を行う。アクションの対象は当然に、企業戦略やリスク管理を含む。
 金融機関におけるリスクマネジメントの文脈では、シナリオは、次のように定義できる:同時に変動する複数のリスクファクター及び、その背景となる経済事象を包括した、一塊の仮定。また、シナリオ分析は、(やや狭義であるが、)次のようなプロセスを辿ると認識すべきである:①シナリオ下において、ポートフォリオのリスク量の変動及びリスク・プロファイルを把握する。②次に、自己資本の十分性を確認する。仮に十分でなければ、必要な対応を行う。
 金融危機(リーマンショック)以降、VaR的手法では補足できないリスクを把握する必要が認識され、シナリオ分析の活用が注目されるに至った。グリーン・スワンと称される気候変動リスクは、VaR的なリスク管理手法では把握困難である。そのため、フォワードルッキングなシナリオ分析が不可欠であるとのコンセンサスが、各国の中央銀行・金融監督当局の間で、醸成されている。

(2)  IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書での新シナリオ誕生[*1]
 まず、IPCCの第3次評価報告書(AR3、2001年)において、SRESシナリオが登場した。SRESは、Special Report on Emissions Scenariosの略である。SRESシナリオは、温室効果ガス(GHG)排出削減策を明示的に考慮していないシナリオであり、「世界全体の平均気温上昇を抑える」ようなシナリオは存在しない。そのため、第5次評価報告書(AR5、2014年公表)から、新シナリオに移行した。新シナリオは、放射強制力の経路ごとに、 (温室効果ガスの削減策等を意味する) 緩和策を含む、多様な社会・経済的シナリオを作成可能にすることを目指して作られた。「放射強制力の経路ごと」というのが、RCPシナリオである。詳細は【2】(1)及び(2)で後述する。社会・経済的シナリオが、SSPシナリオと呼ばれる。こちらも、詳細は【2】(4)で後述する。
 結果としてAR5からの新シナリオは、RCPシナリオ+社会経済シナリオ(SSPシナリオ)、という2段造りとなった。しかしAR5では、RCPシナリオまでしか、間に合わなかった。

(3) CMIP(結合モデル相互比較プロジェクト)[*2]
 RCPシナリオは、単体では、年平均気温や年平均日降水量を提供してくれない。RCPシナリオで規定されるのは、あくまで(GHG濃度による地球温暖化効果を統一的に表現する)放射強制力である。このため、地球温暖化が気候に及ぼす変動を陽に示すためには、別ステップが必要となる。この別ステップ―気候シナリオの作成には、RCPシナリオを前提として、気象をシミュレーションする必要がある。
 気候シナリオとしてのCMIP5は、RCPシナリオを全球気候モデルGCMに入力してシミュレーションした結果であり、将来の年平均気温、年平均日降水量、年平均日射などを提供する。CMIP5は、第5期のCMIPという意味であり、AR5に向けて新しく開発された。2021年から順次公表予定のAR6を見据えて、精度および信頼性をさらに高め不確実性の低減を目指して開発された気候シナリオが、CMIP6である。社会・経済的シナリオ(SSPシナリオ)は、CMIP6の下で、進められることとなった。なお、CMIP3は、SRESシナリオをGCMに入力しシミュレーションした結果である。
 そもそもMIP(モデル相互比較プロジェクト)とは、モデル誤差を低減するために、シミュレーション結果と観測データとの比較検証、並びにシミュレーション結果間の比較検証を行うプロジェクトであった。この場合のプロジェクトは、「実験」と訳されている。1991年に、大気大循環モデル(Atmospheric Model)で始まったので、当時はAMIP(Atmospheric Model Intercomparison Project)であった。CMIP(結合モデル相互比較プロジェクト)とは、世界気候研究計画(WCRP)によって開始された、相互比較プロジェクトプロジェクトである。
 なお、相互比較プロジェクトには、様々なものが存在する:①気候モデル内の雲プロセスや観測データを用いた評価、外部強制に対する応答やその不確実性要因を探るCFMIP(Cloud Feedback Model Intercomparison Project)、②土地利用変化の影響に関するLUMIP(Land Use Model Intercomparison Project)、③気候-海洋の関係を詳しく調べるOMIP(Ocean model Intercomparison Project)、④海洋の熱吸収を調べるFAFMIP(Flux-Anomaly-Forced Model Intercomparison Project)、⑤炭素循環に関するC4MIP(Coupled Climate Carbon Cycle Model Intercomparison Project)、 ⑥古気候環境の再現性を比較するPMIP(Paleoclimate Modeling Intercomparison Project)。

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【2】 RCPシナリオとSSPシナリオ
 RCPシナリオは、「代表的と称する濃度に、温室効果ガスを安定化させる」という発想の下で、放射強制力を算出している。TCFDの開示規則に従った、物理的リスクを評価するシナリオとしては、使用できる。
 その一方、緩和策(温室効果ガスを削減策等)や適応策(土地利用の種類等を変える等の対策等)による、放射強制力の変動をシミュレートすることはできない。つまり単体では、アクションプランを策定できない。
(1) RCP2.6、RCP8.5と呼ばれるシナリオは、どういうものか?[*3]
 RCPは、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の要請によって作成された「代表濃度経路」の略語である。将来の温室効果ガス(GHG)濃度の安定化レベルと、そこに至るまでの経路のうち、代表的な経路を4つ選んだシナリオ。2100年時点での「放射強制力」に対応したGHGの濃度を仮定している。放射強制力については、後述する。
 その濃度は、IPCCの第4次評価報告書(AR4)やそれ以降の研究から、将来あり得ると考えられる上限(放射強制力が、8.5W/m2)のRCP8.5と下限(同2.6W/m2)のRCP2.6が設定されており、その間にRCP4.5、RCP6.0が用意されている。2100年までに世界の地上平均気温が2.6~4.8℃上昇する可能性が高いとの予測をもたらすRCP8.5は、しばしば4℃シナリオと呼ばれる。同じく2100年までに世界の地上平均気温が0.3~1.7℃上昇する可能性が高いとの予測をもたらすRCP2.6は2℃シナリオと呼ばれる。
 RCP8.5は、温室効果ガスの最大排出シナリオであるが、CO2濃度に換算すると、約1,370ppmである。RCP2.6は、最小排出シナリオであり、CO2濃度に換算すると、約490ppmに相当する。

(2) RCP2.6、RCP8.5と呼ばれるシナリオは、どのように降雨量と結びつくのか?
 先述の通り、RCPシナリオ単体では、年平均気温や年平均日降水量を提供してくれない。(1)②CMIPでは概略的に記述したが、ここでは実体的な説明を試みる。
 放射強制力と温度上昇との関係は、必ずしもシンプルではない(つまり、厳密には、正比例のような単純な関係ではない)が、IPCCのRCPシナリオでは、放射強制力と温度とは正比例すると仮定されている。その上で、いわゆる2℃シナリオや4℃シナリオとは、海水温を上昇させるシナリオとも捉えることができる。海水温の上昇が豪雨に繋がる定性的なロジックは、降雨メカニズムを考えると納得できる。
 雨の源は、要するに、氷(霰や雹を含む水の固相)である。海水温が高いと、水蒸気の熱エネルギーが大きくなる。熱エネルギーが小さいと、氷になる前の段階で多くの水蒸気は、霧散してしまう。熱エネルギーが大きければ、より高い上空まで水蒸気を上げることができ、氷に変換される水蒸気の量が多くなる。つまり雨の源が多くなり、降雨量が増加する。

(3) 放射強制力とは?[*4]
 放射強制力とは、気候変化を引き起こす様々な要因の強度を定量的に比較するために導入された概念であり、気象学では一般的に使われていた。具体的には、ある要因による気候変化の大きさを、その要因が引き起こす"放射収支の変化"で表す。
 対流圏上端(圏界面)での放射収支変化と、対流圏の温度上昇が、良い相関を持つことから、IPCC(のRCPシナリオ)が言及する放射強制力とは、圏界面における(正確に言うと、成層圏の調節を経た、そして地球面で平均化した)放射強制力である。つまり圏界面における放射収支の変化が、放射強制力である。変化の始点は、工業化が始まったとされる1750年である(例えば、1750年ごろからコークス製鉄法が、イギリス全土に普及していったとされている)。

(4) SSPシナリオ[*5] 
 共有社会経済(SSP)シナリオは、地球温暖化と直接関係しない社会経済の多様な発展の可能性を示したシナリオである。SSPは5種類に区分されて、SSP1~SSP5と表記される。各シナリオの概要は以下の通りである。
 SSP1(持続可能):途上国の教育水準が向上し、人口増加が停止。経済が発展し、貧困が解消する。物質への依存度が低く、エネルギー技術の発展が高い。
 SSP2(中庸):SSP1 と SSP3 の間に位置する。
 SSP3(地域対立):教育水準、ガバナンスともに低く、世界は分断、技術は停滞。
 SSP4(格差):国際的、各国内で社会的格差が開く分断された世界。技術水準は高いが貧困層は脆弱。
 SSP5(化石燃料依存):教育水準は高く技術進歩も高い。しかし、エネルギーは化石燃料に依存する。
 次の点をあげることは、重要であろう。SSPシナリオは、統合評価モデルを"かませる"ことで、各シナリオにおける温室効果ガス(GHG)排出量を、推定することができる。
 なお統合評価モデル(IAM)とは、気候変動の経済評価を行う動的モデルであり、一般に、①マクロ経済モデル、②GHG排出モデル、③気候モデルから構成される。②は、エネルギーミックスの変化やエネルギー関連技術への投資と、二酸化炭素排出量とを、関連付けるモデルである。③は、GHG濃度と気温のダイナミクスを計算するモデルであり、簡易気候モデルMAGICCが使用された。
 温室効果ガス排出量は、実際には、放射強制力に換算して表示される。SSPのエネルギー使用と排出の特性を作成するために、6つのIAM(AIM-CGE、GCAM、IMAGE、MESSAGEix-GLOBIOM、REMIND-MAgPIE、WITCH-GLOBIOM)が用いられた。なおIAMに関しては、【3】(7)にて詳述する。
 SSPの緩和目標は、RCPシナリオにおける放射強制力、つまり2.6、4.5、6.0、8.5W/m2に加えて、1.9、3.4、7.0W/m2を含めた7レベルで構成される。7.0W/m2(RCP7.0)は、SSP2及びSSP3で気候緩和策を実施しないケース(いわゆるリファレンスケース)に相当する。3.4W/m2( RCP3.4)は、RCP2.6と、RCP4.5の中間的な経路を表している。1.9W/m2(RCP1.9)は、温暖化をパリ協定の目標である1.5℃未満に抑えることに重点を置いた新しい経路である。
 例えば、SSP3シナリオでは、RCP2.6及びRCP1.9は、モデル上実現できないと予測される。SSP1シナリオでは、RCP2.6及びRCP1.9の実現は十分可能であると予測される(正確には、6つのIAMモデルの全てで、RCP2.6及びRCP1.9の実現が可能であった)。
 AR5から(実質的にはAR6から)は、RCPシナリオ+社会経済シナリオ(SSPシナリオ)が主軸となる。RCPシナリオでは、最終的な結果が示されているだけで、途中のプロセスは示されていない。実際のところ、社会経済に与える影響は、途中プロセスに大きく依存する。
 例えば、早期に排出削減を行い、ネットゼロ排出を長期間維持するというプロセスを選択した場合は、二酸化炭素を回収・貯留するための大規模な設備を設置したり、大規模な植林を行うといった、土地利用の大きな変化を回避できる。そのような回避によって、食料価格の高騰を防ぐことが可能となり、飢餓リスクの低減、灌漑用水需要の低下などの便益をもたらすことも可能となる。

