MerchantBank Consulting
 
 
 

M&Aにおける買収価格の調整

 ちなみに服部[2018]には、「株価は間違っていても、やはり株価です」という稲盛和夫氏の深い言葉が記されている。
Ⅰ クローバック
 日本において、クローバックという用語は、武田薬品工業が2020年度から導入すると発表したことで知られるようになった。そのせいで、クローバック=「決算内容に重大な修正や不正があった場合に役員報酬を会社に返還させる制度」と認識されているようである。
 実際には、クローバックの概念はもっと広い。M&Aの文脈で言えば、表明保証違反や一定期間におけるKPI未達等に該当した場合、あるいは提訴されて損失が発生する可能性がある場合に、売り手が買い手に買収価格の一部を返還する取り決めをクローバック(条項)と呼ぶ。(ベンチャーキャピタル含む)投資ファンドの文脈では、ジェネラルパートナーに過剰に支払われた報酬をリミテッドパートナーに返還する取り決めをクローバック(条項)と呼ぶ。
 エスクローやホールドバックも構造は同じである。というより、クローバックを実行する手段として、エスクローやホールドバックが使われる。一度払った金員を返還させるのは(少なくとも)事務的に大変であるから、予め該当資金を確保しておく。契約で定めた期間内に損失が発生しなければ、当該資金を売り手企業の株主に支払う。損失が発生すれば、当該資金から費用を控除して、支払う。支払いの図式は、アーンアウトと同じである。KPI未達のクローバックは、まさにマイナスのアーンアウトと言える。
 アーンアウトでは、買収金額を調整するために業績やKPI等をウォッチする期間は、通常3~4年 (コロナは、この期間を1~2年に短縮したよう) である。KPI未達のクローバックであれば、期間はアーンアウトと同程度となるであろうが、表明保証違反であればもっと短いであろうし、訴訟を抱えている場合は長くなるだろう。
 日本のM&Aでクローバックが使われた事例はないと言われているし、事実と思われる。ただ、マネックスグループがコインチェックを買収した案件で使われたアーンアウトには、「一定の事業上のリスクを控除して算出される金額を追加で支払う」との条件が付されている。これは実質的なクローバックと言えるかもしれない。
 米国では、日本とは打って変わり、かなりの割合でクローバック条項が付されている。2020年は、M&A案件の25%にクローバック条項が付けられていた。2019年は、67%のM&A案件にクローバック条項が付けられていた。[*1]
 具体例としては、グーグルがキーホールを買収した案件でクローバック条項が付けられている。グーグルによる買収提案時、キーホールは、イスラエルのスカイライン・ソフトウェアというスタートアップから特許権侵害で提訴されていた。しかし、グーグルはクローバック条項で訴訟関連費用を買収額から控除するというリスク回避策を採って、キーホールの買収に踏み切った[*2]。キーホールは、現在グーグルアースで知られているサービスを開発したスタートアップで、グーグルマップの開発にも大きく貢献した。加えて言えば、キーホールのファウンダーであるジョン・ハンケは、ポケモンGOを開発したナイアンティックの創業者でもある。
 ちなみに、このディールにはアーンアウト条項も付されていた。マイルストーンは獲得ユーザー数50万であった。

 クローバック条項が、別の意味で、脚光を浴びているかもしれない。サリー・イエーツ米国司法省副長官により2015年9月9日に発出された、イエーツ・メモでは、「不正行為に関与した全ての個人を特定し、・・・」とされていた。3年後の2018年11月29日、ロッド・ローゼンスタイン副長官は「犯罪行為の主要な関与者・・・」と発言し、一旦揺り戻しが起きた。さらに3年後の2021年10月28日、リサ・モナコ副長官は、(旧)モナコ・メモを発出し、「不正行為に関与した全ての個人を特定し、・・・」とイエーツ・メモに回帰した。
 モナコ副長官は、21年10月時点で予告していたアップデートを、2022年9月15日に行った。その舞台は、ニューヨーク大学ロースクールでの講演であり、その内容は(新)モナコ・メモとして同日発表された。役員のみならず、一般社員にもクローバック条項類似の制度導入を推奨するのは、「全ての個人」を対象にしているからと考えられる。そうであれば、23年2月20日付け日経15面の記事は、ややミスリードと考えられる。
