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SUITSはアメリカ過ぎて見るのが辛い。

 SUITS[フジテレビ、月曜21時]は、個人的には大好きなドラマである。しかし残念なことに、事実として視聴率は低迷してる。その理由の一つは「アメリカ感が過ぎる」ことだと推量している。(NBCとの)契約上、フォーマットの変更ができないためであろうが・・・。
 展開、構成、演出、演技、間合い、掛け合い、台詞。すべてにアメリカ感が過ぎて、違和感を覚える人が多いのではないだろうか。蟹江貢弁護士を演じる小手伸也氏は、作り手の要求に忠実に応えた演技をしていると思われる。過剰なアメリカ感は、仕事ぶりにも表れている。主人公の甲斐正午や鈴木大輔の仕事ぶりは、日本の弁護士とは大きく異なる。
† シーズン1(2018年10月~12月)の平均視聴率は10.8%。シーズン2(2020年4月~10月/コロナによる中断3か月を含む)の平均視聴率は8.5%。

Ⅰ 顧客の立場から言えば、弁護士はコンサルタントであって欲しい。
 弁護士という言葉を聞いて真っ先に思い浮かぶ相手は、知り合いのシステム・エンジニアである。彼は東大法学部を卒業したが司法試験には合格できず、SEになった。彼は「正義の味方になり損ねました。」と言った。正義の味方になりたかった真っすぐな青年が弁護士になれなかったのは残念であるが、日本でも米国でも、弁護士は正義の味方ではない。あくまでビジネスマンである。
 ただ、広く知られているように、米国の弁護士はコンサルタントである。その意味合いは、「スタートアップと大企業のマッチングイベントが、法律事務所主催で行われる」というような表面的な事実に限定されない。
 コンサルタントは顧客のニーズを汲み取って、顧客が抱えている根本的な問題を解決することが仕事である。米国の弁護士の多くは、そういう仕事をする-そして大金を稼ぐ。甲斐正午や鈴木大輔もそうである。SUITS2の第2話が象徴的である。
 対して、ほとんどの日本の弁護士は、まず法律ありきである。法律の条文に顧客の要望を無理やり当てはめて、予見可能な範囲で無難に処理する🔨1
 もう少し具体的に言うと、ほとんどの日本の弁護士は、顧客が何に困っているかを考えずに「Aを主張すれば、法律Bに抵触する可能性があるから、Aを主張するという戦術は止めましょう」という発想をする。そして、そこで止まってしまう。
 米国の弁護士であれば「Aを主張しても本来法律Bには抵触しない。Aを主張することでBに抵触するとしたら、それは顧客を困らせている相手が、Aを主張すればBに抵触する状況を作っているからである。」という発想ができる。故に「Aを主張しつつ、別のCで攻めるという戦術を採りましょう」という所に到達できる。
 日本の弁護士が行っている上記のような仕事であれば、確実にAIで対応可能であろう(もちろん正義の味方であれば、AIの出る幕はない)🔨5。ちなみに、ここで述べた日本の弁護士というのは、若手であればビッグ4(あるいは、TMIを加えて、ビッグ5)に所属している弁護士と捉えても差差し支えない(つまり、マチ弁ではないということ。ビッグ4に入所できるような弁護士は、検察官や裁判官になれるくらいの成績上位者のみである)。
 顧客の立場から言えば、弁護士はコンサルタントであって欲しい。AIで置き換えられるという脅威が、日本の弁護士をコンサルタントにしてくれるのであれば、歓迎すべきことである。もちろん、その場合AIは強力なサポートツールになるだろう。
🔨1 ジュリストNo.1062(24年10月号)の書評において、井関涼子・同志社大学教授は、著者(が巻末に書いた解説)の
 「きわめて複雑な技術を扱う場合にも、陪審員や裁判官に判断が委ねられるのは、民主主義制度の特質であり、専門家や技術系出身者による単独統治よりも優れている。そして、裁判官らが向き合うべきは、事件の真相であり、人間の物語である」
という記述に対して、
 「『日本法が、予測可能性、法的安定性を重んじる』のとは異なる、米国法の真髄を見る思いがした」
と綴っている。ただし『』は、原文にはない。日本の法律関係者で、予見可能性(予測可能性)について、このように感じる人がいることは、ポジティブなサプライズであった。なお、書評の対象となった書籍は「ゲノム裁判ーヒト遺伝子は誰のものか」(みすず書房、2024年)である。
🔨5 ただし米国では、(Levidow, Levidow & Oberman法律事務所所属の)弁護士が、AIの”ハルシネーションを活用”して、実在しない判例を引用した文書を提出する、という事件が起きている(2023年6月)。Levidow, Levidow & Obermanは(おそらく)企業法務は手がけていないだろう(※)し、メディア報道では冠された一流という形容詞が適当かどうかは、分からない。
※ 根拠:フォーブスは、2019年とやや古いが、「企業法務」を手掛ける米国のトップ243法律事務所をリストアップしている(https://www.forbes.com/top-corporate-law-firms)。同リストに、Levidow, Levidow & Obermanは載っていない。
❚余 談❚
 2024年のNature's 10🔨2に、弁護士が選ばれた! その人は、スイスの法律事務所Klima&Recht🔨3の共同設立者で、気候法の専門家であるCordelia Bähr(コーデリア・ベア)弁護士である。「スイスが十分な気候目標を設定していないため、人権を侵害されている」としてスイス女性シニア団体が起こした訴訟で主任弁護士を務め、欧州人権裁判所にて、勝訴を勝ち取った(24年4月)🔨4。この判決は、世界の気候訴訟において画期的な事例と目されている。
 残念ながら、日本の弁護士がNature's 10に選ばれることは、未来永劫ないであろう。
🔨2 Nature's 10とは、英科学誌ネイチャーが毎年選出している「(その年に)科学に影響を与えた10人」のことである。
🔨3 独語で、気候&法 
🔨4 例えば、https://www.greenpeace.org/international/press-release/66344/victory-for-swiss-senior-women-for-climate-protection-climate-protection-is-a-human-right/