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【3】 NGFSシナリオ
(1) 全体整理[*6]
 まずNGFSについて。NGFSは、Network of Central Banks and Supervisors for Greening the Financial System(気候変動リスクに係る金融当局ネットワーク)の略であり、2017年に設立された中央銀行と金融監督当局の共同ネットワークである。英仏独や中国を始め豪州、ニュージーランド、アジア地域を含む幅広い市場と管轄区域にわたる規制実施の展開を推進する。
 NGFSシナリオは、金融機関向けの気候変動リスク・シナリオである。ストレス・シナリオにフォーカスしたシナリオ分析が、いわゆるストレステストである。金融機関向けであるNGFSシナリオを用いたシナリオ分析は、ストレステストに他ならない。ストレステストについては、(2)を参照。
 RCPシナリオやSSPシナリオを、金融機関における気候変動リスクのシナリオ分析(マクロ・ストレステスト)に、そのまま使用することは難しい。なぜなら、金融機関のシナリオ分析では、「シナリオ下において、ポートフォリオのリスク量の変動及びリスク・プロファイルを把握する」からである。従って、金融機関が気候変動リスクのシナリオ分析を実行するには、金融機関のポートフォリオのリスク量及びリスク・プロファイルと気候変動シナリオとを、結び付ける必要がある。
 このためNGFSは、統合評価モデル(GCAM、MESSAGE及びREMINDの3種類)を使って、気候変動とマクロ経済変数を紐付けることで、金融機関が"ストレステスト"に使用可能な気候シナリオを作成している。フェーズ1では、マクロ変数はGDPだけであったが、フェーズ2では拡充された。これは(6)で後述する。GDP損失(マクロ指標)から、市場リスクや信用リスクのリスクファクターへの変換は、通常のストレステスト(マクロ・ストレステスト)と同様に考えれば良い。NGFSシナリオは、マクロ指標(この場合はGDP損失)をリスクファクターに変換するモデルは用意していないので、トップダウン・アプローチではない。
 なお、統合評価モデルのマクロ経済モジュールは、ホライズンが長期に渡る気候変動リスクを扱っているので、マクロ計量モデルよりも、(応用一般)均衡モデルの方が適しているとされる。気候変動リスクはリスクドライバーであるから、マクロ経済モデルで「気候変動の説明変数を、マクロ経済指標に変換する」という構図は、肚落ちが容易かも知れない。
 NGFSシナリオは、気候変動リスク・シナリオを設定すれば、マクロ・ストレステストが実行できる枠組みとなっている。さらに、気候シナリオもNGFSが設定し、任意性を削っている。金融機関を監督する当局の立場からすると、金融機関側に任意性がある状態は、実務上の問題を起こす場合がある。気候変動リスクは、金融機関にとっても監督当局にとっても、扱いに馴染みがないし、不確実性が高い。ホライズンも長い。そのような状況で、各金融機関が独自に気候シナリオを設定すると、監督当局は対応できない可能性が高い。そこで、共通の気候シナリオも作ることとなった。
 最初の気候シナリオ(NGFSシナリオ・フェーズ1)は、2020年6月24日に発表された。このシナリオは、物理的リスクおよび移行リスクをテストするために、イングランド銀行BOEが実施した研究に基づいている。フェーズ2は2021年6月に公表された。共通した特徴は、以下の通りである。
 ①NGFSシナリオは、TCFDが提言している開示ルールとは異なり、物理的リスクと移行リスクを分けない。そして、秩序:物理的リスク低い・移行リスク低い、無秩序:物理的リスク低い・移行リスク高い、温室世界:物理的リスク高い・移行リスク低い、という3つの代表的シナリオを準備する。
 ②統合評価モデルでGDP損失を算出するに際して、社会経済経路(SSP)を設定している。具体的には、IPCCのSSP2シナリオを使用している。
 ③NGFSシナリオを特徴づけるファクターが2つ存在する。一つ目は、二酸化炭素の回収・除去技術(CDR)。二つ目が、炭素価格である。
 詳細は(3)で後述する。その前に、ストレステストについて整理する。

(2) ストレステスト[*7]
 ストレス発生時、「金融機関の健全性」・「金融システムの安定性」に及ぶインパクトを、定量評価するリスク管理手法が、ストレステストである。ストレステストは、ミクロ・ストレステストとマクロ・ストレステストに大別される。
 ミクロ・ストレステストは、個別金融機関のポートフォリオが持つ脆弱性を測定することが主眼であり、結果は個別金融機関のリスク管理に活用される。
 マクロ・ストレステストは、金融システム全体の脆弱性を測定することが主眼である。なお、中央銀行がマクロ・ストレステストを実施する場合には、金融システム全体の頑強性(脆弱性の裏返し)評価にとどまることが一般的である。金融監督当局が実施する場合には、個別金融機関の自己資本充実度の評価を伴う傾向にある。
 信用リスクのストレステストは、①マクロ経済変数の予測、②推定デフォルト率PDとデフォルト時損失率LGDに対する、マクロ経済変数のインパクトの推定、③ストレスシナリオのインパクトの評価、という3ステップを踏む。
 ①のマクロ経済変数の予測には、マクロ経済モデルが使用される。②は、「PDとLGD」を、マクロ経済変数とリンクさせる式があれば、実行可能である。③は、「PDとLGD」に与えられたストレス値が、ポートフォリオの損益に反映されることで、実施される。
 マクロ・ストレステストの手法には、トップダウン・アプローチとボトムアップ・アプローチがある。トップダウン・アプローチでは、マクロ・ストレスシナリオに加え、マクロ変数をリスクパラメーターに変換するモデル―つまり②まで、金融当局が設定する。そして当局が、個別金融機関に対するインパクトの評価を経て、金融システムへのインパクトを算出する。
 ボトムアップ・アプローチでは、マクロ・ストレスシナリオのみ当局が設定する。そして、個別金融機関に対するインパクトの評価は、各金融機関が行う。当局は、個別金融機関のストレステストの結果を集計して、金融システムへのインパクトを算出する。
 ストレステストは1990年代から使用されていたが、VaR的管理の限界が露呈したリーマンショックを境に、位置付けが変わった。システミックに重要な金融機関の、頑健性評価ツールとして、ストレステストの活用が定着した。そして、「一斉ストレステスト」すなわち、『金融当局がストレス・シナリオを策定し、ストレステストを一斉に実施する。そして、その結果を、当局が監督(指導)に活用する。』の枠組み整備が、欧米諸国を中心に進んだ。
 この一斉ストレステストの枠組みに、気候変動リスクのシナリオ分析=気候変動ストレステスト=が、組み込まれつつあるように感じられる。欧州では、オランダの中央銀行である、オランダ銀行(2018年10月)によって、気候変動ストレステストが実施された。英国の中央銀行であるイングランド銀行は、2019年12月に気候関連リスクのストレステストを実施することを発表したが、新型コロナ感染拡大で延期された。その後の2021年6月8日、銀行と生命保険会社(19組織)を対象に、ストレステストを実施すると発表した。結果は、2022年に公表される予定である。