 また、BYODに関する議論であるが、正確には、エフェメラル系暗号化通信アプリの使用が問題視されている。つまり、一定時間経過するとメッセージが消えてしまうアプリを問題視している。エフェメラル系アプリをインストールした通信端末で、業務を行わないことを誓約させることは、それほど高いハードルではないと思う。

Ⅱ アーンアウト・CVR
 M&Aの世界では、アーン・アウトやコンティンジェント・バリュー・ライト(CVR)[*3]といったテクニックを使うことで、ディールを前進させることが昔から行われている。
 アーン・アウトとCVRは、よく似ている。アーン・アウトとは、「売上やEBITDA等が、予め定めた数値を超えたら、被買収企業の株主に追加支払いが発生する」という構造である。
 一方、CVRとは、「被買収企業の株主に請求権が付与され、それを買収企業が買い戻すことで、被買収企業の株主に支払いが発生する」という構造になっている。
 しかし、どちらも被買収企業の株主に、追加支払いが発生する点では同じである。両者の本質的な違いはどこにあるのか。
 アルザック(2008)には、「CVRは尺度として、一般に株価が用いられる」、とある。また、谷山(2010)には、「CVRは、株価に条件づけたペイオフを支払う契約形態である。(中略) CVRは、完全に買収企業の傘下に入らない条件で実行される」とあるが、これは誤りである。サノフィ・アベンティスがジェンザイムを買収した案件で用いられたCVRが反例である。
 実は、アーン・アウトは非公開企業向けで、CVRは公開企業向け、というのが、本質的な違いである。日本語でCVRを正しく定義している文献は見当たらない。英語だと、例えば、米法律事務所モルガン・ルイスがWebで公開している資料[*4]には、正しく紹介されている。
 被買収企業の株主に提供される「追加支払いを受ける権利」は、被買収企業が米国市場に公開していれば、SECへの登録が必要になる。そこで、煩雑なSECへの登録を避けるために、アーン・アウトは非公開企業に対して適用される。
 一方、公開企業であっても、場合によっては「同権利」を活用したいというニーズはあり得る。その場合は、同じ効用であってもCVRと呼ばれることになる。もっとも、いずれにせよSECに登録するのであれば、CVRは(ついで?に)「譲渡可能・市場取引可能」と設計することが少なくない。その場合CVRは、(結果的に)アーン・アウトとは、顕著に異なる性質をもつことになる[*5]。
 以上のような背景があるためCVRは、煩雑なSECへの登録を要しても使う価値がある、特定セクター(具体的には製薬企業)のディールに使われることが多い。
 なお、CVRには「アーン・アウト的CVR」と「価格保証的CVR」がある。アーン・アウト的CVRは、アーン・アウト同様、財務数値に応じて価値が決まる。
 一方、価格保証的CVRは、株式を対価とするM&Aあるいは株式を対価の一部に含むM&Aで、買収企業の株価の変動によって被買収企業の株主が被る損失を補償する目的で使われる。なお、将来の平均株価をトリガーとするCVRの評価をする場合には、アジアンオプションのバリュエーションが必要である。解析解はないが、近似式はいくつか存在する:幾何平均を使った近似式、Curranの算術近似式、TurnbullとWakemanによる算術近似式、Levyによる算術近似式等である。
 価格保証という意味では、米シティ・グループによる日興コーディアル・グループの完全子会社化(TOB+株式交換)で、「変動制交換比率方式」が提案されていた(ただし、実行されなかった)。
 サノフィ・アベンティスによるジェンザイム買収で重要な役割を果たしたCVRは、アーン・アウト的CVRであり、(株価ではなく)財務数値に応じて価値が決まり[*6]、公開市場で取引可能となる。ちなみに、2004年サノフィ・サンテラボがアベンティスと合併した時も、合併比率の調整がなされている。サノフィ・サンテラボの新薬開発が失敗した場合には(サノフィの価値が下がるから)、ワラントを発行するという内容であった。さて、アーン・アウトやCVRは日本で有用だろうか。
 アーン・アウトあるいはアーン・アウト的CVRは、極めて優秀な人材をM&A後に退社させないために用いられることが多い。極めて優秀な人材の多大な貢献で画期的な製品を生み出し、収益を上げることが期待される企業が被買収企業である場合には、有用であろう。
 日本であれば、ゲーム会社やソフトウェア開発会社が該当するだろう。製薬企業のディールにも多用されるようになれば、創薬系ベンチャーの研究開発力の観点から見れば、望ましい状況と言えるだろう。