Ⅱ 医者がAIで置き換えられるとして、それは患者にベネフィットをもたらすだろうか。
 言わずもがな、弁護士は最難関試験とも呼ばれる司法試験に合格した優秀な人材である。にもかかわらずAIは仕事のやり方に変革を迫る。その本質的な理由は、日本の弁護士の多くが顧客の役に立っていないからである。
 では、最優秀人材の双璧である医者はどうであろう。
 昔々、医者は「病気を診るのではなく人を診る。」といわれていたらしいが、病気を診るようになって久しい。しかし10年以上前に、それはさらに進化していたようだ。有名な精神科医である和田秀樹氏は、医者を目指す君たちへ(PHP研究所、2003)という著書の中で「大学病院の専門分化は予想以上に進んでいて(中略)、病気を診ずに臓器を診る、といわれるくらいだ。」と書いている。もし、これがもっと進んで「臓器を診ずにデータを診る」になったとしたらどうなるだろう。AIに勝てるだろうか。
 『エドワード・フレンケル(青木薫・訳)、数学の大統一に挑む、文藝春秋、2015』は、ラングランズ・プログラムについて書かれた本である❚為参考1❚。著者は(旧ソ連の)数学者であるが、成績優秀でありながらユダヤ人であることを理由に、基礎数学の研究が自由にできず、大学病院の泌尿器科で医者と共同研究をしていた。1980年代後半のことであるが、結果はかなり衝撃的である。的確でさえあれば、わずか4つのパラメータで、90~95%の患者について医者と同じ診断が下せるというものである。それは診断プログラムであり、AIとの親和性は極めて高い。つまり、医者が専門分化に突き進むなら、多くの医者はAIに置き換えられるだろう。ただし、人を診る方向に回帰すれば、その限りではない。
 タイトルの疑問に戻ろう。医者をAIに置き換えようとする動きは、医者を病気ではなく人を診る方向、つまり原点に回帰させる。従って、患者にベネフィットをもたらすだろう。ただし、その場合、AIは医者の強力なサポートツールとなっているだろう。
 ちなみにラングランズ・プログラムとは、(書名から自明であるが)、他の学問と同様に専門分化・細分化された数学を統一する試みとも表現できる数学的アイデアである。
❚為参考1❚
 ちなみに、幾何学的ラングランズ予想は、証明されたらしい。証明した論文🐾1は5本で構成されていて、足し合わせると43 + 448 + 330 + 64 + 54 = 939頁になる。24年5月に発表されたらしいが、1~3本目の論文の"最新"の日付は、2024年9月11日。4本目は9月13日、5本目は9月16日。独マックスプランク数学研究所と米イェール大学の数学者を中心に研究が行われた。
🐾1 1本目の論文は、https://people.mpim-bonn.mpg.de/gaitsgde/GLC/functor.pdf。2本目は、https://people.mpim-bonn.mpg.de/gaitsgde/GLC/Loc.pdf。3本目は、https://people.mpim-bonn.mpg.de/gaitsgde/GLC/Eis.pdf。4本目は、https://people.mpim-bonn.mpg.de/gaitsgde/GLC/ambidex.pdf。5本目は、https://people.mpim-bonn.mpg.de/gaitsgde/GLC/multone.pdf。
❚為参考2❚
 幾何学的ラングランズ予想の証明は、2025年の数学部門ブレークスルー賞を受賞した。