(3) NGFSシナリオ・フェーズ1
 NGFSシナリオ・フェーズ1[*8]は、SR1.5(IPCC「1.5℃特別報告書」)をベースとしており、以下に示す代表的シナリオ3つと、代替的シナリオ5つで構成されている。代表的シナリオは、①秩序シナリオ、②無秩序シナリオ、③温室世界(ホットハウスワールド)シナリオである。
 移行リスクに対しては、a. CDR種別の二酸化炭素削減量、b. 土地利用による二酸化炭素削減量、c. 土地利用の用途変化等が設定されている。また、エネルギーミックスの変遷も想定されている。それらを、IAMを通じて、GDP損失に結びつけている。物理的リスク(慢性リスク)は、ダメージ関数を使ってGDP損失に結び付けられている。
 最初に開発されたダメージ関数は、Nordhausのダメージ関数である。Nordhausのダメージ関数は、米国イェール大学の経済学者W. D. Nordhausが、90 年代前半に開発したDICE(Dynamic Integrated model of Climate and the Economy)モデルにおいて、気候変化による経済的影響評価のために構築した関数である。GDP損失の割合を、温度上昇幅のべき乗で表している(正確には、さらに係数をかけている)。
 90 年代後半には、DICEモデルを地域分割したRICE(Regional Integrated model of Climate and the Economy)が開発された。RICEモデルでは、経済的影響評価の部門を4 部門から7 部門に拡張し、地球全体の平均温度上昇に対する関数として、利用目的に従い、地域別の関数と世界全体の関数とを定義した[*9]。NGFSシナリオでは、文献から採取した値を示しているだけであり、独自に、開発したわけではない。文献は、Nordhaus (2017)、Kalkuhl & Wenz (2020)など3本[*10]である。
 ①は、温室効果ガス排出量実質ゼロのシナリオである。気候政策は早期に導入され、2℃を大きく下回るまで、地球温暖化を制限することが目的である。徐々に制限が厳しくなることを想定している。再生可能エネルギーの利用は、2050 年には全体の 50%になると仮定している。
 CDRは確立されると仮定しており、CCUS付きのバイオ燃料や森林の拡大によって二酸化炭素の吸収が相当程度想定されている。炭素価格は、2020年以降毎年 10米ドルずつ上昇して 2050 年に(二酸化炭素1トンあたり)300米ドルである。これは、統合評価モデルにGCAMを用いた結果である。MESSAGEやREMINDでは、もっと低い(200米ドルに満たない)。
 物理的リスクおよび移行リスクはどちらも比較的低い。このシナリオでは、移行リスクの経済的影響は「比較的小さい」(今世紀末までにGDP損失は4%)。 物理的リスクによるGDP損失は、今世紀末までに最大で11%程であるが、不確実性が大きく、今後の課題となっている。
 ②は、2030年までの追加の気候変動政策が導入されないことを想定したシナリオである。再生可能エネルギーの利用は、2050 年には全体の 70%となること仮定している。
 CDRは限定的と仮定されている。炭素価格は、2030 年以降毎年35米ドル上昇して、2050 年に(二酸化炭素1トンあたり)700米ドルである。
 秩序シナリオよりもチャレンジングであるため、移行リスクが高く、経済的影響が大きくなる(今世紀末までにGDP損失は8~10%)。物理的リスクによるGDP損失は、今世紀末までに、最大で10%程であるが、不確実性が大きく、今後の課題となっている。
 ③は、現在実施若しくは、計画されている政策が実施されると想定するシナリオである。排出量は2080年まで増加し、3℃以上の温暖化につながる。同シナリオでは、CDRもカーボンプライシングの導入も想定されていない。当然、炭素価格の設定はない。物理的リスクによるGDP損失は、今世紀末までにGDP損失は最大で25%程であるが、不確実性が大きく、今後の課題となっている。
 代替的シナリオの概要は以下の通りである。炭素価格は、明示されていない。
 秩序シナリオのカテゴリーに属する:④急激な対応で2050年脱炭素(気温上昇1.5℃以下)。CDR確立。⑤秩序シナリオのカテゴリーに属する。早期対応で2070年脱炭素(気温上昇2℃以下)。CDRは限定的。
 無秩序シナリオのカテゴリーに属する:⑥急激な対応で2050年脱炭素(気温上昇1.5℃以下)。CDRは限定的。⑦対応が遅れ、2030年以降急激な対応で2070年脱炭素(気温上昇2℃以下)。CDR確立。遅れた2℃シナリオと呼ばれている。
 ⑧温室世界シナリオのカテゴリーに属する。各国が目標に沿って一定の排出削減を行う。

(4)イングランド銀行の枠組み[*11]―バークレイズのストレステストを解説する前に 
 英国のストレステストは、毎年実施される annual cyclical scenario(ACS)と隔年で実施される biennial exploratory scenario(BES)があり、気候変動リスクに由来するショックに対するストレステスト(以下、気候変動ストレステスト)は BES の枠組みで実施される。2017 年に初めて実施されたBES は、ACSでは想定していない種類の、将来起こりうるリスクに対して、金融システムの脆弱性を評価することが目的である。フォワード・ルッキング的な手法の導入が自然であり、気候変動リスクに対するストレステストに親和性が高いと言える。
 英国の中央銀行であるイングランド銀行は、気候変動ストレステストを2021年に実施する意向をかねてより表明しており、2019 年 12 月には、2021年のBESに関するディスカッション・ペーパー(The 2021 biennial exploratory scenario on the financial risks from climate change)を公表している。英バークレイズは、気候関連財務ディスクロージャー2020[*12]のシナリオ分析というパートで、ストレステストの定性的結果を開示しているが、そこには「バークレイズのストレステストは、BoEのディスカッション・ペーパーで提示された提言に沿っている。」旨の記述がある。
 BoEのストレステストの枠組みは、以下のような特徴を有する:①ボトムアップ・アプローチであるため、ショックを財務インパクト(リスクパラメータ)に変換する手段は、金融機関が用意する。②3つのシナリオを用意している。違いは、気候変動対策の実施時期であり、それは「早い、遅い」及び実施しないである。③リスク・ホライズンは30年間である。これを5年毎の6期間に分割して、計測開始時点のバランスシートにストレスをかける。④信用リスク、取引市場がある金融商品についての市場リスク並びに、取引市場がない金融商品についての市場リスクを、リスク計測の対象としている。⑤企業、家計、政府向けのエクスポージャーごとに、ストレステストを実施する。⑥企業向けエクスポージャーに関しては、カウンターパーティー分析が求められている。
 ⑥のカウンターパーティー分析とは、気候変動に関する「リスク並びに機会」が、顧客=投融資先企業の収益や資産に与える影響を分析する方法論である。なお当初案では、カウンターパーティ分析の対象企業は全体の8割が望ましいとされていたが、ストレステスト参加者からは、実施困難というフィードバック意見が出された。この意見を受け入れ、2020年12月には、以下のような対象企業縮小案が公表された:非金融では、基本的に、エクスポージャの上位 100 社をカウンターパーティ分析の対象企業とする。加えて、航空やエネルギー産業などGHG排出量が多い業種は、上位3社を(上位100社に入っていなくても) 対象企業に含める。金融は、上位5社を対象企業とする。

(5) バークレイズのストレステスト[*12] 
 バークレイズは、BoEのディスカッションペーパーの提言に沿っていると述べているが、提言の通りというわけではない。違いの概略を述べると、以下の通りである。1.採用したシナリオは、NGFSフェーズ1の無秩序シナリオである。物理的リスクに関しては、無秩序シナリオの感応度分析という位置づけで、温室世界シナリオも実施している。2.GHG排出量が多いと考えられる企業かつカウンターパーティーリスクが低くない企業を、カウンターパーティー分析の対象としている。3.バークレイズの独自用語であるが、コネクテッドリスクを考慮している。コネクテッドリスクとは、物理的リスクと移行リスクから生じる2次的リスクである。
 以下、詳細を解説する。バークレイズが採用したストレス・シナリオは、NGFSシナリオ・フェーズ1における無秩序シナリオをベースとしている。移行リスク・シナリオでは、(炭素税や排出権価格などの)カーボンプライス[*13]の導入及び、脱炭素に向けた電源構成(エネルギーミックス)の変化が、自行のバランスシートに財務インパクトを与える。物理的リスク・シナリオでは、洪水やサイクロンがGDP損失、失業率増加、食物価格高騰、高インフレ、保険価格上昇、資産価格上昇等を経由して、企業のコストを上昇させると共に、資産価値を毀損させる。
 ストレステストが対象とするエクスポージャは、企業・家庭及び政府であり、対象とするリスクは、信用リスクと市場リスクである。信用リスクと市場リスクという2つの経路で金融機関に財務的インパクトを与える。市場リスクは、取引市場がある金融資産のリスク(代表的には、上場会社株式の価格下落リスク)と取引市場がない金融資産のリスク、双方を対象としている。バークレイズのストレステストの特徴としては、移行リスク・物理的リスク・コネクテッドリスクの3つからの影響を、まとめて、各エクスポージャに反映させていることである。コネクテッドリスクは、家計向けエクスポージャであれば、住宅購入能力に影響すると例示されている。企業向けであれば、債務不履行の増加や企業収益の低下による景気後退圧力と例示されている。
 企業に対する方法論は、企業を5層に分けて、それぞれで異なる方法論を適用する。なお、5層全ての企業は、マクロ経済ストレスに晒されているため、同じコネクテッドリスクを被っているとされている。
 最もリスクが高い層「重大なエクスポージャ」では、信用リスク委員会が、レビューを行うという。定性的アプローチが採用されている。
 次にリスクが高い層「リスクが増大したセクター:カウンターパーティーリスクが中度もしくは高度」では、EBITDAアプローチを適用する。これは、カウンターパーティー分析である。具体的には、炭素価格や石油需要が企業収益(具体的には、EBITDA)に影響を与えて、信用格付けを遷移させた結果、変動する信用コストを捉えるという定量的アプローチである。
 リスクが増大したセクターとは、「空港運営・航空、自動車製造、建材、石炭採掘及びその周辺支援、汎用化学品、石炭以外の鉱物採掘、石油及びガス、電力、畜産業及び農業、海運、製鉄、陸上輸送・物流」を指している。対照的に特定の産業セクタ-に限定していない。為参考であるが、三井住友フィナンシャルグループの移行リスクは、電気・エネルギーセクターに限定されていた。
 5層中3番めに位置する「リスクが増大したセクター:カウンターパーティーリスクが低度」では、"信用気候レンズ"で評価する。信用気候レンズは、カウンターパーティーへの移行リスク及び物理的リスクのインパクトを評価するための20の質問で構成されている。その結果が信用格付けを遷移させた結果、変動する信用コストを捉えるという定性的なアプローチである。
 「リスクが中程度のセクター」では、化石燃料への依存度や技術リスクといった、移行リスク及び物理的リスクに関する脆弱性をスコアカードで評価する。その結果が信用格付けを遷移させた結果、変動する信用コストを捉えるという定性的なアプローチである。
 最もリスクが低い層「リスクが程度のセクター」では、気候変動がマクロ経済変数に与える影響を通して、顧客企業への財務インパクトを評価するという定量的なアプローチが採用されている。
 なお、市場リスクに関するシナリオは、次のように記述されている。①欧州と英国の極端な気象が市場リスクを増大させる:欧州と英国の主要都市に甚大で広範な洪水が秋に発生する。/欧州と英国で初冬に記録的な大雪が発生し、公共サービスが機能しなくなる。②米国の極端な気象が市場リスクを増大させる:米国南部と東部に、記録的に遅い秋のタイミングで、記録的に強大なハリケーンが襲来し甚大な洪水が発生する。/ニューヨークやワシントンDCを含む北東部で、吹雪が立て続けに起きる。③インドの極端な気象が市場リスクを増大させる:インドが同時に激甚化気象を経験する。/激甚化気象の経験が、インド政府は気候変動への対応能力に欠けるという国内外の非難を引き起こす。国際メディアが取り上げ、世論がそう認識する。/インド政府は、対応するために政府支出を増やすが、それはGDPを大きく減らす。④欧州、英国及び米国で炭素税が"無秩序に"導入される:欧州、英国及び米国で、突然にして高率な炭素税が導入される。/エネルギー会社は再生エネルギーにすばやくシフトできず、再生エネルギー導入に付随するコスト増大を消費者に転嫁する。/気候変動リスクが高い企業は、高コストに陥り、格付けが低下若しくは倒産する。/炭素集約的資産を有する企業が、大きな影響を受ける。
 家庭に対する方法論は、a. (物理的リスクとして)洪水リスクが家庭・家計に与えるインパクトと、b. 移行リスクに係る事象が家庭・家計に与えるインパクトを、計量化するというもの。b. では、例えば省エネルギー規制が厳しくなり、その対応のために必要な出費を計量する。また副次的効果として、GDP低下と失業率の上昇とを考える。この影響がより大きいと分析している。GDP低下と失業率の上昇は、何らかのマクロ経済モデルを用いて導出していると思われる。
 定性的な結論として、無秩序シナリオでは、洪水リスクの影響(直接的な価値の毀損)は小さいと開示している。(政府の説明は割愛した。)