 一方、価格保証的CVRであるが、以前の日本であれば有用ではなかった。長らく、日本で株式を対価とするM&Aは、合併と株式交換であった。日本では、まず合併や株式交換を将来実行することが発表され、肝心の合併比率や株式交換比率は、後日発表された。また、そもそもM&Aの意思表明をしてから実行されるまでの時間が長い。このような環境では、価格保証というスキームに、大きな価値はなかった。合併であれば日本の場合、極端に対等合併を好む傾向があるから、やはり価格保証というスキームが馴染まなかった。
 2021年4月1日、「株式対価M&Aを促進するための措置の創設」を含む「所得税法等の一部を改正する法律」が関連政省令と併せて施行され、課税の繰り延べを含めて、株式交付が実践的になった。つまり、買収対価として株式と現金に、差異はなくなったと考えて良い。また2019年6月28日に、経済産業省が「公正なM&Aの在り方に関する指針―企業価値の向上と株主利益の確保に向けて」公表したことにより、公正な価格への意識が一層高まったと考えられる。
 このため、2021年時点では、日本でも価格保証的CVRは有用と思われる。

Ⅲ CVR及びアーンアウトの事例
 以下のような例がある(完全性や網羅性はないことに注意)。
(1)製薬企業のCVR
 ◇ 1989年Merrel DowによるMarion Laboratiries買収[*7]
 ◇ 1990年Rhone-PoulencによるRorer買収
 ◇ 2003年OSI PharmaceuticalsによるCell Pathways買収
 ◇ 2004年ViroLogicによるAclaraBioSciences買収
 ◇ 2008年Endo PharmaceuticalsによるIndevus Pharmaceuticals買収
 ◇ 2008年FreseniusによるAPP Pharmaceuticals買収
 ◇ 2008年ViroPharmaによる LevPharmaceuticals買収
 ◇ 2008年Ligand PharmaceuticalsによるPharmacopeia買収
 ◇ 2009年Ligand PharmaceuticalsによるNeurogen買収
 ◇ 2010年Ligand PharmaceuticalsによるMetabasis Therapeutics買収
 ◇ 2010年Emergent BioSolutionsによるTrubion Pharmaceuticals買収
 ◇ 2010年CelgeneによるAbraxis BioScience買収
 ◇ 2013年Cubist Pharmaceuticals,IncによるTrius Therapeutics買収[*8]
 ◇ 2019年Bristol-Myers Squibb によるCelgene買収[*9]
 ◇ 2019年IpsenによるClementia Pharmaceuticals買収[*10]
 ◇ 2023年協和キリンによるOrchard Therapeutics買収[*53]

(2)製薬企業以外のCVR
 以下のような例がある。数が少ない。
 ◆ 1994年パラマウントを巡るQVCとバイアコムとの争い[*11]
 ◆ 2000年ジェネラル・ミルズによるピルズベリー買収(合併)

(3)アーンアウト
 以下のような例がある。(誤植を修正しました。)
 1) 2004年:マイクロラインがペンタックス社に買収された案件。買収金額は、$47mil、アーンアウト$1mil。
 2) 2004年:レイカル・インスツルメンツ[*12]が、EADSに買収された案件。買収金額は、$105mil。アーンアウト$25mil。
 3) 2004年:NetPress Solutions[*13]とHeidelberg Digital[*14]がコダックに買収された案件。買収金額は最大$150mil。
 4) 2004年:Performics[*15]がDouble Click[*16]に買収された案件。買収金額$58mil。アーンアウト$7mil。
 5) 2005年:スカイプがイーベイに買収された案件[*17]。買収金額$2.6bil、アーンアウト$1.5bil。
 6) 2005年:LowerMyBill.com[*18]がエクスペリアン[*19]に買収された案件。買収金額は$330mil。アーンアウト$50mil。