Ⅲ 視聴率をあげるには、フォーマットをイジるしかないでしょう。
 ここまで書いてきたことは、(医者も)弁護士もサービス・ビジネスに従事しているのだから、顧客志向・デザイン思考というトレンドからは逃れられない、 とまとめることができる。
 甲斐と鈴木の仕事ぶりは、日本式ではなく米国式であるが、既にあるべき姿を体現している。そして、その姿は他のビジネスでは当たり前であるから、 視聴者への訴求力にはならない。
 もう少し丁寧に言葉を繋ぐと、「A:現状=不満、B:願望」という環境下で、ドラマがBを描いていれば、それは視聴者への訴求力になるだろう。 しかし一般の日本人は、日本の弁護士がどういう仕事をするか知らない。不満もないし、願望もない。米国式の仕事をしてもピンと来ない(拍手喝采とは ならない)。
 その点、同じ弁護士ドラマでも、99.9[TBS、日曜21時]🐾2やイノセンス冤罪弁護士[日本テレビ、土曜22時]🐾3は、訴求力の設計が容易である。
 仕事ぶり以外の訴求点を設計して、アメリカ感を薄めなければ視聴率の向上は見込めないだろう。そこで問題になるのは、フォーマットである。
 B2Cビジネスを展開している外資系企業の日本法人は、同じ苦労をする。日本法人のプレゼンスが大きくなるまで、日本の顧客ニーズに合った商品が(タイムリーに)供給されることはない。
 ただ米国版と異なっている点もいくつかある。
 例えば、検察は刑事専門である。故に検事を辞めて弁護士になっても、企業法務に携わることは、ほぼなく、刑事事件専門の弁護士になると言われている。ただ刑事弁護は稼げない。そのような背景から、いわゆるヤメ検は、稼ぐために裏社会の代理人弁護士になることが多い。
 甲斐も、99.9の佐田篤弘弁護士(演者は香川照之氏)も検察出身であるが、企業法務に携わっている(ただし劇中で佐田弁護士は、嫌々ながら刑事事件に専念していく)。米国版では、甲斐に対応する弁護士は、経験を積むために研修として検事補をやっていたらしい。フォーマットを多少いじれるのだろうが、非現実的な方向にいじっても無意味な気がする。
🐾2 主演は、(アイドルグループ嵐の)松本潤。シーズン1は2016年4月17日~6月19日、シーズン2は2018年1月14日~3月18日放送。2021年12月30日、映画版が公開。興行収入は、30億円を超えている(22年興行収入第7位)。
🐾3 主演は、坂口健太郎。2019年1月19日~3月23日放送。

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