(6) NGFSシナリオ・フェーズ2[*14]
 移行リスクと物理的リスク(さらに慢性リスクと急性リスク)に分けて、フェーズ1から骨格がアップデートした箇所を、まず述べる。
 ①移行リスク:中央銀行や金融当局が、マクロ・ストレステストを行える程度に、マクロ経済変数が増えた。フェーズ1では(3つの)統合評価モデルIAMを使っていたが、出力であるマクロ経済変数はGDPのみであった。フェーズ2では、(詳細は、後述する)NiGEMというマクロ経済モデルを使っており、「GDP、失業(率)、インフレ(率)、生産性指標、個人可処分所得、住宅価格、(長期)金利、為替レート、株価」などのマクロ変数を出力する枠組みを整備した。
 NiGEMモデルを活用すると、リスク・イベントあるいはストレスシナリオが、経済成長・生産性・雇用・賃金等に与える影響を推定することができる。ちなみに、NiGEMは、2018年にオランダの中央銀行蘭であるオランダ銀行DNBが、移行リスクのストレステストで使用したものでもある。
 ②物理的リスク・急性リスク:フェーズ1では、取り扱っていなかった。フェーズ2では、(詳細は、後述する)CLIMADAというモデル(オープンソースのソフトウェア)を使って、台風・サイクロンと洪水による直接的な損害・損失を計算する枠組みを整備した。ちなみにCLIMADA自体は、より広範な災害に対応しているので、必要なデータを整備することによりNGFSシナリオ内で対応可能な災害は、今後拡充される。
 ③物理的リスク・慢性リスク:ダメージ関数を使って気温上昇幅からGDP損失を計算するという枠組みは変わらない。変わった点は、フェーズ1では、3本の文献を並列で示していたところをフェーズ2では、Kalkuhl & Wenz (2020)[*10]のみに絞ったところである。
 細かい変化としては、以下があげられる:④主要国・地域がコミットメントを表明している、2050年ネットゼロ排出目標に沿ったNet Zero 2050のシナリオが明示された。⑤フェーズ1では、参照扱いであった1.5℃が、メインの温度ターゲットとなった。⑥フェーズ1では、代表的シナリオ+代替的シナリオという立て付けであったが、フェーズ2では、1つのカテゴリーになった。その中で6本のシナリオが提示されている。⑦フェーズ1の粒度は、全世界と熱帯地域あるいは、欧州中央部と欧州南部といった広域レベルであった。フェーズ1の粒度は、国レベルである。
 ⑥で触れた6本のシナリオとは、『秩序|2050年にGHG排出量ネットゼロ、気温上昇を2℃未満に抑制 /無秩序|経路が異なるが2050年にGHG排出量ネットゼロ、対応が遅れる /温室世界|既にコミットした政策は実行する、現状の政策を維持=平たく言えば、何もしない』である。

 NiGEMは、英国の経済調査機関National Institute of Economic and Social Research(NIESR)により開発されたマクロ経済モデルであり、中央銀行や金融監督当局並びに,世界の主要企業が使用している。NiGEMは、44ヵ国を内包する多国モデルであり、海外からの経済ショックの影響予測や、国家間経済の相互関係を分析できるところに利点がある[*15]。海外からの経済ショックとは、例えば原油価格の上昇や中国経済の停滞であり、GDP成長率、民間消費成長率、民間投資成長率への影響などを予測できる。

 CLIMADAは、気候変動がもたらす直接的な損害を評価することが可能なソフトウェアである[*16]。CLIMADAは、気候変動への適応策に関する経済学的手法を実装しており、適応策の評価が可能であることをセールスポイントとしている。つまり、さまざまな経済発展と気候変動のシナリオを、費用便益アプローチと組み合わせて、「河川への堤防設置、建物の防御や規制、及び極端な気象イベントに対する保険への加入」といった適応策を包括的に評価することができる。
 「温室効果ガスの大気濃度及び対応する放射強制力」を入力として、「気温、降水量、河川流量、農業生産力、土壌水分」を出力する。台風・サイクロン、洪水、干ばつ、熱波などの災害に対応しているが、(慢性リスクに該当する)海水面の上昇には対応していない。

(7) 統合評価モデルIAMに関する整理
 IAMは、人口及び生産性の成長が過去のトレンドと一致して継続することをベースラインとして仮定するが、以下の項目にも、依存する。
① 政策:政策ターゲット、世界的な政策の協調、政策実施の遅れ
② 技術:発電コスト(地域でも異なる)、炭素回収技術、同技術を展開する困難さ
③ 社会:人口移動、食生活と食選好
 SSPのエネルギー使用と排出の特性を作成するために、用いられた6つのIAMについて簡単に整理する。
 AIMは日本・国立環境研究所、GCAMは米国・パシフィックノースウェスト国立研究所(PNNL)[*17]、IMAGEはオランダ環境評価庁(PBL)、MESSAGEはオーストリアにある国際応用システム分析研究所(IIASA)[*18]のモデルである。REMINDは、独ポツダム気候影響研究所(PIK)が開発したモデルである。[*19] 。WITCHは、イタリアのエニ・エンリコ・マッティ財団(FEEM)のモデルである。
 MESSAGEix-GLOBIOM、REMIND-MAgPIE、及びWITCH-GLOBIOMは、MESSAGE、REMIND及びWITCHの「エネルギー経済的土地利用排出モデル」バージョンである。エネルギー経済的土地利用排出モデルとは、グローバルな土地利用とエネルギーシステムの記述と、内部的に一貫した社会・人口統計学的および経済的予測とを組み合わせたモデルである。
 日本のIAMであるAIM (Asian-Pacific Integrated Model:アジア太平洋統合評価モデル)は、将来の人口と GDP を入力して、気候、エネルギー、経済システム、食料需給、土地利用、温室効果ガス排出量、温室効果ガス排出削減量などを出力するモデル。また、AIM-CGEは、応用一般均衡モデル(CGE)に分類される、AIMのマクロ経済モデルである。
 IAMは、必ずしも、全てのSSPシナリオをカバーしているわけではない。AIM、CGAM及びWITCHはSSP1~SSP5の全てをカバーしている。IMAGEとMESSAGEは、SSP1~SSP3をカバーしている。REMINDは、SSP1、SSP2及びSSP5をカバーしている。
 SSPマーカーはIAMで分担している。IAMは各SSPシナリオの定量化を行ったが、複数のIAMの数値のうち、各SSPシナリオの代表値をSSPマーカーという。SSP1のSSPマーカーは、IMAGE。SSP2は、MESSAGE。SSP3は、AIM。SSP4は、GCAM。SSP5は、REMINDが担当している。

(8)ネクストステップを入れるか?