 7) 2006年:ハーモニクス・ミュージック・システムズ[*20]がMTVネットワークス[*21]に買収された案件[*22]。買収金額$175mil。アーンアウトはEBITDAが$32milを超えた場合に超過額の3.5倍を支払う(上限なし)というもの。
 8) 2007年:クラブ・ペンギン[*23]がウォルト・ディズニーに買収された案件[*24]。買収金額$350mil、アーンアウト$350mil。
 9) 2009年:リテール・コンバージェンス[*25]がGSIコマース[*26]に買収された案件。買収金額$180mil、アーンアウト$170mil。
 10) 2010年:Playdom[*27]がウォルト・ディズニーに買収された案件。買収金額$563mil、アーンアウト$200mil。
 11) 2010年:ngmoco[*28]がDeNAに買収された案件。買収金額$303mil、アーンアウト$100mil。
 12) 2010年:Ion Torrent[*29]がLife Technologies[*30]に買収された案件。買収金額$725mil。アーンアウト$350mil(最大)。
 13) 2011年:HauteLook[*31]がノードストローム[*32]に買収された案件。買収金額$180mil、アーンアウト$90mil。
 14) 2011年:PopCaP Games[*33]がエレクトロニック・アーツ[*34]に買収された案件。買収金額$750mil、アーンアウト$550mil(最大)。
 15) 2011年:OmniProbe[*35]が、オックスフォード・インスツルメンツ[*36]に買収された案件。買収金額$19.2mil。アーンアウト約$19mil。
 16) 2012年:Actavis Group[*37]がWatson Pharmaceuticals Inc[*38]に買収された案件。買収金額€4.25bil、アーンアウト€0.25bil[*39]。
 17) 2012年:InnovAsian Cuisine Enterprises[*40](の株式51%)がニチレイによって買収された案件。買収金額$5.4mil、アーンアウト$5.6mil[*41]。
 18) 2017年:3ミニッツ[*42]がグリーに買収された案件。買収金額42億円。アーンアウト:今後3事業年度に及ぶ3ミニッツ社の業績に応じ、追加代金を支払う(内容は非開示)。
 19) 2018年:コインチェック[*43]がマネックスに買収された案件。買収金額36億円。アーンアウト:今後3 事業年度に及ぶコインチェックの業績に応じ、最終利益の2分の1を上限に支払う。
 20) 2018年:Quartz[*44]がユーザベース[*45]に買収された案件。買収金額$100mil。アーンアウト$35mil[*46]。
 21) 2022年:Nimbus Therapeutics[*47]の子会社ニンバス・ラクシュミ[*48]が武田薬品工業に買収された案件。買収金額$4bil。アーンアウト$2bil(最大):売上高が$4bil、$5bilを越えた場合、それぞれ$1bilを支払う。
 22) 2023年:cargo-partner GmbH[*49]他63社が、Nippon Expressホールディングスに買収された案件。買収金額€845mil。アーンアウト€555mil(最大):対象会社の業績が株式譲渡契約において規定された一定の財務指標を達成することが条件[*50]。
 23) 2023年:Qpex Biopharma[*51]が、塩野義製薬に買収された案件。買収金額US$100mil。アーンアウトUS$40mil(最大):開発のマイルストーンの達成に応じて支払う。
 24) 2023年:JPI[*52]が、住友林業に買収された案件。買収金額US$158mil。アーンアウトUS$57mil(最大):買収後3年間の"業績"に応じて支払う。
 25) 2023年:サントリーの関連会社クルボアジェ[*54]が、伊カンパリ・グループ[*55]に買収[*56]された案件。買収金額US$1.32bil。アーンアウトUS$1.2bil(最大)。2028年に売上目標が達成されたら、29年に支払われる[*57]。
 26) 2023年:米Xperi Inc.のオート・センス事業[*58]が、スウェーデンのトビー[*59]に買収[*60]された案件。買収金額US$45mil。アーンアウトUS$19mil。販売台数及び導入目標を達成した場合、2031年($45milの支払いが終わる年)に支払われる[*61]。

【脚注】