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【4】 移行リスクにおけるシナリオ
 移行リスクのシナリオは、名称変更が頻繁であり、さらに構成自体も変更されるので、注意を要する。移行リスクに関して適応可能なシナリオ群として以下があったが、WEO2020で改めて、3つのシナリオに整理されている:STEPS、SDS、NZE2050である。STEPSでは平均気温が3.6℃に上昇する。SDS、NZE2050では2℃以下に抑える。
(1) IEA WEOシナリオ群
①IEA WEO SDS、②IEA WEO Bridge、③IEA WEO INDC
 WEO(World Energy Outlook)は、IEA(国際エネルギー機関)が毎年発行しており、シナリオ・ベースの分析による『将来のエネルギー像を示している』報告書で、世界的に権威がある[*20]。WEOシナリオは、WEOが分析・設定したエネルギーの将来像に随伴する、気候変動シナリオである。
 WEOでは、3つのシナリオに基づいた分析を行っていた:a.リファレンス・シナリオ、b.中心シナリオ、c.持続可能な開発シナリオ。WEO2020では、大きな変更が見られた。
 リファレンス・シナリオあるいは「現行政策シナリオ(略語:CPS)」、あるいはBAU(business as usual)シナリオは、気候変動に対していかなる対策も講じないというシナリオ。
 中心シナリオあるいは「公表政策シナリオ(以前は、新政策シナリオ(略語:NPS)と呼ばれていた)」は、WEO発行時点で最新である各国政府の(計画を含む)政策の実施を組み込んだシナリオ。
 持続可能な開発(サステイナブル・デベロップメント)シナリオは、「パリ協定」で定められた目標を完全に達成するためには、どのような道筋をたどることになるかを分析したシナリオ。以前は、450シナリオと呼ばれていた[*21]。2017年以降、SDシナリオ(SDS)に名称変更した。
 パリ協定の目標とは、
 □世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて、2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする。
 □可能な限り早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガスの排出量と吸収量とのバランスをとる。
 WEO2020の変更点は、以下の通り。SDシナリオをベースとして、NZE2050を目指すと解釈できるだろう。
 ■中心シナリオという概念が喪失。
 ■現行政策シナリオ(6℃も平均気温が上昇する)は、あり得ないとして喪失。
 ■公表政策シナリオは、STEPS(すでに公表済みの政策によるシナリオ)と表記が変更された。STEPSでは、2021年に新型コロナウイルスが沈静化し、世界経
  済は同年中に以前のレベルに戻ることを仮定している。
 ■新型コロナウィルスの影響を鑑みて、回復が遅れるシナリオ(DRS)が登場。前提となる政策はSTEPSと同じだが、コロナ以前のレベルに戻るのは2023年
  になってからと仮定している。
 ■2050年に、実質的に排出ゼロを達成するNZE2050シナリオが登場。SDシナリオでは、実質排出ゼロは、2070年と想定されている。

 ②のBridgeシナリオは、 中心シナリオとSDシナリオとの中間シナリオであり、2025年まで2℃の上昇に抑えるというシナリオであった。③のINDC(約束草案)シナリオは、パリ協定に基づいて各国が宣言した、二酸化炭素を始めとする温室効果ガスの、2030年までの削減目標が達成されると仮定するシナリオであった。同シナリオでは平均気温の上昇が2.6℃~2.7℃と予測され、2℃未満という一つのコンセンサスに満たないと批判された。INDCはパリ協定締結前に作成することが招請され、締結後はINDCがNDC(自国が決定する貢献)となった。

(2) IEA ETPシナリオ
 ETP(Energy Technology Perspective)もIEAが発行する報告書であり、WEOと並んで、世界的に権威がある。ETPは、国際的なエネルギー・気候目標の達成(すなわち、地球温暖化の抑制)に必要と考えられる技術を整理して、発信している。WEOシナリオとETPシナリオは2020年に統一されており、分けて取り扱うことに実質的な意味は、既にない。
④IEA ETP 2DS、IEA ETP B2DS
 ETPもETP2020[*22]で、シナリオを新しく整理した。STEPS、SDS、Faster Innovation Caseである。なお、Faster Innovation Caseとは、WEO2020におけるNZE2050である。
 またETP2020では、『SDSを達成するために必要な技術を検討することを目的に、800以上のクリーンエネルギー技術の分析を行い、その中でも特に必要とする技術について解説』している。
 従前の2DSは、今世紀末までの世界平均気温上昇を少なくとも50%の確率で2℃に抑制するというシナリオ。2℃シナリオと呼ばれることもあるが、推奨されない。一般的に2℃シナリオと言えば(物理的リスクにおいて用いられる)RCP2.6シナリオである。またB2DSは、2℃未満シナリオであり、正確には「50%以上の確率で、世界平均気温上昇を1.75℃以下に抑制する」というシナリオ。

(3)その他シナリオ群
⑤Deep decarbonizaion Pathways Project
 Deep Decarbonization Pathways Projectは、二酸化炭素排出量の上位15カ国の30の科学研究機関からなる、気候変動対策プロジェクト。平均気温の上昇は2℃以下に抑える。

⑥IRENA REmap
 IRENAは国際再生可能エネルギー機関で、REmap(再生可能エネルギー・ロードマップ)は、再生可能エネルギーシェアを2030年に倍増するというシナリオ。平均気温の上昇は2℃以下に抑える。

⑦Greenpeace Advanced Energy [R]evolution
 オランダのアムステルダムに本部を置く、国際環境NPOであるグリーンピースのシナリオ。平均気温の上昇は2℃以下に抑える。

◆参考:WEO2020における、シナリオ毎のエネルギー需要の見通し 
 以下に、WEO2020で展開されている、各シナリオを概観する。
(1) 公表政策シナリオSTEPS
◇ 化石燃料が、ある程度使用される前提。
◇ 再エネの主力は、太陽光と風力。原子力に重きは置いていない。
◇ 電気自動車の販売は、限定的との見立て。
 ・ 2030年までに再エネが電力の約40%を供給する。
 ・ 再エネの増加は、主に太陽光発電と風力によって推進される。
 ・ 天然ガスは2020年の需要の落ち込みから急速に回復する。
 ・ 石炭需要はインド、インドネシア、東南アジアで成長を続け、中国で、短期的には回復。
 ・ 電気自動車の販売は、引き続き増加。
(2) 持続可能開発シナリオSDS 
 ◇ 再エネの主力は、太陽光と原子力。
 ◇ 現時点で実用化されていない技術に依存している。
 ◇ 電気自動車の販売目標を明示。
 ・ 2030年までに、低炭素電力は、世界の総発電電力量のほぼ2/3を占める。
 ・ 水素、CCUS(炭素回収・利用・貯蔵)、SMR(小型モジュール炉)等が、急速に進む。
 ・ 再エネのなかでも、特に太陽光と原子力の貢献が大きい。
 ・ 既存原発の運転期間延長、SMRを含むイノベーションの推進が必要。
 ・ 電気自動車は新車販売の約40%を占める。
(3) NZE2050
 ◇ 達成に必要な定量的目標を明示。
 ・ 電化、効率性の向上、行動変化が中心的な役割を果たす。
 ・ 再エネのなかでも、特に太陽光と原子力の貢献が大きい。
 ・ 2030年までに、世界の総発電電力量の75%近くを低炭素電源が賄う必要あり。
 ・ 2030年までに、販売自動車の50%以上を電気自動車にする必要あり。
 ・ CCUSのない亜臨界および超臨界石炭火力発電所は2030年には稼働していない。
 ・ 再エネのシェアは、2019年の27%から、30年には60%に拡大。

◆参考:ETPが、ハイライトしている技術 
 既述通り、ETPは地球温暖化の抑制/ゼロエミッション、に必要と考えられる技術を(鍵となる産業セクタ-をピックアップした上で)整理・分析している。必要な技術アイテムは、次の4つである:電化、水素及び水素関連燃料、CCUS(炭素回収・利用・貯蔵)、バイオエネルギー燃料。
 ・ 電化が、排出量抑制に最も貢献する。
 ・ 運輸、産業、建物部門の電化が重要。
 ・ 運輸分野では、電気自動車EVの普及が、大きく貢献する。
 ・ 燃料電池やEV用電池は、コストが指数関数的に低減する。
 ・ 産業部門では、(低温熱需要を賄う)産業用ヒートポンプが、大きく貢献する。
 ・ ヒートポンプの価格は、あまり下がらない。
 ・ 2070年には、約300Mトンの水素が電気分解で製造される。
 ・ 運輸、産業、建物部門の全てで2070年までに、二酸化炭素が90%以上削減される。
 ・ 削減量の3/4はCCUSを始め、現在商用化されていない技術が担う。

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【5】 UNEP FIの移行シナリオ(移行リスクの評価) 
 国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)は、2018年4月に、報告書:『気候変動 さらに長期的な視点へ 気候変動の時代における信用リスクと機会の評価:TCFDによる提言を試行する16のUNEP FI銀行ワーキンググループの活動成果報告書パート1:移行関連リスク及び機会』を公表した[*23]。当該報告書は、UNEP FIの署名機関である16の銀行による協働の成果である。
 なお、国連環境計画(UNEP)は、1972年ストックホルム国連人間環境会議で採択された「人間環境宣言」および「環境国際行動計画」の実行機関として、同年の国連総会決議に基づき設立された国連の補助機関である。1992年に設立されたUNEP FIは、UNEPと世界各地の銀行・保険・証券会社等とのパートナーシップであり、経済的発展とESGへの配慮を統合した金融システムへの転換を進めている。

(1)全体整理 
   銀行が気候変動リスク(移行リスク)を、通常のマクロ・ストレステストと同じ枠組みで実施しようとすると、気候シナリオ(移行シナリオ)が貸出ポートフォリオに与える影響を評価する必要がある。つまりショックを、リスクパラメータに変換する方法論が必要となる。NGFSは、シナリオ・フェーズ3において、その手法を開発・開示すると公表しているが、UNEP FIは、NGFSに先んじて公表したことになる。
 UNEP FIは、銀行が移行リスクを評価するに際して、克服しなければならない課題を6つあげている:①気候と信用リスクとの関連を測定するための実証データが限定的である。②通常のリスク管理におけるリスク・ホライズンと比べて長い。③移行リスクは、どの産業にどの程度影響するかという点で、業種によって異なる。④開示に有用であるためには、体系的、繰り返し利用可能で、一貫性のある方法論である必要がある。⑤移行リスクは、トップダウン分析では、不十分である。⑥質の高いシナリオ分析を実施するには、組織全体にわたる広範な調整が必要である。
 ③に関連して、ポートフォリオは、業種と地域によってグルーピングされている。業種は、エネルギー、石油、ガス、石炭、電力、農林業、農作物、林業、家畜、再生可能エネルギー、運輸、工業プロセス、住宅・商業ビルに分けられている。場合によっては、電力会社を、石炭発電所とそれ以外の発電所に分けるといったセグメント化を検討する必要性も指摘されている。
 貸出ポートフォリオ影響評価は、ボトムアップとトップダウンの両方の併用で実施される。ボトムアップは、専門家の知識を使った、カウンターパーティー・レベルでの調整である。トップダウンは、シナリオモデルから得られるパラメータの調整である。評価はサンプルベースで行われる。
 UNEP FIが提示している枠組みで、移行リスクは、移行シナリオの下での期待損失の変化によって計測される。変化の基準シナリオは、IPCCのRCP8.5(4℃シナリオ)である。期待損失は、デフォルト率(PD)、デフォルト時損失率(LGD)、デフォルト時エクスポージャ(EAD)の積として算出される。PDは、マートン型の枠組みを用いて、ポートフォリオ全体に組み込まれる。LGDは、例えばFrye-Jacobsモデルを用いると、移行リスクを反映する前のLGDに対して、移行リスクをPDに反映した「調整」を同様に施すことによって、LGDに移行リスクを反映させることができる。