*1 https://citywireusa.com/registered-investment-advisor/news/deal-structures-shift-to-give-sellers-more-certainty/a1383876
*2 ビル・キルディ(大熊希美訳)、NEVER LOST AGAINグーグルマップ誕生、TAC出版、2018
*3 E.アルザック(斎藤進 監訳、菅原・桂・上木原 訳)、合併・買収・再編の企業評価、中央経済社、2008、には「条件付価額受領権」という訳が付されている。なお「不確定価額受領権」という訳語もあるようである。協和キリンがOrchard Therapeuticsを買収した案件(23年10月)のプレスリリース(https://www.kyowakirin.co.jp/pressroom/news_releases/2023/pdf/20231005_02.pdf)には「成功対価受領権」という訳語が付いている。これは、アーンアウト型CVRでは、正しいだろう。
*4 Morgan Lewis, "Preparing for a Biotechnology M&A ? Corporate and Regulatory Insight to Keep Ahead of the Competition", October 28, 2010
*5 CVRであってもSECに登録しなくてよい場合がある。その場合の要件(5つ)は、ノーアクションレターを通じて、SECが明らかにしている。*4の資料p.33を参照。
*6 プレスリリースによれば、サノフィアベンティスがジェンザイムの株主に割り当てるCVRは最大で$14の価値を持つ。より詳細には、以下のような価額が付く(全てを網羅していないことに注意)。
・ 白血病用医薬品Lemtradaの、(難治性中枢神経疾患である)多発性硬化症への適用拡大がFDAによって(最終的に)認められれば、CVRに$1の価額が付く。
・ 全世界での正味売上(注:返品を除いた売上)が$1.8bilを越えたらCVRに$3、$2.3bilを越えたら更に$4(つまり合計$7)、$2.8bilを越えたら更に$3(つまり総計$10)の価額が付く。
*7 67%の持分取得。ちなみに、マリオン・メレル・ダウ、仏ルセル・ウラアと米ヘキスト・セラニーズが合併してヘキスト・マリオン・ルセルが設立。このヘキスト・マリオン・ルセルは仏ローヌ・プーラン・ローラーと合併し1999年アベンティスが誕生した。さらに、アベンティスとサノフィ・サンテラボが合併することで、サノフィ・アベンティスが生まれた。
*8 $13.50ドル/株、総額$707milのディール。CVRは、販売マイルストーン達成を条件に、最大$2ドル/株。CVRを含む買収総額は最大$818mil。
*9 ニューヨーク証券取引所で取引されていたCVRが、2021年1月1日付けで失効した。3つ存在するマイルストーンの一つである、2020年12月31日までのFDA承認が取得できなかったため。BMSが承認申請していたのは、B細胞活性化を制御するB細胞特異的分子「CD19」を標的とした再発・難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫のCAR-T細胞療法。
*10 CVRは、最大最大$6ドル/株。CVRを含む買収総額は、最大で$1,310mil。
*11 当該ディールでは、バイアコムは現金と株式の組み合わせで買収提案していた。バイアコムの株価が一定価格に達しなかった場合、追加で株式を発行するという態様のCVRを付していた。
*12 電子機器の測定器メーカー/航空防衛関連システムのテストベンダー。
*13 デジタルカラー印刷の会社。Heidelberger Druckmaschinenとコダックのジョイントベンチャー。
*14 デジタルモノクロ印刷の会社。Heidelberger Druckmaschinenの子会社。
*15 アフィリエート・マーケティングの会社。
*16 ネット広告会社。
*17 イーベイは2009年、スカイプを投資ファンドグループに売却した。同グループは、シルバーレイクが中心となって構成されている。
*18 ローンの借り手と貸し手を結びつける米サイト運営会社。
*19 エンタープライズ・ソフトウェアを開発・販売している英国企業。
*20 音楽ゲーム会社。
*21 バイアコムの事業部門の一つ。
*22 ハーモニクスは投資会社コロンバス・ノバに売却されたことが2010年12月23日に発表された。
*23 SNS/仮想空間運営会社。