(2) デフォルト率PDの評価 
 マートン型のモデルを基にして、PDに移行リスクを反映させている。つまり、
       PD'=Pr(X'<D)=Pr(X<D')=Φ(D')
としている。D'が得られれば、移行リスクを反映したPDが得られる枠組みである。ここで、
       PD' :移行リスクを反映したPD
       Pr(X'<D) :X'がD未満である確率
       X :標準正規確率変数の性質を持ち、信用度を表象する変数
       X' :移行リスクを反映したX
       D :デフォルトを判別するしきい値
       Φ :標準正規分布の累積分布関数
       D' :移行リスクを反映したD
である。移行リスクを反映する前のPDが、実績ベースのデータから算出されていれば、Dは機械的に算出できる。なおPDは1年PDである。また、TTC(スルー・ザ・サイクル)ベースなので、適当な直近期間の平均値である。
 D'は、「気候信用度指数」なる値を、Dから控除して計算している(加法か減法かは、本質的ではない)。気候信用度指数は、[a]リスク・ファクタ・パスウェイRFPに、[b]業種(セグメント)毎に異なる、RFPに対する感応度を乗じて、さらに[c]調整係数を乗じて、計算される。
 RFPは、産業セクター毎に移行リスクが如何に異なるかを理解するために開発された。RFPは、重要な企業信用リスクドライバーを表現する。RFPは、4種類存在し、業種と地域(まずは、アジアとか欧州といったレベル)によっても異なるという設定である。4種類とは、①温出効果ガスの排出コスト増加、②温出効果ガスの排出コスト増加が、もたらす間接的なコスト増加、③低炭素経済への移行に向けた設備投資、④低炭素社会においてコストが増加したため生じる需要の減少に由来する収益の低下、である。
 法人向け事業融資の場合、Xには、金利や為替といったマクロ経済変数が含まれる。REMINDやMESSAGEのような統合評価モデルあるいは、NiGEMのようなマクロ経済モデルを使用することで、リスク・パスウェイの影響をマクロ経済変数への影響に変換することができる。

(3) デフォルト時損失率LGDの評価
 LGDの評価は難しい。一般論で言えば、次のように説明できる。
 [a] LGD推定の基礎となるデータは、デフォルト債権からの回収額である。回収期間は一般に5~7年程度で長く、そもそもデータが少ない。
 [b] 100%回収は難しいので、ある時点で回収完了とするが、その判断も必要となる。
 [c] 回収は保全回収と信用回収とに分かれるが、例えば保全回収は債権者の回収行動に大きく影響されるとされており、両者は分離して推定すべきとされている。
 [d] 日本固有の事情もある。デフォルト後の追加融資や経営支援は、日本に限定されないが、日本の場合デフォルト前後で、金利が変わらないといった慣習がある。その代わりに根抵当(などの複雑な担保契約)や連帯保証人制度あるいは信用保証協会保証制度があり、それらが回収金額をカバーしている。
 [e] 数学的(統計学的)には、LGDは0%と100%に集中する二峰型分布であるため、パラメータ推定が安定でないとされており、LGD推定は難しい。
 上記一般論に加えて、移行リスクをLGD推定に加味する場合、担保価値が移行リスクにさらされていることを勘案するケースがあるだろう。UNEP FIが提示している枠組みでは、具体例としてFrye-Jacobsモデルを上げている。
 Frye-Jacobsモデルには、4つの仮定がある[*24]。
 ①デフォルトによる信用損失の累積分布関数F_lossと、実績デフォルト率の累積分布関数F_drを考える。次に、同じ条件(シナリオ)下で生じる信用損失と実績デフォルト率を、それぞれLOSSとDRとする。LOSSに該当するF_lossのしきい値q_lossと、DRに該当するF_drのしきい値q_drは等しい。この性質を共単調性という。②信用損失と実績デフォルト率の累積分布関数は、2変量分布関数である。③累積分布関数はバシチェック分布である(ただし、ベータ分布、対数正規分布でも良い)。④債権ペアの相関を考慮する。
 Frye-Jacobsモデルで、LGDは以下の式で表される。標準正規分布の累積分布関数Φは、実績デフォルト率が従う関数として構成すれば良い。なお、信用リスクの文脈において、ELは損失「額」ではなく、損失「率」である。式で書けば、PD×LGDである。
       LGD=Φ(Φ-1 (DR)-{Φ-1 (PD)-Φ-1 (EL)}/(1-ρ) 1/2)/DR
       Φ-1:標準正規分布の累積分布関数の逆関数 
       DR:実績デフォルト率 
       PD:(移行リスクを考慮した)予想デフォルト率
       EL:(移行リスクを考慮した)PD×(移行リスク考慮前の)LGD  
       ρ:債権間の相関

 4つの仮定の内で、重要な仮定は①である。平たく言うと、共単調であるとは、完全に相関していることを意味している。PDとLGDとの間には「正の相関がある」と広く認識されているが、Frye-Jacobsモデルでは、さらに一歩踏み込んで、完全な相関がある(共単調性)という強い仮定を導入している。そうすることで、上記[a]~[e]のような複雑さを排除して、デフォルト周りの実績データと、PDのみでLGDを算出することを可能にしている。式を以下のように変形すると、Frye-Jacobsモデルの構造が、より理解できるだろう。ただしξ=1/(1-ρ)1/2、η=ξ・Φ-1 (PD)-Φ-1 (DR)とした。
    DR×LGD=Φ(ξ・Φ-1(EL)-(ξ・Φ-1(PD)-Φ-1(DR)) )
    DR×LGD~Φ(Φ-1(EL) ) → 補正; DR×LGD=Φ(ξ・Φ-1(EL)-η )

 共単調性のおかげで、デフォルト率の修正幅を、信用損失の修正にそのまま使うことができる。移行リスク考慮前のLGDは、例えば、回収額(信用回収にかかる回収額)がガンマ分布に従い、対数リンク関数でパラメータを推定する手法で、推定すれば良いだろう。
 移行リスクを評価する債権の担保が移行リスクに晒されている場合、Frye-Jacobsモデル以外に、Heckitモデルの適用が考えられるだろう。日本銀行の金融レポート(2021年4月)[*25]のBOX4プロジェクトファイナンスの構造とデフォルト時回収率、で取り上げられている手法である。プロビットモデルと、トービットモデルを用いた2段階推定モデル(Heckitモデル)である。トービットモデルは、プロビットモデルにより得られたパラメータによってデータの偏りを補正して、デフォルトしたプロジェクトのみに適用される。トービットモデルは、途中打ち切り回帰モデルとして有名であり、Rのライブラリーにも専用関数が存在する。

(4) デフォルト時エクスポージャEADの評価
 EADは一定と仮定されている。

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【6】 UNEP FIの物理的シナリオ(物理的リスクの評価)
 国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)は、2018年7月に、報告書:『気候変動への対応  気候変動における信用リスクと機会の評価:TCFD提言を試験的に実施する16銀行のワーキンググループによる成果報告書 第2部:物理的なリスクと機会』を公表した[*26]。当該報告書は、UNEP FIの署名機関である16の銀行が協力した結果である。以下、本報告書と呼称する。

(1) 事前整理1:物理的リスクをマクロ変数へ反映する3つのアプローチ
 移行リスクとは対照的に、少なくとも現時点では、物理的リスクをマクロ経済変数に反映することは、難しいと認識されている。それは、つまり銀行のマクロ・ストレステストの枠組みに、物理的リスクを反映させることが難しいことを意味する。本報告書によれば、物理的リスクがマクロ経済へ与える影響を推定するために、これまで、概ね3種類のアプローチが採用されてきた。
 ① 最も古い、通称「列挙的アプローチ」。 [a] 農業、沿岸地帯、エネルギー、水を含む幅広いセクターにわたる、物理的影響のモデル化を検討する。これらの研究から、 [b] 温暖化の度合い当たりの「作物生産性の低下」などから、反応を定量化する。その後、 [c] これらの反応の「弾力性」に価格を乗じて、最終的な経済的コストを定量化する。このアプローチの主な利点は、銀行のリスク管理の文脈に直接関係しない。欠点は、実証的証拠が限定的であり、セクターを横断して影響を統合または列挙できるという基本的な仮定が成り立たない可能性があること。
 ② 第2のアプローチは、応用一般均衡モデル(CGE)を応用するアプローチである。これらは供給サイドのショックとしてシミュレートされ、列挙的アプローチの主な欠点に対処しながら、各種セクター間のあらゆる関係を組み込めることが、このアプローチの利点である。一方、列挙的アプローチと同様、モデルのキャリブレーションと検証について、経験的根拠が限られていることが主な欠点である。
 ③ 第3のアプローチは、観測された気候条件の変動を用いて、観測されたマクロ経済変数―主にGDP―に及ぼす影響を、統計的に推定するアプローチである。主な利点は、原因(気候)と影響(マクロ経済の変化)を妥当な水準で特定できることである。主な欠点は、過去の気候変動が、一般的に年次などの短い時間スケールに及ぼす影響が、将来の漸進的な気候変動の適切な代替とならない場合があることである。

(2)  事前整理2:これまでのマクロ経済影響評価の主な結果
 本報告書によれば、『気候変動のマクロ経済的影響に関する研究のほとんどは、炭素排出の社会的コストの推定に向けられてきた。そのため、GDPに占める物理的影響コストの割合を明らかにすること以外には、ほとんど関心が払われなかった。物理的リスクが、インフレや金利といった、より広範なマクロ経済指標にどのような影響を与えるかについての研究は、ほとんど存在せず、重要な研究ギャップとなっている。』 この指摘は、NGFSシナリオにおける物理的リスクの扱いを鑑みても、頷ける。NGFSでは(フェーズ2でも)、損失関数を用いて、温度変化をGDP損失のみに変換している(フェーズ3では、拡張される計画がある)。
 そして、残念ながら、物理的リスクのマクロ経済的影響に関する既存の推定値は、信頼度が低い。(1)②のアプローチ(CGEモデリング)は、物理的リスクがもたらす経済コストは、限定的であるとの結果を導き出す。例えば、以下のような結果である:気候変動がエネルギー生産に影響を及ぼす。→ それによってエネルギーが高価になる。 → 消費者が、相対価格が低下した他の資材とエネルギーを代替消費する。 → 全体的な経済コストは限定的である。対照的に、(1)③のアプローチでは、成長に非常に大きな影響が及ぶことが明らかとなっている。
 また、地域的ばらつきも大きい。本報告書によれば、『ある研究によれば、4℃の温暖化は、2100年までに、サハラ以南のアフリカ、南アジア、東南アジアでGDPの約75%の減少をもたらす可能性があるが、ヨーロッパではGDPが50%増加する。』

(3)  事前整理3:物理的リスクは、銀行に、どのように影響するか? 
 本報告書は、『信用リスクと市場リスクは、確実に影響を受けるだろう。』と指摘している。不十分ながらも、物理的リスクを考慮している理由であろう。
 信用リスクについては、①「貸出先企業の(有形営業固定)資産に損害を与え、事業の中断を招く可能性がある。」のみならず、②「直接的な影響に加えて、インフレ水準、個人消費、その他の要因を含むより広範なマクロ経済環境も、貸出先の返済能力に影響を与える可能性がある。」さらに、③「生産性の低下、サプライチェーンの断絶、原材料の不足をもたらす可能性がある。」加えて、④「製品やサービスの需要パターンの変化などに由来する事業改革によるコスト増加」や、「政府の政策や規制の変化によるコスト増加」さらには、「増大するリスクに対応した損害保険会社が、保険料を値上げすることによるコスト増加」等によって、「企業収益が減少し、バランスシートを弱体化させる可能性がある。」
 市場リスクについては、金利リスク、株式リスク、商品リスク、為替リスクなどを上げている。特に、『(資産保有を通じて銀行の市場リスクに影響を及ぼす)株式ポートフォリオの物理的リスクに焦点を当てた研究は、ほとんど存在しない。』と指摘しており、株式リスクの定量化が重要であるとの認識がうかがえる。

(4) 本報告書における方法論の全体整理 
 NGFSシナリオにおいては、移行リスクは、マクロ経済変数との関係付けが充実している。フェーズ1での統合評価モデルから、フェーズ2のマクロ経済モデル(NiGEM)に確実に進歩している。物理的リスクは、前述したように、フェーズ2においてもGDPと関係付けられているのみである。そこで本報告書では、個別企業の財務指標に、物理的リスクを反映させている。そうすることで、物理的リスクを格付けの変動に変換して、信用リスクの変動を把握している。ただしPDのみで、LGDに射程は及んでいない。
 本報告書に提示された手法では、物理的リスク・シナリオが、貸出先の収益、コスト、不動産価値に与える影響を考慮し、これらの変化が貸出先とポートフォリオのレベルにおける、デフォルト率(PD)とLTV(ローン資産価値)に、どのように影響するかを推定する。物理的リスクは、慢性的変化と急性的変化の両方を考慮している。(明示的に)対象となっている産業セクターは、農業セクターとエネルギーセクター及び、不動産セクターである。
 分析にあたっては、2020年代と2040年代の銀行の与信ポートフォリオが、現在と同じであると仮定している。気候シナリオは、RCP2.6(2℃上昇)とRCP8.5(4℃上昇)の二つである。ポートフォリオ・レベルの影響を評価するために、セクター・ポートフォリオのPD、LTV、デット・レンジを代表する貸出先のサンプルを個別に評価し、その結果をポートフォリオ全体に外挿している。貸出先のサンプルは、気候条件の空間的変化を説明できるよう、ポートフォリオの地理的分布を代表するものでなければならない。
 当手法で取り上げられる急性的変化は、暴風雨・台風(サイクロン)、洪水、森林火災、干ばつ、極暑である。

(5) 農業セクターとエネルギーセクター 
 農業とエネルギーに関する物理的な気候リスクの評価手法は、気候変動が貸出先の売上と売上原価(可能ならば、加えて、バランスシート)に及ぼす影響を分析し、デフォルト率(PD)の変化を推定することに焦点を当てている。より具体的に言えば、格付モデルの財務比率分析を用いて格付を修正し、PDの変化を求める。
 最初のステップは、貸出先の損益計算書から、(直近数期の)売上と売上原価を抽出することである。加えて、貸出先の主要な事業資産、その所在地および生産量に関するデータも必要である。
 次のステップは、物理的リスクを、貸出先の売上と売上原価の調整に変換することである。売上と売上原価の変動を格付け変化に反映し、格付け変化をPDの変化に変換する。
 農業セクターとエネルギーセクターでは、扱いが異なる。

(5-1) 農業セクター 
 農業生産性、すなわち農業セクターの売上は、気温変化や降水量変化(干ばつ)の影響、すなわち慢性的変化の影響を受ける。物理的リスクが、農産物の生産量とその価格、及びコストに与える影響は、文献資料から採取している。
 物理的リスク・慢性的変化による収益の変化は、売上と価格の変化を考慮に入れている。したがって、もし生産の減少が市場価格の上昇によって相殺されるならば、農業生産者の総収入における変化率はわずかとなる。
 個別貸出先(サンプル企業)からセグメント・ポートフォリオへの外挿は、以下の単純な仮定に基づいている。サンプル企業における売上および価格の変化は、当該セグメントの年間収益に同等の変化をもたらす。

(5-2) エネルギーセクター
 エネルギーセクターでは、単純化の想定として、価格の変化は考慮されず、発電量の変化のみが考慮される(売上=発電量×固定された発電量単位あたりの価格)。火力発電所と水力発電所を評価対象としている。物理的リスクの増大により、世界中の多くの火力発電所と水力発電所の発電量が、低下することが示唆されている。物理的リスクとしては、慢性的な変化は(ほとんど)考慮されず、急性的な変化が(主に)考慮されている。
 将来発生する極端な気象イベント(急性的な変化)が、ダウンタイムおよび発電量に与える影響は、収益の変化に換算される。将来における極端な気象イベントが発生する頻度の変化を、発電量減少に関する実証データと組み合わせ、将来の収益に対する影響を評価する。サンプル企業における売上の変化は、当該セグメントに同等の変化をもたらすと仮定されている。
 本報告書にケーススタディとして記載された例では、電力生産に及ぼす物理的影響は、次のように計量評価されている。まず、①発電所の所在地を示す「物理的資産マップ」と、②サイクロン、洪水、猛暑、水ストレス、森林火災などの極端な気象イベントを示す「気候マップ」とを重ね合わせて、③発電設備に対する物理的リスクのエクスポージャを示すマップを作成する。次に、④物理的リスクの影響で変化する、将来の発電量を準備する。①~④を使って、信用格付モデルの主要なインプットである貸出先の売上収益と売上原価について予測される変化を算出する。
 本報告書は、評価手法の強化ポイントとして、次のような項目をあげている。{1}他の燃料タイプ(例えば、原子力やその他の自然エネルギーなど)の施設において、気候が発電量に及ぼす影響を評価する。{2}物理的リスクに関連付けがなされる指標として、売上や売上原価に代わる財務指標を選択する。{3}慢性的な変化による影響など。
 例えば、火力発電所の冷却に使用される水の温度は、発電量を決定する上で重要な役割を果たす。水力発電所では、降水量、蒸発量、雪氷融解量の変化はすべて、河川流量、貯水池流入、そして最終的には発電量に影響を与える。

(6) 不動産セクター 
 不動産セクターでは、極端な気象イベントによって、不動産価格が変化する可能性や、ローン資産価値(LTV)比率の変化を評価する。極端な気象イベントとして、干ばつや極端な暑さは、不動産では考慮されない。不動産セクターで必要な入力データは、不動産の所在地、不動産の価値、貸付残高、ポートフォリオの平均残存貸付期間である。
 不動産所有者のリスクに対する認識、保険の価格設定や利用可能性など、不動産価値と物理的リスクとの間には、様々な要因が相互作用する。その結果、資産価値は物理的リスクの影響を受ける可能性がある。
 本報告書の方法論では、以下の仮定がなされている:①物理的リスクがない場合、不動産の価格変動は発生しない。つまり、将来の不動産価格変動の要因は分析から除外する。②既存の建築物ストックの適応や、新築物件における気象関連の設計基準の変更はない。また、気温の上昇に対処するために更なる設備投資が必要かどうか等も検討されていない。
 将来の物理的リスクがあると判明した物件については、LTVの改定値を算出する。シナリオは、2℃シナリオと4℃シナリオの2つである。(100年に1度あるいは、1000年に1度といった)物理的リスクの平均再現期間は、不動産で物理的リスクが発生する可能性(遭遇確率)に変換される。次に、遭遇確率に不動産価値の変化に関する推定値を乗じ、「不動産価値に対するリスク」を計算する。最後に、当初の不動産の値を「不動産価値に対するリスク」で調整し、LTVの改定値を求める。
 この手法は、個人向け住宅ローン及びIPRE(商業用不動産からのキャッシュフローのみを返済源とする貸出)にも適用できる。