*24 $500milを提示したソニーとの交渉が決裂、最終的にディズニーが買収。この2社以外にも、AOLやバイアコムが応札していたようである。
*25 プライベート・セール・サイト運営会社。
*26 電子商取引市場運営会社。
*27 オンライン・ソーシャル・ゲーム会社。
*28 ゲーム開発会社。
*29 新型シーケンサー開発会社。
*30 バイオテクノロジー用ツール開発会社。
*31 プライベート・セール・サイト運営会社。
*32 大手百貨店。
*33 ゲーム開発会社。
*34 ゲーム開発会社。
*35 ナノスケールでのマニュレーションを可能にする製品を製造販売している米社。
*36 微小スケールでの分析やマニュピレーションを行う製品の製造販売会社。英オックスフォード大学初のスピンアウト企業。
*37 (アイスランド及び)スイスに本社を置くジェネリック医薬品メーカー。日本のあすか製薬とJV「あすかActavis製薬」を設立していたが2017年4月1日付けで、あすか製薬が吸収合併した。
*38 米ジェネリック医薬品メーカー。
*39 2012年の業績によって決定する。
*40 米食品企業。
*41 3年間(2012、13、14事業年度)の業績により決定。食品企業のアーンアウト・ディールは珍しい。
*42 女性向け動画メディアなどを運営する企業。
*43 暗号資産(仮想通貨)取引所を運営する企業。
*44 米経済メディア運営会社。
*45 日本の経済メディア運営会社。
*46 アーンアウトの詳細は以下の通り。新株予約権が最大2500万ドル、現金が最大1000万ドル。マイルストーンは、Quartz社の2018年12月期における(所定の条件を満たす)売上高と期末時点における有料課金ユーザー数。
*47 酵素(多くは、リン酸化酵素)を創薬ターゲットとする。モダリティは、低分子化合物。計算化学(分子動力学)をコア技術とする。そこに、生物物理学や構造生物学・タンパク質科学、遺伝学等の知見を加えて、創薬ターゲットをスクリーニングしている。
*48 実態として、選択的TYK2(チロシンキナーゼ2)アロステリック阻害剤の獲得。TYK2は、免疫シグナル伝達を仲介する重要なシグナル伝達キナーゼ(※キナーゼ=リン酸化酵素)。ニンバスは、遺伝子研究により、TYK2の変異が、乾癬を含む多数の自己免疫疾患及び炎症性疾患と関連していることを明らかにした、と主張している。ニンバスの選択的TYK2アロステリック阻害剤は、AI由来の臨床パイプライン資産だという。
*49 航空・海上フォワーディングを主とする物流事業。製造事業者の生産拠点の多い中東欧に強固な事業基盤を有し、アジアー欧州間のトレードレーンにおける貨物取り扱いに強みを有する(cargo-partnerの株式取得(子会社化)について[*50]より引用)。
*50 cargo-partnerの株式取得(子会社化)について(https://pdf.irpocket.com/C9147/bU43/hx2Z/glYq.pdf)、23年5月12日、3頁。ロジスティクス分野でのアーンアウト・ディールは珍しい。
*51 抗菌剤の研究開発を行っている創薬スタートアップ。本社所在地は米加州サンディエゴ、創業は2018年。β-ラクタマーゼ阻害剤Xeruborbactamの治験を実施中。β-ラクタマーゼはβ-ラクタム抗生物質を分解する酵素。細菌は、β-ラクタマーゼ(による抗生物質の効果を不活性化すること)により耐性を獲得する。
*52 米テキサス州とカリフォルニア州で集合住宅の開発事業を行っている企業。住友林業のプレスリリース(https://sfc.jp/information/news/pdf/2023-09-29-03.pdf)によると、JPI社は『集合住宅の開発に関する土地取得・開発管理・施工管理・資産管理機能を保有。賃料を抑えた集合住宅から高級集合住宅まで幅広く開発しており、2022年の着工戸数は全米8位と安定した成長を続けている』。
 全米住宅建設業協会や全米集合住宅協議会によると、米集合住宅市場は、23年~24年にかけて軟調と予測されている。アーンアウトは、このような状況を反映しているのだろう。
*53 被買収企業Orchard Therapeuticsは英国企業で、ADS(米国預託株式)が米国市場で取引されている(つまり、米国の"上場"企業)。Orchardは、希少疾患を対象とした遺伝子治療薬を開発しており、造血幹細胞遺伝子を改変するというアプローチに特色がある。