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[注釈]
*1 主に以下を参考にした。
 気象庁、異常気象レポート2014、第2章 異常気象と気候変動の将来の見通し(https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/climate_change/2014/pdf/2014_2-1.pdf)
 筒井純一、[新用語解説]共有社会経済パス、日本気象学会機関紙「天気」、63巻(2016年)No.7、pp.65-67(https://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2016/2016_07_0065.pdf)
*2 主に以下を参考にした。
 河宮・石井・鬼頭・木本、[解説]「21世紀気候変動予測革新プログラム」における,CMIP5実験仕様に基づいた温暖化予測実験、日本気象学会機関紙「天気」、60巻(2013年)No.4、pp.3-26(https://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2013/2013_04_0003.pdf)
 羽島知洋、[解説]地球システムモデルによる温暖化予測情報、日本リモートセンシング学会誌、Vol.38 No.2(2018)、pp.121-124 (https://www.jstage.jst.go.jp/article/rssj/38/2/38_121/_pdf/-char/ja)
 申・高橋・花崎・肱岡、日本域付近の気候予測-CMIP3気候シナリオとCMIP5気候シナリオの比較-、土木学会論文集G(環境) ,Vol.68,No.5,I_159-I_169,2012(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejer/68/5/68_I_159/_pdf)
*3 主に以下を参考にした。
 気象庁、異常気象レポート2014、第2章 異常気象と気候変動の将来の見通し(https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/climate_change/2014/pdf/2014_2-1.pdf)
*4 主に以下を参考にした。
 [新用語解説]放射強制力、日本気象学会機関紙「天気」、56巻(2009年)No.12、pp.29-31 (https://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2009/2009_12_0029.pdf)
*5 主に以下を参考にした。
 筒井純一、[新用語解説]共有社会経済パス、日本気象学会機関紙「天気」、63巻(2016年)No.7、pp.65-67 (https://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2016/2016_07_0065.pdf)
 藤森・長谷川・増井・高橋他、AIMによる新社会経済シナリオSSPの定量化とそのシナリオの特徴、土木学会論文集G(環境) ,Vol.71,No.6(環境システム研究論文集第43巻),Ⅱ_217-Ⅱ_228,2015 (https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejer/71/6/71_II_217/_pdf/-char/ja)
 国立研究開発法人国立環境研究所のWebページ、気候変動研究で分野横断的に用いられる社会経済シナリオの公表(お知らせ) (https://www.nies.go.jp/whatsnew/20170221/20170221.html)
*6 主に以下を参考にした。
 池田賢志、金融監督当局が提唱する気候シナリオ分析ツール、日立総研、Vol.16-1 (2021年5月)、pp.26-33 (https://www.hitachi-hri.com/journal/__icsFiles/afieldfile/2021/05/31/Vol16-1-4.pdf)
 気候変動に関する投資家グループ、中央銀行の気候変動シナリオ:NGFSの解説、2020年8月 (https://www.aigcc.net/wp-content/uploads/2020/08/FINAL_IGCC_AIGCC_Policy-Briefing_Japanese.pdf)
 井上哲也・石川純子、サステイナブル・ファイナンスとデジタル通貨に関するNRIの取り組み-政策・制度面の活動を中心に-、2021年8月4日(https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/report/cc/mediaforum/2021/forum317.pdf?la=ja-JP&hash=8411DAA1CE667748D98717652132E6D7659BDB2C)
 佐志田晶夫、NGFS(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)の動向~ガバナンス強化、作業部会拡充と ECB のステアリングコミティ参加、2020年10月26日(https://www.jsri.or.jp/publish/topics/pdf/2010_02.pdf)
 佐志田晶夫、グリーンスワン・レポートの紹介~気候リスクへの中央銀行、金融規制当局の対応、証券レビュー、第60巻第3号(2020年3月)、pp.66-81(https://www.jsri.or.jp/publish/review/pdf/6003/04.pdf)
*7 主に以下を参考にした。
 日本銀行金融機構局,金融庁総合政策局・監督局、共通シナリオに基づく一斉ストレステスト、日銀レビュー、2020年10月(https://www.fsa.go.jp/news/r2/ginkou/20201006/01.pdf)
 内田善彦、ストレステストの課題と ストレステストの課題と先進的な取組み事例、"ストレステストの先進的な取り組み"ワークショップ討議資料、2010年12月14日(https://www.boj.or.jp/announcements/release_2010/data/fsc1012a1.pdf)
 日本銀行金融機構局金融高度化センター、ストレステストとシナリオ分析、2017年2月(https://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/data/rel170322a15.pdf)
 柿沼英理子、金融当局によるストレステスト①オランダ銀行が実施したストレステストの概要 中央銀行としては世界初の気候関連ストレステストを実施、2020年10月27日(https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/esg/20200727_021665.pdf)
 住友信託銀行、与信ポートフォリオに対するストレステストについて、2010年12月14日(https://www.boj.or.jp/announcements/release_2010/data/fsc1012a2.pdf)
*8 NGFS、NGFS Climate Scenarios for central banks and supervisors June 2020 (https://www.ngfs.net/sites/default/files/medias/documents/820184_ngfs_scenarios_final_version_v6.pdf)
*9 以下の資料を参考にした。参考資料2:用語解説集 (https://www.meti.go.jp/policy/tech_evaluation/c00/C0000000H19/080121_program/program_6_re2.pdf)
*10  Nordhaus, W. D. ,Revisiting the social cost of carbon. Proceedings of the National Academy of Sciences, 114(7), 2017, 1518-1523.
 Howard, P. H., & Sterner, T. , Few and not so far between: a meta-analysis of climate damage estimates., Environmental and Resource Economics, 68(1), 2017, 197-225.
 Kalkuhl, M., & Wenz, L. , The Impact of Climate Conditions on Economic Production. Evidence from a Global Panel of Regions. Working paper, ZBW - Leibniz Information Centre for Economics, Kiel, Hamburg. , 2020.
*11 主に以下を参考にした。
 柿沼英理子、金融当局による気候関連ストレステスト②英中銀が予定する気候関連ストレステストの概要、2020 年 9 月 8 日 (https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/esg/20200908_021749.pdf)
 大島秀雄、気候関連リスクの把握に向けた金融当局の動きと今後の課題― 欧州の中央銀行によるストレステストを中心に ―、2021 年 5月 19 日 (https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/researchreport/pdf/12653.pdf)
*12 Barclays PLC Climate-related Financial Disclosures 2020、Making a difference (https://home.barclays/content/dam/home-barclays/documents/investor-relations/reports-and-events/annual-reports/2020/Barclays-TCFD-Report-2020.pdf)
*13 無秩序シナリオでは、2030年までゼロ。しかし、それ以降2050年まで急上昇し、2050年には二酸化炭素1トンあたり700米ドルと仮定されている。
*14  NGFS、NGFS Climate Scenarios for central banks and supervisors June 2021 (https://www.ngfs.net/sites/default/files/medias/documents/ngfs_climate_scenarios_phase2_june2021.pdf)
*15 小池・長谷川・古川・石川・小嶋、日本の経済・財政のマクロモデル分析―財務総合政策研究所財政経済計量分析室の取組み―、財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成 30 年第2号(通巻第 134 号)2018 年7月、pp.1-12 (https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list7/r134/r134_01.pdf)
*16 Gabriela Aznar-Siguan、David N. Bresch、CLIMADA v1: a global weather and climate risk assessment platform (https://gmd.copernicus.org/articles/12/3085/2019/)
*17 パシフィックノースウェスト国立研究所(PNNL)は、米国ワシントン州に立地する米国エネルギー省傘下の国立研究所である。再生可能エネルギー、地球環境、計算科学、生物、国家安全など、多岐にわたる研究開発を行っている。経済産業省傘下の国立研究開発法人産業総合技術研究所は2017年12月、水素エネルギー社会実現に寄与する新技術を共同開発するために、PNNLと包括研究協力覚書を締結した。
*18 国際応用システム分析研究所(IIASA: International Institute for Applied Systems Analysis)は、1972年10月、成熟社会に共通する諸課題を研究するために、非政府ベースの国際研究所として設立された。東西両陣営主要国が、政治的立場を離れて参加した。冷戦終了後は、地球規模の諸課題の解決に資するシステム分析を中心とする研究を展開し、IPCCのリード・オーサー等をつとめる専門家を擁する世界有数の国際研究所として活躍している。出所:https://www.iges.or.jp/jp/network/iiasa
*19 主に以下を参考にした。
 UNEP-FI、気候変動 さらに長期的な視点へ、気候変動の時代における信用リスクと機会の評 価:TCFDによる提言を試行する16のUNEP FI 銀行ワーキンググループの活動成果報告書 パート1:移行関連リスク及び機会、April 2018 (https://www.unepfi.org/wordpress/wp-content/uploads/2018/12/Extending-our-Horizons-%EF%BC%88%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E5%8F%82%E8%80%83%EF%BC%89.pdf)
 Jerome Hilaire, Christoph Bertram、The REMIND-MAgPIE model and scenarios for transition risk analysis、2 November 2020 (https://publications.pik-potsdam.de/rest/items/item_24665_4/component/file_24697/content)
 Elmar Kriegler, Wolfgang Lucht 、Overview of the PIK REMIND-MAgPIE-LPJml integrated assessment framework 、The World in 2050 Workshop IIASA, 11 March 2015 (https://iiasa.ac.at/web/home/about/events/5_PIK_(Kriegler).pdf)
*20 出所:https://www.jaif.or.jp/cms_admin/wp-content/uploads/2020/12/weo_2020 
*21 450シナリオの名前の由来は、2007年に発刊されたIPCCの第4次評価報告書(AR4)の中で、最も高い確率で産業革命以前からの温度上昇を2℃以下に抑制することができるのが、大気中の二酸化炭素濃度を450ppmに安定化するシナリオであったことによる。
*22 出所:https://www.hptcj.or.jp/Portals/0/data0/material/government/IEA/ETP2020_s.pdf 
*23 出所:https://www.unepfi.org/wordpress/wp-content/uploads/2018/12/Extending-our-Horizons-%EF%BC%88%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E5%8F%82%E8%80%83%EF%BC%89.pdf 
*24 http://michaeljacobsjr.com/FryeJacobs_2012_CrdtRiskSysLGD_JCR_8-1_Spring_pp1-32.pdf 
*25日本銀行、金融システムレポート、2021年4月 (https://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr210420a.pdf) 


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