 買収金額は、US$16/ADSで、CVRはUS$1/ADS。US$16は、過去30日のVWAPに144%のプレミアムが加えられた金額。買収スキームはスキーム・オブ・アレンジメント(SoA)、買収総額約US$387.4mil(CVR込みだと、約US$477.6mil)。
 当該CVRは「譲渡不可」で、アーンアウト型。条件は、FDAの承認(処方薬ユーザーフィー法が課す目標・承認審査期限は24年3月18日)。FDA審査の対象となっている薬は、早期発症の異染性白質ディストロフィーを対象としている。
 少ないCVRと大きなプレミアムから、協和キリンは「FDA承認(とOrchardの技術)」を信認しているが、市場は信認していない、と考えられる(規制当局の承認等を、通常、市場は織り込まない)。
*54 買収対象は、やや複雑であるが、以下の通り:"トップ4"の歴史的コニャック・メゾンであるクルボアジェのオーナー「クルボアジェS.A.S.」の株式資本を100%保有する、ビームホールディング・フランスS.A.S.の発行済株式資本100%。S.A.S(Société par action simplifié)は、単純型株式会社を意味する。フランス法における新しい会社形態で、出資者は1名以上、最低資本金規制なし。
 買収対象には、2023年10月31日時点で約3億6,500万米ドルの簿価を持つ熟成中のブランデー在庫が含まれており、将来のブランド開発を支えるバランスの取れた熟成年数で構成されている。他には、商標、蒸留所、倉庫、ブドウ園、ビジターセンター、シャトー、ブレンド施設、熟成セラー、自動瓶詰工場からなる包括的な生産施設も含まれる。
*55 イタリアの酒造メーカー。ポートフォリオは、食前酒・テキーラ・バーボン及びコニャックの4つ。基本的に、M&Aで成長を遂げてきた(例えば、仏を拠点とする蒸留酒メーカーの買収は2016年以来7件目)。M&Aは、同業界の基本的な成長戦略であり、ディアジオやペルノ・リカールも採用している(広く言えば、ビールメーカーやサントリーも同じ)。
*56 プレスリリース(https://www.camparigroup.com/sites/default/files/downloads/2023_12_14%20Courvoisier%20Press%20Release%20ENG.pdf)によれば、12月14日に独占交渉を開始し、サントリーにプットオプションを与えた、となっている(つまりfeeは、カンパリに支払われているはず)。
*57 足元で、コニャックの売上は鈍化しており、クルボアジェの10月末までの10ヶ月間の売上高は、前年同期比で33%減少している(出所:https://www.thedrinksbusiness.com/ja/2023/12/campari-to-buy-courvoisier-for-us1-32bn/)。一方で、カンパリは買収企業を、買収後に大きく成長させた実績がある。それらを背景にアーンアウト・ディールとなったのだろう(ディールをクローズさせるためには、合理的な発想)。
*58 正確には、DMS(運転者モニタリング・システム)、OMS(同乗者モニタリング・システム)などの自動車向けセンシング・ソリューションを提供するオート・センス事業を含む、FotoNation Ltd.が買収対象。DMS/OMSは、センサーを使用して運転者・同乗者の状態を分析し、状態に応じて、「警告を発する、ブレーキをかける、あるいは自律的に車体の動きを制御する」。
*59 アイトラッキングのグローバルリーダーを自任している。トビーの技術・ソリューションは、自動車、拡張現実、ゲーム、ヘルスケア等多くの分野に展開されている。
*60 買収契約は23年12月13日に締結されている。買収金額US$45milのうち、US$30milを、約束手形(金利8%)で2027年から3年かけて(27~29年まで)支払う。利息も同じタイミングで支払う(つまり年1回まとめて払う)。US$15milは、2028年から4年かけて(28~31年まで)支払われる。
*61 出典:https://a.storyblok.com/f/149538/x/9508a2f498/tobii-acquires-autosense-investor-presentation-13-dec-2023.pdf

 参考文献
服部暢達、ゴールドマン・サックスM&A戦記ー伝説のアドバイザーが見た企業再編の舞台裏、日経BP、2018

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